Beams その4


放課後−

学校とはかなり離れたその駅は、新しいオシャレスポットとして最近注目されている。
幸いなことにウチの学校の制服は見当たらないようだ。

駅を出てすぐ、二足歩行とも四足歩行ともつかない生物らしき謎のオブジェの前で、あられは待っていた。
「ごめん、遅れちゃった。」
待ち合わせ時刻の3時はボクを待ってくれず、20分ほど前に過ぎてしまったようだ。
でも小走りで哀願ビームを放てば、この程度の事で怒られることはまず無い。
「ちょっ・・・と、遅いわよ・・・」
案の定、語勢が強かったのは最初だけ。
「ごめんね。水泳部の引継ぎが長引いちゃって。キャプテン断るのに必死だったんだ。」
軽く笑うボクを、あられは少し怒った表情を残したままボクの横に並ぶ。
「いいけど、連絡くらいしてよね。去年メルアド教えたでしょ?」
「あー・・・そういえば。次からそうするよ。」
忘れてたことを悟られないよう、次回を期待させる表現でお茶を濁す。

「でもさ、まゆきちってキャプテンとかトップとか好きそうなのに、何で断ったの?」
最近出来たアウトレットモールの方へ歩き出した途端、あられは当たり前のようにボクと手を繋ぐ。
「目立ちたがりみたいに言わないでよ。そんなの面倒くさいだけだし。」
何か勘違いしてるのかな?
ボクは自らすすんで誰かに見てもらいたいなんて思ったことは無い。
イヤでもみんなに注目されるだけなんだけどなぁ。可愛いから。
「ふーん、そーだったんだ。」
ボクに対する認識が変わったのか、意外そうにあられがつぶやいた。

「だってボク、チームKだし、シンボルみたいに祭り上げられるだけなんてごめんだよ。」
ウチの水泳部は3つのチームに分かれている。
『ある程度泳げる人の為の軽運動』チームA、『カナヅチなんてイヤ!泳げるようになりたい』チームK
そして『バカみたいに泳ぎこむ!目指せジュニアオリンピック!!』チームB。

「うそ、まゆきち今年もチームKなの? だっさ。」
あられがヒトを指差しながら、けたけたと笑う。
「こらー。指差すなー。」
信号待ちのため立ち止まり、あられをたしなめる。

平日午後の信号待ちは、夕食の買い物のおばちゃんと、くたびれきった外回りのサラリーマンと、
仲の良さそうなカップルが一緒でも、誰もこちらを気にする様子は無い。
「ねぇ、まゆきち。あれ・・・やってみない?」
信号が青に変わるなり歩き始めたカップルを後ろから指差して、あられがボクの顔を見上げる。
「えー、恋人同士でもないのにやるもんじゃないと思うんだけど。」
あられの考えている事が、ボクにはさっぱり理解できない。
「いーじゃない別に。雰囲気よ。雰囲気。」
きゅっ、きゅっ、きゅっ、と3手で持ち替えられ、あられの細い指がボクの整った指に絡む。
「ちょ、雰囲気ってなんだよぉ・・・」

満足そうに微笑むあられに引きずられるように少し歩くと、完成して間もないショッピングモールが
巨大な姿を現す。
「で、この中のどこに寄りたいの?」
変なやり取りのせいで、目的を訊く事すら忘れていた。
「知りたい?」
うふふと不吉に微笑み、繋いだ手には力が込められる。
「そりゃそーだよ。ここまで引きずられて来たんだから・・・」
不満そうなボクの意見など気にした様子も無く楽しそうにしているあられが、別次元の住人に思えてきた。

「じゃ、答えが出るまで、ここで待ってなさーい!」
パッと繋いでいた手を離し、まるでお花畑を駆け抜けるかのように、あられは入り口に程近い輸入雑貨のお店に
一直線に駆け込んでいった。
「あの、ボクも一緒に・・・」
引き止めようと伸ばした手は届くこともなく、その場に取り残されてしまった。

一体ボクは何しに来たんだろう・・・

花壇に併設されたベンチを見つけたボクはそれに腰掛けて、大きな欠伸をひとつ。
見上げた空では、ゆっくりと4月の雲が風に流れていく。
それから赤い風船を持った子供がパタパタと目の前を走り抜けて行った。

平和だねぇ・・・
色とりどりのチューリップが揺れる花壇の脇で、美しい風景の一部となったボクは完全に和んでしまった。

 

 

 

 

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