20000HIT memorial ShortStory
 2Hundred×Hundred


「ねぇ、深流ちゃん。お昼なに食べたい?」
囁きかけて、わたしの肩に頭を預ける恋人の頭を撫でる。
「ん・・・渚さん・・・」
熱に浮かされたような、甘い声でわたしの名前を呼ばれてざわざわと私の心が波打つ。
そ、それって、わたしって事!?
「や、やだ、深流ちゃん・・・いきなりそんな、でも、深流ちゃんがそーゆーな・・・」
予想外の発言に、頬がかあっと熱くなっていくのを感じる。
日も高いうちからそんな、深流ちゃんてば大胆なんだからぁ・・・
「渚さん?・・・あの、返事しただけなんですけど、何か勘違いしてません?」

訝しげに私を見上げた恋人は、つんとわたしの頬を指でつついて立ち上がってしまった。
「え、違うの?」
なんだぁ・・・この前は二人とも生理で出来なかったから、期待したのに。
「渚さんは何でも、すぐそーゆーコトに結び付けるんだから・・・」
すっかり勝手知ったるウチのキッチンでカフェオレを二つ、お揃いのマグカップに作って持ってきてくれた
深流ちゃんの少し怒った顔が、いつ見ても可愛らしい。

「しょうがないじゃない。好きなんだもん。」
マグカップを差し出す手を強引に手繰り寄せてしまいたかったけど、なみなみと内容物が注がれたそれを見て
一瞬でその考えは諦めざるを得なくなってしまった。
「うぇ・・・? も、もう、渚さん・・・」
不意討ちになってしまったのか、深流ちゃんがふいと視線を逸らす。
あー。可愛い。もう、ホント、可愛い。

「ところでさ、深流ちゃん。」
わたしの横でマグカップを傾け始めた彼女の耳元にそっと囁く。
「な、何ですか?渚さん?」
何もするつもりがないのに身構えるなんて、ちょっと酷くない?

「2万って・・・どう思う?」
忘れもしない、深流ちゃんにされた、あの夏の質問。
ちょっと数を増やして仕返ししてみる。
「また! だから、お小遣いで釣ろうとするのやめてくださいって!」
「え、ちょ、違うわよ? そうじゃないって!この前深流ちゃんがそーゆー質問してきたことがあったから・・・」
マグカップを人の頭の上にかざして怒る深流ちゃんに、必死でそれを傾けられないように弁明する。

「あ・・・そーゆーことですか。 んー、そうですねぇ・・・」
急に彼女の怒りが収まって、安堵の溜息をひとつ自分のマグカップに注ぐ。
「真っ先に思いつくのは、隅田川花火大会の2万発の花火とか、『世界でもっとも有名なアリーナ』で知られる
マディソン・スクエア・ガーデンの収容人数が大体2万人とか・・・」
おぉ、出て来る出て来る。さすがは深流ちゃん。博識ねぇ。
「あと思い出深いのは、海底2万マイルですかね。小学生の時、学校の図書室で読みました。」
懐かしそうに虚空を見上げる深流ちゃんの横顔に、つい微笑んでしまう。
「潜水艦のお話よね? わたし、ディズニーシーのアトラクションで初めて知ったの。」
その私の言葉に、ピクリと深流ちゃんが反応する。

「え・・・? 私、行ってないんですけど、渚さん、誰と行ったんですか?」
え・・・? どうしてそんな顔をするの?
別に疚しい事があるわけじゃないけど、そんな顔されたら・・・罪悪感を感じちゃう。
「一昨年の会社の忘年会のビンゴで当たったの。 深流ちゃんと付き合う前の話。」
「だから・・・誰と行ったんですか?」
マグカップをテーブルに置き、ソファーに深く腰掛けた私に覆い被さるように深流ちゃんが抱きついてくる。
私の瞳を見つめる真剣な眼差しは、深い嫉妬と不安を湛えた暗黒の色。
「心配しないで。深流ちゃんがやきもち妬くような相手じゃないから。ただの会社の同期よ。」

安心して欲しいから、深流ちゃんの後頭部に手を回して、小さく口付ける。
「ん・・・キスでごまかさないで下さい・・・」
今にも瞼を決壊させそうな深流ちゃんが出した声は、微かに震えていた。
「ごまかしてなんてないって。本当に何もなかったし、その人の事もただの友達みたいなものだから。ね?」
もう片方の手を背中に回し、落ち着かせるようにさすりながら、再び唇を重ねる。
「ん・・・ちゅ・・・ちゅぅ・・・」
何度も、何度も、ただ優しく唇を押し付けあうだけの、愛しいキス。
「ちゅ・・・ん、渚さん・・・信じますよ? ・・・ん・・・」
「んぅ・・・深流ちゃん・・・わたし、深流ちゃんに嘘なんてつかない。信じて? ・・・はぁ・・・」

わたしは、忘れない。
初めて深流ちゃんに会って、一目惚れしたあの日を。
それから何度も会いたくなって、そして結ばれたあの日を。
深流ちゃんがここに遊びに来てくれるようになって、私の人生が変わったことも。
100回のキスを100日。
でもね。お互いから100回ずつしたら200回になっちゃうよ?

「渚さん・・・うん。・・・ちゅ。」
「深流ちゃん。ありがとう。・・・ちゅ。」

辛かった日も、悲しかった日も、あなたに会えればその日のマイナスなんて全部帳消し。
会いに来てくれるだけで嬉しい気持ちになれる。
言葉を交わすだけで幸せな気持ちになれる。
この胸の奥の気持ち、秘密だけど、世界中に伝えてしまいたい・・・






ありがとう・・・20000HIT☆

 

 

 

 

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「渚さん・・・いま、ヒットって言いました?」
不意に顔を離して、深流ちゃんが低い声でゆっくりと私を見つめる。
「え、ひっと・・・?な、何のこと?」
「あー!また言った!・・・っもう、やっぱり渚さんの事信じらんない!!」
そう言って私の胸に顔を埋めた深流ちゃんの肩がひくひくと小刻みに震えているのに気付く。
「え、な、ど、どうしたの? 深流ちゃん?ねぇ!?」
すっかり動揺した私には、深流ちゃんのその震えが泣いているのではなく笑っているのだという事に全く
気付くことができなかった。

「ちょっとぉ!ごめんってばぁ!」



fin

 

 

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