20000HIT 記念企画
 Flash thought
 

やっちゃったわ・・・

先日の一件以来、なんだかアイツの態度がよそよそしい。
まぁ、もともと『すごく』仲良くしてたって訳じゃないけど・・・

「あられちゃーん! かおー。顔ちょーだーい!」
碧さんが大きく手を振りながら表情チェンジを要求してくる。
「あ、はい!ごめんなさい!」
レフ板で増幅されたフラッシュを浴びながら、慌ててスタジオに意識を戻した。
向けられた一眼レンズのカメラに、あたしはそんな素振りも見せずに素早く澱みない営業スマイルを作り上げる。
仕事中にも拘らず、アイツのせいでもやもやが胸の中から出て行かない。

『友達だもん。嬉しいに決まってるじゃん。』

アイツが言ったその言葉が、もう何度もあたしの脳裏にリフレインしている。
ついでにあたし以上の営業スマイルも一緒に蘇ってくるから、余計にイライラするんじゃない!
いくらあたしでも・・・気付かないわけないでしょ。

「あー・・・永山くーん!チェックしてもらっていーかなー!」
ファインダーから顔を離して休憩の指示を出した碧さんが、カメラから取り出したメモリーカードを助手さんに
手渡し、代わりに水のペットボトルを2本持ってこちらにやってきた。
「おつかれやま〜。あられちゃん。」
「おつかれさまでーす。」
・・・おつかれ山。あったら登ってみたいっつーの。どーせ疲れるだけなんだろうけど。
差し出された水を受け取って、できるだけ明るい声で返事を返す。
「ちょっと座ろうか。立ちっ放しだったし。」
休憩用のテーブルを指差した碧さんに勧められるまま、あたしはペットボトルの蓋をパキッと捻って並んで座る。

『可愛い女の子を撮るのが私の使命!!』
そんなご大層な任務を天の神様から仰せ付かって、あたしが読モやらせてもらってるファッション雑誌の
専属カメラマンをしているという彼女は一之瀬 碧さん。
とてもファッション雑誌関連の仕事をしているとは思えないファッションセンスの持ち主で、今日だって
ごついミリジャンにベルボトムジーンズ。
Tシャツに棲んでる謎のトゥーンな生物が、時折ミリジャンの陰からチラリとこちらを覗くのがとっても不快。

「あられちゃん、今日はノってないねぇ。・・・あ、今日の私の服がまた嫌い?」
半年も前に一度、ポロリと言ってしまったのをまだ根に持ってるのか。
「あー。そー言われてみたらそーですねぇ。」
なるべく軽く言ってはおいたものの、しょんぼりとうなだれるこの人は私と一回り歳が違う。

「私の服はいいの!素敵なお洋服を着た可愛い女の子が撮れるのなら、むしろ私なんか全裸でも良・・・」
「それじゃただの変態です。」
がばっと立ち上がってガッツポーズのまま力説しようとするのを、あたしはバッサリ切り捨てる。
でも、思わずちょっと笑っちゃったのも事実だけど。

「あ、やっと笑った。」
「え・・・?」
小さく唇を持ち上げて微笑む碧さんを、思わず見上げてしまう。
「あられちゃん、何か悩んでるでしょ?」
「判るんですか?」
前振りもなく言い当てられて、ずきんと胸の奥に痛みが走る。

「そのくらいはね。何年ファインダー覗いてると思ってるの?」
「30年くらい?」
「酷い・・・まだそんなに生きてもいないのに。」
そんな軽口でも叩かないと、あたしの動揺がオシャレな服を食い破って出てしまいそうだったから。
震えそうな手を、この夏流行るというミニスカートの上で強く握り締める。

「そーゆー事言うと、もっと当てちゃうぞぉ。 ズバリ!それは恋の悩みだろぉ、あられクン?」
ニヤニヤと意地悪い大人の笑みを張りつけてウフフと迫る碧さんに、小さく肩をぶつける。
「・・・そーですよ。コクる前に振られたんです。」
自分でも笑っちゃいそうで、ふいと顔を背けて吐き捨てる。

「そうなんだ。その彼とは、ずっと友達なの?」
「彼、じゃなくて女ですよ。」
あたしはテーブルの上に置きっ放しにしていた自分のバッグからスマホを取り出して、何度か画面に触れて
アイツの画像を表示すると、碧さんの鼻先に突きつけた。
「うわっ!なにこの娘!撮りたい!!ちょー可愛い!!」
『可愛い』より先に『撮りたい』って、まぁ碧さんらしいわね。・・・つーか、画面に唾飛ばさないでよ。

「でもさ、目線くれてないって事は、隠し撮りでしょ?これ。」
「隠し撮りじゃありません。コイツは自然とこーゆーポージングをするんです。」
自分の事が大好きだから、自分が撮られたいポーズでしか映らないって平気で言うようなアイツのこと。
学校の集合写真でもなければ、カメラ目線なんてしそうにない。

「なるほどねー。そんな個性的な娘なら、なおさら一筋縄じゃ行かないでしょうねぇ。」
うんうんと腕を組んで頷きながら親身に相談に乗ってくれるのは嬉しいけど、全て話してしまいそうで怖い。
「うん・・・この間、ソイツの誕生日だったからプレゼントあげたんだけど、あたしその日浮きまくってて、
後になってから絶対色々失敗してたと思った。」
あの夜アイツに送ったメールの返事を見れば、そんなの嫌でも分かる。
今でも消せないそのメールの入ったスマホを、あたしは痛みと共にバッグに押し込む・・・

ぽんと肩に手を置かれ、危うく溜まりかけ始めた涙がするっと引っ込んだ。
「諦め切れないのはしょうがないとしても、今までの関係が壊れてないなら、まだ良かったじゃない。」
まぁ、確かに・・・コクる前だったから、そう言えるかも知れないけど。
「その子、かなり女の子の扱いに慣れてるんじゃない? 先手打って告白されないようにするとかさ、
され慣れてないと気付かないよね、そーゆー気配って。」
キラキラと内側から輝くようなアイツの笑顔がまた脳裏に蘇ってきて、再び胸が痛む。
・・・もう、いいよ。

「碧さーん!次の衣装行きましょー!まだ撮るのあるんスからー!」
空気を読んだかのように、助手さんが大きく手を振ってこちらに叫んだ。
「おっと!いけない・・・あ、そだ。じゃあ今度さ、女の子紹介してあげるから。元気出して。」
碧さんはそう言うと新しいメモリーカードをカメラに装填して立ち上がり、嬉しそうに椅子から立ち上がった。
「え、別にそーゆーつもりじゃ・・・」
あ、れ・・・? 何の相談をしてたのか、訳が分からなくなって来たんだけど?
それに、なんで『女同士』ってとこにつっこまないの?
「女子会とゆー名の合コン?みたいな? はあぁー、想像しただけでお腹一杯になっちゃいそう・・・
よーし!ここは奮発してJOJO苑で焼肉おごっちゃうぞー!!」

カメラを掲げながら嬉しそうに天を仰ぐ碧さんは、くねくねしながらスタンバイへと向かう・・・。
え、ちょ、それってもしかして碧さんがやりたいだけなんじゃ・・・?

はぁ・・・もう、なんかどーでも良くなってきた。
一瞬とはいえ、こんなダメそうな大人に本気で相談したあたしがバカだったわ。

でもね、ありがと。碧さん。
無かった事にできる訳じゃないけど、ちょっと元気になったし、吹っ切れそうな気がする。
「言いましたね、碧さん!約束ですよぉ! 特撰カルビ確定ですからね!」
碧さんを振り返って指差しながら、あたしは衣装換えの為に更衣スペースへと走る。
「えぇぇー!と、特撰はちょっと・・・・・・!!」

その時のあたしの笑顔に、慌ててレンズを向けシャッターを切った碧さんは、その時点で既に次号の
コーナートップの写真にこれを使う事を決めていたそうだ。



追伸:発売された今月号、見ました。トップ写真、素の表情でちょっと恥ずいんですけど。
    あと、今号のあたしのプロフの『好きなもの』に「特撰カルビ」って勝手に書き加えたの、碧さんですよね?
    次の仕事の時、ぶっ飛ばしますのでヨロシク☆


fin

 

 

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