『山羊座の貴方の今日の運勢は、ごめんなさ〜い、最下位!』
毎朝7時の2分前に放送される占いを、私はトースト片手に食い入るように見つめている。
自分のせいでもないのに謝るアナウンサーの声に、私の心はあーあとガン凹み。
『何をやっても裏目に出るけど、たまには人に親切にしてみたら? 今日のラッキーアイテムはアンケート!』

・・・・・・。
あのね、『何をやっても裏目に出る』ってわかってて『人に親切にする』人がいるわけないでしょーが。
釈然としないながらも、頭の中で『最下位、最下位』と明るい声がエコーする。

 

 

アンケートお礼SS その3
 enquete jeune 3
 

 

「アンケートにご協力お願いしまーす。」
地下鉄の出口を出ると、すぐ脇にある児童公園の入り口の所でスーツの女性が道行く人々に声を掛けていた。
有名な女性向け雑誌の名前が入った腕章をしたその人は、こんな朝早くから必死に笑顔を振りまいて1枚でも
多くの意見を集めようと頑張っているみたいで、なんだか居た堪れない。
こんな地味な仕事、5月だから新入社員なのかな、それともバイトかな。
一瞬のうちにいろんな考えが思い浮かんだけど、それも所詮はあたしの平凡な1日に埋もれて・・・

『人に親切にしてみたら?』『今日のラッキーアイテムはアンケート!』
稲妻のように、あたしの脳裏を過るアナウンサーの明るい声。
・・・。
幸い登校時刻まではまだ時間があるし、やっても、いいかな。

「あの、アンケートにご協力お願いします。」
近づくあたしにも営業スマイルを振り撒き、彼女は白い紙を差し出してきた。
使い捨てのクリップ鉛筆がくっついたそれを受け取り、あたしは公園のベンチに腰掛ける。
周囲を見渡すと、うちの学生をはじめ、他所の学生や出社前のOLさんなんかがちらほら見受けられた。
・・・まさかこの人たち、みんな山羊座じゃないでしょうね?

アンケートの内容は『女性の恋愛の現状と実態』なんて書かれていて、小さく溜息が出る。
はい、早速、裏目キタ。
恋愛なんて、まだ片想いくらいしかないっつーの。
その片想いだって・・・叶いそうもないってのに。
足を組んだ上に鞄を載せ、その上に置いた用紙に向かって唇を尖らせる。

えーと・・・年齢、10代後半。職業、高校生。
まる、まる、と前半はさらさら鉛筆が進む。
恋人はいますか、いーない。
いない方は恋人にしたい人がいますか、 えと、・・・いーる。

いる方は、同じ学校や職場の人ですか、 え、なに、こんな質問、意味あるの?
何故かひとりドキドキしながら、あたしはアンケートを睨みつける。

えと・・・・・・はい。

それまでの設問への答えとは比べ物にならない程小さなまるを書いてしまってから、急に恥ずかしくなって、
消そうにも消しゴムを鞄から取り出さないといけない事に気付き、慌ててペンケースを取り出そうと鞄を開ける。

ひらり、と、白い紙が5月の悪戯風に吹かれて舞い上がった。

「あ。」
しまったと思った時には、通り掛かった人の足元へ用紙がダイブしてしまい、あわあわが加速する。

今日の山羊座の運勢が10位だったら、拾い上げてくれた人が見知らぬ人だったかもしれない。
今日の山羊座の運勢が11位だったら、拾い上げてくれた人がうちの学校の知らない生徒だったかもしれない。

『ごめんなさ〜い、最下位』

最下位、最下位。

足元から徐々にパンアップしたあたしの視線の先は、見知っている顔。
「あら。おはよう、浩美ちゃん。」
しかも見知っているどころじゃない顔だった。
サァーっと音がするほどの勢いで顔から血の気が引いて行く・・・気がする。

「ぶ、ぶ、ぶ、部長! お、おはようございます・・・」
小さくなったまるの原因であるその人が、まさか拾ってしまってくれちゃうなんて。
半ばパニックとなった私の脳が、ふしゅるると煙を吹いて機能停止した。
よ、よりによって、朝から笑顔が素敵な鮎川部長に・・・

鮎川部長は長い髪を耳にかけ、一通り用紙に目を通すとふんふんと2度小さく頷いて私にそれを差し出した。
「そうなのね。 ありがとう、参考にするわ。」
にっこりと微笑みそう言い残して鮎川部長は手を振り、真っ白になった私を残して去って行った。

終わった。
私、終わったよ。
ガッツリ読まれた上に参考にされちゃったよ。トホホ・・・

しばらくその場に立ち尽くしていたら、顔を見る事も出来なくなったその人が、再び姿を現した。
「浩美ちゃん、わたしもアンケート答えてみたの。 悪いけど、一緒にあの人に出してきて。」
うわぁぁぁぁん!
なぜそんなに平然とそんな事が言えるんですか。
そして自分の用紙を私に押し付けると、今度こそ鮎川部長は通学路へと姿を消してしまった。

もういいや、このままじゃ遅刻しちゃうし、さっさとアンケート出してこよ・・・う?
ちらりと私の手の中にある鮎川部長のアンケートを見遣って、足が止まる。

私の頭に、悪魔の囁き 『部長のアンケートだぜ!私のを見られたんだ。見る権利があるよな?』
私の頭に、天使の囁き 『部長のアンケートなのよ!見るなんて失礼じゃない!すぐ提出しましょう!』
勝負は、迷うことなく一瞬で着いた。

ちらりと、表向きにした鮎川部長のアンケート用紙に視線を走らせる。
綺麗な字だけど、少し丸っこいところもあって、それだけで胸がきゅうっと踊る。
そして私は気付いてしまった。
私のまるが小さくなったのと同じ設問に書かれている文章に。

いる方は、同じ学校や職場の人ですか、 はい。同じ部活の後輩Hちゃんです♥

 

Hちゃんって・・・一人しかいないじゃん、うちの部活。

 

 

教訓:世の中、何が幸運へ転ずるかなど、やってみるまで分からない。










fin
ご協力ありがとうございました☆

 

 

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