40000HIT & 2nd anniversary  memorial ShortStory
 4 Hundred×Hundred


「渚さん、正月番組って、どうしてどれもつまんないんでしょうね。」
ソファーに体育座りしたままわたしに背を向けて、テレビのチャンネルをザッピングする事2周。
堪りかねたように深流ちゃんが声を上げたところで、画面は真っ暗になった。
「真剣に観る人がいないから、真剣に作らないって聞いたことあるわね。」
深流ちゃんが持ってきてくれたおせちをパクつきながら、どこで得たのかも分からない知識を披露する。

「なるほど。 それで今はレギュラー番組もつまらないんですね。」
「・・・辛辣なご意見だこと。」
テレビ業界の人には、是非この意見を聞いてもらいたかったわね。

「それにしてもこの煮物、おいしーなー。 深流ちゃんが作ったの?」
淡い期待を頬張って咀嚼しながら、恋人の答えを待つ。
「いえ、煮物は母が。」
あら、残念。 わたしの実家のとは違うけど、出汁が効いた薄味で美味しい。
「そっかー。深流ちゃんのお母さんて料理上手なんだ。 で、深流ちゃんが作ったのはどれ?」
『煮物は』と言った以上、この中に深流ちゃん手作りのお宝が隠されているのは確か。
「・・・えと、蒲鉾と、伊達巻と、海老、ですかね。」

・・・・・・。

「それって、切っただけよね? それに海老って・・・」
「殻を剥きました。」
頭と尻尾が残った海老の焼き物を箸で摘み上げて、あぁなるほどと大袈裟に納得してみる。
「あー・・・ 頑張ったのね。偉い偉い。」
「渚さん、言葉と目の温度差が激しすぎます。」
無意識の私の心情を汲み取ったのか、深流ちゃんはちょっぴりご機嫌下り坂になってしまった。

「あ、これ、のし鶏よね? おせちにお肉があるのってなんか安心するわー。」
表面の香ばしい胡麻を噛み割り半分を口の中に入れれば、ほんのり味噌の香りが心地よい。
「おせちって、日本に食肉の風習が入る前からの伝統だから、海産物以外の蛋白源は本来ないはずですよね。
ということは、最近になってから追加された品目なんでしょうか。 他の料理みたいに、掛詞みたいな縁起担ぎ
とかはあるんですかね。」
深流ちゃんの知的好奇心が疼き出したのか、次々と疑問が湧いて来たみたい。
「ちゃんとあるわよー。 教えてあげましょうか?」
「ホントですか!?」
ぱぁっと輝くような深流ちゃんの明るい笑顔が、わたしにエールを送ってくれているよう。
よぉ〜し、知らないけど、頑張るわよ!

「そぉねぇ〜・・・ あ、鶏肉だけに、ふとりにく●●●●い一年になる!」
ドヤァッ!

・・・・・・。

4秒の沈黙の後、深流ちゃんはソファーから立ち上がってわたしの元に歩み寄ると、嬉しそうにこう言った。
「おーい、赤い着物の人、渚さんから座布団全部持って行きなさい。」
「え?」
深流ちゃんに急き立てられてダイニングの椅子から腰を浮かせると、敷いていたクッションをひょいと引き
抜かれてしまった。
ひ、ひどい・・・

「縁起を担ぐと言えば、重箱の4段目の事も『与の重』とか言って『四』を避けようとしてますね。」
あああぁぁぁ、しかもさらっと話題を変えられてる・・・
そんな悲しい気持ちを、わたしは温かい焙じ茶で飲み下す。
くすん・・・ あぁ、お茶がうまい。

「そうねぇ。 『四と九』は昔から嫌われてる数字よね。」
気を取り直して深流ちゃんに相槌を打つと、不意にわたしの肩に抱き付いてくる柔らかな身体。
「不思議ですよね。『四』なんて縁起の良い数字になれるのに。」
「ほう、その心は?」
箸を置き、深流ちゃんの手にわたしの手をそっと重ねる。

「私と渚さんの『2年』。 合わせて4年分の時間を一緒に過ごして来たんです。 これって、すごく
『四合わせ』な時間だったと思いませんか?」
耳元で囁かれた、吐息混じりの幸せな言葉。
黒豆よりも、きんとんよりも甘いその答えに、胸焼けしてしまいそう。

「深流ちゃん・・・ちゅ。」
首を後ろに傾けて深流ちゃんの顎にキスをすると、身を乗り出すようにして深流ちゃんがわたしの唇へと
キスを返してくる。
「あげたい座布団の分だけ、重ねてあげる。 ・・・ちゅ、ちゅ。」
啄むように、ふっくらした唇を何度も吸う。
わたしを抱き締める腕の力が強くなって、深流ちゃんの切なさが伝わってくる。

「渚さん、今年も、ちゅ、よろしくして下さいね。 ちゅっ。」
「今年だけ? ちゅぴっ、ずっと、ずっと、よ。 深流ちゃん。 ちゅぅっ。」
「ん・・・ うれ、し。 ちゅっ。」

『四合わせ』なら、四と四でハチといわず、イチロク、ザンニー、ロクヨン、イチニッパー・・・
ずっと、ずっと、よろしくね。





ありがとう・・・40000HIT & 2nd anniversary☆

 

 

 

 

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「渚さん」
「なぁに?」
少しとろけた、恋人の言葉に相槌を打つ。
「食事中のキスは、なんていうか・・・ あんまりおいしくないです。」
「あー・・・ そうね。反省しました。」
口の中にある違和感に、言葉の意を汲んで謝罪する。

「じゃぁさ、後で仕切り直し。 ね?」
「そ、それは、構いませんけど・・・ お年玉、4万円ですよね?」
「はぁっ!? そんなにあげられる訳ないじゃない! わたしの収入、知ってるでしょ?」
「そうですけど、記念すべき40000ヒッ・・・」
「え?」

言いかけた深流ちゃんを、わたしは不安な表情で見つめ返す。
まさか、何か恐ろしい事を言おうとしてるんじゃ・・・

「な、何でもありませんっ。 わ、私、歯磨いてきますね。」
「あの、深流ちゃん、歯ブラシ1本しかないんだけど・・・」
「持って来てます。 持って帰るの面倒いから、洗面所にずっと置いといて良いですか?」

あっ・・・
なんか、プロポーズみたい。 きゅんきゅんするぅ。





fin

 

 

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