Beams その2


「いってきまーす」
玄関を閉め、家の門を勢いよく開けて飛び出す。
朝からまるまる1ページ掛けて自己紹介しちゃうなんてさすがボク。
・・・1ページって何だろう?ま、いっか。
適度に雲が浮かんでいる、よく晴れた清々しい朝。
んー。ボクの一年の始まりには相応しい一日になりそうだ。
弾む心が、足取りを軽くしてくれる。そんな気がした。

学校までは徒歩で通学している。
歩いて20分程度掛かるけど、自転車は使わない。
だって、必死こいてチャリのペダルを漕ぐ姿なんて美しくないじゃない?

駅ともバス停とも違う方向から登校するボクは、大通りに出るまではいつも一人。
この大通りの方向から登校してくる学生には美人が多いって、学内ではちょっとした噂になってる。
かつては伝説の生徒会長さんも、この大通りを車通学してたとか。
そんな事を考えながら学校が見える道路に出ると、いつものアレが始まる。

「わー!波崎さんだー!おはよーぉ!」
「あ、ま、真結花さん、おはよ・・・」
「真結花ちゃーん!今日も朝からステキー!」

通学路でボクに降り注ぐ歓声。
正直、公道で騒ぐのは迷惑だし止めて欲しいところだけど、校内で騒がれても困るし・・・
「おはよう☆」
それでもボクは爽やかに返す。
見られる側のささやかなサービスとして、キラリと輝く前歯を春の日差しに覗かせる。
手を振る子、黄色い声を上げる子、もじもじと身体を揺する子・・・
反応は様々。うん。面白いねぇ。

「おはー。まゆー。」
校門まであと僅かのところで必ずボクの横から聞こえてくる普通の挨拶。
「おはよう。千河。」
声の主に振り向けば見慣れたおでこ・・・じゃなくて顔。
「はぁ・・・2年になっても、まゆの人気は相変わらずだねー。」
中学から一緒で、4年連続クラスメイトの彼女は柳 千河。
”普通に接してくれる”友達の中では最も仲がいい、親友とも呼べる存在。
長い髪をセンター分けにして露出している彼女のチャームポイントのおでこが、今朝も全力全開。

「別にボクはなんとも思ってないけどね。」
いつもボクの左側に立つ千河の為に、鞄を右手に持ち替えて校門をくぐる。
「嘘つき。ウザイけど気持ちいーって思ってるクセに。」
軽くうそぶいたボクを、千河は細い縁無しメガネの奥から鋭い視線で突き刺しながら鼻で笑った。

やっぱり親友の目はごまかせないなぁ。
「ウザイの方が強いけどね。ボクの事見てくれる人は無下に出来ないってゆーか、おいしそーなら頂い・・・」
「はいはい。どーぞご勝手に。」
軽く希望を述べようとすると、千河は呆れたように右手をひらひらさせて歩調を速めた。

「あ、あはは。冗談だってばー。」
置いていかれないように少し慌てて、立ち止まった千河の横に並び直す。
立ち止まったのはクラス分けの掲示板の前。
全ての学生がこの前で一度は立ち止まり、そして一喜一憂する。
なかには泣いてる子もいたりして、それを慰めている子がしっかり手を握っているのが視界の端に入った。

「わー!わたし、波崎さんと同じクラスだー!」
「マジでー!いーなー。」
そんな声が聞こえて思わず振り返る。
ふう・・・ボクと言う存在のおかげで、クラス分けに当たり外れが生まれてしまったみたいだ。
唇の端が少し持ち上がってしまった時、ふと目が合ったその子に小さくウインクを投げる。

撃ち抜かれた子は一瞬、ピクッと身体を震わせて固まってしまった。
「ちょっと?どーしたの?」
顔の前で友達にひらひらと手を振られても、呆けたように立ち尽くしてしまっている。
あはは。効いちゃったみたい。
くっくっと笑いを堪えているボクを、隣から鋭い視線が覗き込む。
「まゆ? あんた、今なんか悪さしたでしょ?」
メガネの縁をキラリと光らせて、そのレンズの奥から千河がボクを睨みつける。
「してないよぉ。ちょっと挨拶しただけだってば。」
胸の前で両掌を千河に向け、どうどうと諌める。

 

 

 

 

その1へ     その3へ