Massive efforts その9


「日差しが・・・暖かいな。」
芝生に敷いたレジャーシートに並んで座り、眩しそうに目を細めながら太陽を見つめたみっひーは、ほんの少し
口元を緩めた。
あたしは水筒を取り出し、カップに注いだ麦茶をみっひーに差し出す。
「ありがとう。 萌南は・・・」
そこで言葉を止めてカップを傾けた時に覗いた白い喉に、思わず目が行ってしまう。

「どうして私と友達になってくれたんだ?」
あたしと目も合わせず、両手で持ったカップの中を見つめながら、呟くようにみっひーが言葉を落とす。
「どうしてって・・・一目惚れ?」
即答するあたしもどうかと思うけど、それにツッコミも否定もせず、ただみっひーは小さく溜息をついた。

「萌南は、先に見たはずだ。 私の、普通でない、力を。」
慎重に言葉を選んでいるのか、ぽつぽつと不自然に言葉が並べられていく。
「缶に穴開けたこと?」
「あぁ。」
あたしには、みっひーが何を思い悩んでいるのかが分からなかった。
そのおかげであたしは今ここにいるわけだし、他にもいっぱい善い事をしてるんだって判ったし。
「どうして? 普通じゃないから友達にならないなんて、あたしには分からないな。」
「ふっ・・・みんな、最初はそう言ってくれた。」

みっひーの耳横でそよぐ後れ毛を眺めながら素直な感想を述べたのに、小さく自棄気味に鼻で笑われてしまう。
「でも、私が只者でないとわかると、だんだん話しかけられなくなって、こちらから話しかけてもよそよそしく
返事されるから、そのうち、挨拶くらいしかしなくなってしまって。」
自分の前をひらひらと横切ったモンキチョウを目で追いながら、みっひーは寂しげな表情を隠すように微笑む。
「そう、だったんだ。 ・・・みっひーはこんなに素敵な子なのに、みんな解ってないなぁ。」
出来るだけ明るく、言ったつもり。

「だって、こんなに可愛くてカッコ良くて素敵で、思い遣りがあって真面目でクールで寂しがり屋さんでさ、
まだ知り合って間もないあたしでも、こんなに一杯みっひーの良い所見つけられるのに。」
そう言われて振り向いたみっひーに、あたしは満面の笑顔をお返しする。
「褒め過ぎだ。」
「ホントの事だよ?」
表情は変わらないけど、照れたのか手元の何も入ってないカップを呷る仕草でごまかすのが可愛い。

「普通とか、そうじゃないとか、あたしにはどうでもいい。 みっひーがみっひーだから好きなんだもん。」
そう言って水筒を差し出すと、一瞬驚いたような表情になってから口元を崩し、みっひーは握りしめていた
カップをあたしに手渡した。
「不思議だな。根拠など無いのに、萌南は、私を受け入れてくれそうな気がする。 ・・・信じて、いいのか?」
縋るように見つめられて、私の鼓動が、アクセルを踏み込む。

「もっちろん! 改めてよろしくね。みっひー!」
注いだ麦茶のカップを先に一口飲んでから、みっひーに手渡す。
兄弟盃をイメージしてみたものの、そんなあたしの妄想に気付くはずも無く、みっひーは嬉しそうにあたしから
受け取った麦茶を飲み干した。
「あぁ、萌南。よろしくな。」

ぐぎゅるるるぅぅ〜
恐ろしいタイミングで、あたしのお腹が割り込みを掛けてきた。
うわぁぁぁぁ! あたしのお腹のバカ!
超シリアスシーンだったのに、空気読めよ〜!!
「そうか。萌南はお腹が空いていたんだったな。お弁当を食べよう。」
いそいそとトートバッグを漁る為に背を向けたみっひーを尻目に、あたしは頭を抱えて項垂れる。
あぁぁ!なんかハラペコキャラみたいに言われてる〜・・・
違う!違うのぉぉ!

・・・まぁ、食べるけどね。ぷ。

あたしがバッグからお弁当を取り出してみっひーを振り返ると、その手にはお弁当箱が2つ。
「あ・・・萌南も自分で持ってきていたか。 萌南の分も作って来たんだが・・・」
ピクリと、あたしのヘルズイヤーがその言葉を捉えた。
作ってきた・・・だと・・・!?
その一言に、テンションのギアが一気にセカンドからフォースへシフトアップしてしまう。
「うそ!ちょっ!マジで!? 食べる!食べます!Prease give me chocolates!」
ジープに乗った外国の軍人さんにせびる仕草で、あたしはみっひーに詰め寄る。
「すまない、チョコは入ってないんだが・・・」
全く動じた風も無く、そう言いながら開けられた蓋の内側からは、溢れんばかりの黄金の光っ!
こっ・・・これはっ!

「なにこれぇ!ちょー可愛いっ!」
ご飯には桜でんぶがウサギの形に敷かれ、目はグリーンピース、口はバツ印の海苔。
タコさんウインナー、白身魚のフライ、枝豆入り玉子焼き、ブロッコリーにプチトマトと、おかずも色とりどり。
「萌南に食べてもらえたらと思って、少し頑張った。 嫌いな物が入ってたりしてないか?」

ほわぁぁぁぁ・・・
みっひーが、あたしの為に? なんか、胸の奥がキュンキュンする・・・

「大丈夫!全部好き! てゆーか、もし嫌いな物があっても、みっひーが好きだから大丈夫!」
発掘されたばかりの歴史的発見を愛でるが如く、受け取ったお弁当を見つめているうちに、なんだか食べるのが
もったいなくすら思えてくるから不思議よね。
「よく解らない理屈だが・・・良かった。 さぁ、食べよう。」
嬉しそうなみっひーの横顔にいただきますと声をかけ、最初の一口目をどれにするか真剣に迷い始めた。

 

 

 

 

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