20000HIT 記念企画
 Summer Windfall 後編   
 

「ん〜〜っ・・・はぁぁっ! すごいね、避暑地って本当にちょっと涼しいんだね。」
駅から出た直後、大きく伸びて深呼吸をしたまゆが、雲ひとつ無い真夏の日差しを倍の明るさで反射しながら、
さらにその倍の明るさの笑顔であたしに微笑みかけてくる。
今日のまゆの装いは涼しいことを想定してか、白黒ボーダーのロゴTシャツに、黒の膝丈カーゴパンツをゴツイ
バックルが付いたベルトで留め、足元は歩きやすい黒の大きめバッシュ。
旅行用の大きなバッグには、寒かったらいつでも着られるようにとウインドブレーカーが入っているらしい。
「そうね。テレビで大袈裟に言ってるだけだと思ったけど、少しはホントみたい。」
山に囲まれた標高の高い場所となれば、コンクリートジャングルよりは涼しい。・・・まぁ、マシな程度だけど。

少し辺りを見回してみると、右側の駐車場に今日泊まるコテージの名前が入ったバンと、人の良さそうな
小柄な男性が目に入ったのでそちらへ行ってみることにした。
あたしの少し前を歩くまゆの両側頭部の尻尾が、心地よい夏の風と本人の弾む歩調に揺れている。

「あの、予約の柳ですけども・・・」
「あぁ、お待ちしておりました。遠路はるばるお疲れ様でございます。わたくし、オーナーの峯村と申します。」
軽く挨拶してみると、深々と頭を下げながらオーナーさんは車の扉を開ける。
「「お世話になります。」」
二人揃って頭を下げながら、あたしたちは車に乗り込んだ。
「ようこそおいで下さいました。よろしければ、この近辺の観光スポットに立ち寄りますが、如何でしょうか?」
シートベルトを締めながらのオーナーさんの申し出を、もちろん断る理由などなかった。

 

山間の絶景や、崖に突き出たナントカの記念碑を経てようやくコテージに辿り着いたのは、すっかり日が
暮れてしまってからだった。
どうしてもオーナーさんが山頂からの夕焼けを見せたいというから途中のお土産屋さんでも時間を潰したけど、
今となってはお客に見せたかったんじゃなくて、自分が見たかっただけなんじゃないかという気さえしてきた。
「いやぁ、長旅お疲れ様でございました。 夕食のご用意が出来ている頃でございますので、柳様のご準備が
整い次第、本館の食堂までお越し下さいませ。」
自ら荷物をあたしたちの棟まで運んでくれたオーナーさんが、本当に良い笑顔でそう言ってドアを閉めた。

「「ふぅ・・・疲れた。」」
畳張りのログハウスという、ちょっと奇妙な部屋だったけど、広い居間にほぼ同時に二人で倒れこんだ。
何時間も車に乗ったり山道を歩いたりしたんだから、こうなっても仕方ないわよね。
「ねぇ、千河。 疲れたけど、楽しかったね。普段出来ないことが沢山あって、素敵な思い出が出来たね。」
寝転がったまま、まゆがこちらに頭を巡らせて微笑む。
「なんか、もう終わりみたいな言い方じゃない。まだまだ時間は一杯あるんだから。」
ふいと天井へ視線を逸らすと天窓があって、都会よりも澄んだ空気のおかげか、星空が一枚の風景画のように
切り取られて佇んでいた。

「ふふ。そうだね。千河と二人っきりなのに時間は無駄に出来ないよね。」
折角の景色に割り込むように、立ち上がったまゆが私を覗き込む。
「へ、変な言い方しないでよ!」
ドクンと高鳴った鼓動を隠すように、メガネに指を添えてからあたしも慌てて立ち上がる。
「やだなぁ、何も変なこと言ってないのに。 千河ったら、何か期待してるの?」
「なっ! べ、別に、あたしだって何も言ってないじゃない!」
意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべるまゆに、あたしの頭が蒸気を噴き出した。
「あはは。そうだねぇ。何も言ってない。言ってな〜いね〜〜。」
腕を広げてくるくる回りながら、さっさと靴を履いてドアを開け外へと逃げるまゆ。
もう・・・バカ!

「柳様、お待ちしておりました。本日の夕食は当別荘名物のバーベキューでございます!
ささ、焼き場の準備は整っておりますので、どうぞあちらをお使い下さいませ。
あ、もし特製バーベキューソースがお気に召しましたらフロントで販売しておりますのでお帰りの際にでも・・・」
よく口が回る女将さんの説明もそこそこに、食べ切れるのか疑問なほどの食材が載った巨大なトレーを受け取り
まばらな声が響く食堂の庭へ向かう。
よく見ると、少し離れた位置に家族連れが2組ほど、それぞれに楽しげな笑い声を上げていた。

「わぁー!バーベキューなんて小学校の時以来だぁ〜! 楽しみー!」
星明りすらも増幅して輝くまゆの笑顔が、彗星のように私に流れ落ちる。
「わかったから、ちゃんと手伝ってよね!」
炭が爆ぜる焼き場に、軍手をしたあたしは食材と一緒に受け取った網を置き、野菜を手際よく並べる。
「当たり前じゃん。それもバーベキューの楽しさのうちだってば。」
テーブルに置いた皿にソースを出してから、まゆは弾むように食堂へ駆け戻っていった。
・・・・・・??
どうしたのかしら?

「たっだいまー。」
最初に置いた野菜が焼き上がった頃、楽しげなテンションを維持したままのまゆが何かを手に戻ってきた。
「何しに行ってたのよ・・・って、それ、なに?」
「んー?これ? 梅ジュース。 食堂のメニューにあったから貰ってきたの。」
へぇ・・・よく見てるのね。見直しちゃった。
でもそんな事言えるはずも無くて、つい「そうなの」と、そっけない返事をしてしまう。
「注いどくね。ここに置くよ。 あ、野菜もう焼けた?」
あたしの肩越しに焼き場を覗き込むまゆに、あたしは皿を渡すよう要求する。

「うぇ! 千河、ボクがピーマン嫌いなの知ってるよね? ね?」
しんなり火が通った半分割のピーマンを4切れ、まゆの皿に乗せて睨みながら突き出す。
「結局手伝わなかったんだから、はい。バツゲームなんて言ったらピーマンに失礼なんだからね?」
「ひどいよぉ・・・」
毅然と言い放ったものの、まゆの本気のしょんぼりビームがあたしの心を星空へと打ち抜いた。
「な、なによ・・・あっつ!」
それに気を取られたあたしの手が焼き網に触れてしまい、反射的に皿を放してそれを押さえる。

「千河!?」
まゆがハッとなって、あたしの左手を顔の前に掴みあげる。
幸い軍手をしていたから熱かっただけで済んだけど、まゆは急いでペットボトルの水をおしぼりに含ませると
剥ぎ取るようにあたしの左手の軍手を外して、それで包んだ。
「大丈夫? 千河、ヒリヒリしない?」
「うん・・・大丈夫。」
心配そうにあたしを覗き込むまゆの瞳は、背後の火をオレンジ色の点として映しこんでいた。
「痛くなってきたら、すぐ言ってね。」
「ごめん・・・ありがと・・・」
その顔が近くて、つい視線を落としてしまう。
そこには、しっかりとあたしの手をおしぼりで包み込むまゆの両手。
しばらくそのまま無言で立ち尽くしていたけど、焦げ臭いにおいに振り返った時には既にタマネギが無残な色に
なってしまっていた。

☆☆☆

「ねぇ、絶対おかしいよね? あの家族連れ、なんでわざわざ同じ時間にお風呂に入りに来るのさー!」
本館にある大浴場からの帰り道、まゆが木々の間に響き渡るほどの声であたしに疑問をぶつける。
「そんなの、先に誰がいるかなんて判らないんだからしょうがないじゃない。」
お風呂を上がってからというもの、何度も噛み殺しているあくびの合間にあたしはそうたしなめる。
温泉の効能なのかしら、なんだかずっと身体がぽかぽかしてて心地良い。
「それにしたってタイミング悪いよねー。 千河が怒ってくれれば良かったのに。『空気読めー!』って。」
「あたしは別にそんな事思ってなかったもの。・・・ふぁ・・・」
珍しく理不尽な駄々をこね続けるまゆを従えて戻ったログハウスのドアを開ける。

通常の旅館のように、いつの間にかテーブルは端に寄せられていて、並べて敷かれた布団には一着ずつ浴衣と
メッセージが添えられていた。
『オーナーの峯村でございます。日が沈み、過ごしやすい夜風が吹いております。今宵はまた一段と星も綺麗で
ございます故、浴衣をご用意致しました。涼を求めて木々の間を歩かれるも良し、駐車場からの景色も・・・』
なんとまぁ、マメなオーナーさんだこと。
でも、今日は無理。疲れたし、温泉のおかげで眠くて・・・

「ねぇ、千河! 浴衣だよー! 温泉と言ったらやっぱ浴衣だよねー。」
そのテンションと同じく2本の尻尾を頭上でピョンピョン揺らしながら、まゆは滑り込むように布団に飛び乗り
浴衣を広げると、10秒もしないうちに服を脱ぎ去り浴衣を身にまとった。
・・・どうしてそんなに適当なのにピシッと着こなせてるのよ。
「どう? 千河、似合う?」
判りきった答えを求めて、沢の流れをイメージした流麗な柄の浴衣姿のまゆがくるりと回ってあたしに尋ねる。
「はいはい。まゆは何着ても似合うわよ。いいわね。」

テーブルに置いてある夕食時に貰った梅ジュースの最後の一口を飲み干して、あたしは見もせずにそう返した。
とっくに氷が溶けた、ぬるいジュースが口の中に苦味を残す。
「んー、千河、さっきから冷たいよー。 あ、そだ、ほら、千河も着ようよ。手伝うからー。」
胸の前であたしの浴衣を握り締めたまゆが、焦れたようにあたしの肩を引っ張る。
「っもう、うるっさいわねー。着るわよー。着ればいいんれしょ〜。」
なんだかうまく纏まらない思考の中で、あたしはまゆの手から浴衣を奪い取り、ゆっくりとシャツを脱ぐ。

「はい、できたー。 あは。千河も浴衣似合うー。かわいー。」
手伝ってもらい着付け終わると、ぴょんと一歩飛び退ってあたしの全身を眺めたまゆが嬉しそうにはしゃいだ。
普段なら恥ずかしいし気になるブラを外された時も、特に何も疑問に思わなかったのは浴衣だからかしら。
まゆの思いつきで、普段は下ろしたままの長い髪をピンで纏め上げられ、首がスースーする。
「気が済んだ〜? もー、寝まひょ〜よ〜・・・」
最後の方があくびに紛れて間抜けな音になってしまった。

「えー!なんでー! これからが楽しいのにー。」
てきぱきと布団を寄せて隙間をなくしたまゆが、いかにも不機嫌そうに抗議の声を上げる。
「せっかく温まったのに、風に当たるとか外に出るとか無理。寝るの。」
眠いというよりもボーっとしてきて、あたしはメガネを枕元に置き、もそもそと布団に潜り込む。
「んー!千河ってばぁ・・・」
ねぐらに籠もって背を向けたあたしを、その時まゆがどういう表情で見下ろしたか、知る由も無かった。

暖まり始めた掛け布団はバサリと剥ぎ取られ、あたしの背中に何かがぶつかってきた。
「お楽しみは、外に出なくても沢山あるよ?」
耳元で囁かれた声と息が、あたしの耳にゾワリと舞い降りる。
「ちょ・・・っと、まゆ?」
不穏な気配を察知し慌てて頭をそちらに向けると、妖しげな微笑を浮かべたまゆがキスであたしを出迎えた。
「んっ・・・!」
小さく唇を押し付けながら、あたしの頬に手を添え、久々のその感覚を楽しむようにまゆは微笑む。
「千河のほっぺ、あったかい。 ・・・ふふ。」
下唇を吸われて出た、ちゅっという音を、頭の働きが鈍っているあたしは容易く受け入れてしまう。
「まゆ、調子にのらないれ・・・ん・・・」

言葉とは裏腹に、あたしもまゆの唇を求めて顎を突き出してしまう。
何度も押し付けるうちに自然とその間から舌を覗かせてしまう。
「ん、ちゅ・・・れる・・・」
舌の先端がお互いを求めるように絡み合い、くちくちと唾液の絡まる小さな音が静かな室内で鼓膜に響き渡る。
「はぅ・・・ちゅ、じゅ、んぅ・・・」
まゆの唇に吸い込まれた私の舌が、口内の圧力だけで押し出され、また吸い込まれる。
ちょ、なに、これ・・・
背中に回された手に抱きしめられながら幾度と無く繰り返され、ただでさえ働かなくなっていた頭には霞が
掛かるほどに、まゆのコトだけしか考えられなくなっていく。

「んぁっ・・・まゆ、なんか、キス上手くなってる・・・」
障壁無しで見つめるまゆの目が、消し忘れた明かりに潤んでいるように見えた。
「そぉ? 良かった。気に入ってもらえて。」
そう言ってまゆは微笑んだけど、言葉の意味にちゃんと気付いてるかしら。

誰かに教えてもらったとか、練習したりとかしたの?
それとも、何かを見て学び取ったの?
・・・どれが正解でもイヤ。
褒めたのに、あたしが嬉しそうな表情をしていなかったせいか、まゆが目を閉じておでこを合わせてきた。

「千河?何か考えてる? もっと素直に、ボクのコト感じて欲しいな。」
睫毛が届いてしまいそうな程の距離から囁かれ、そっと頬に口付けられる。
バカ・・・わかってるわよ。あたしだってそうしたいけど、そんな変な疑問を持ってしまったばっかりに。
ふと視線が向いた天窓から臨む星空は、そんなあたしの心のうちを全てを見透かしているようで。
「まゆ・・・好き。だから、もっとまゆのコト教えてよね。」
素直になりなさいという一筋の流星が、美しい星空からあたしの目に流れ落ちて溢れた。

「今日の千河、なんか普段より可愛い。・・・ボクも好き。」
お互いに探り当てた手を、指を絡めてしっかり繋ぐ。そしてまた小さくキス。
「千河、手、大丈夫?」
さっき起きた事を気にしてくれたのが嬉しくて、返事をする代わりに小さく頷いてまゆの指に唇を寄せる。
少し驚いたようにそれを見つめたまゆがそっと微笑む。
・・・ヤダ、なんでだろう。涙がどんどん溢れてくる。

まゆの舌が、その跡を辿るようになぞる。
「嬉しくて泣いちゃうなんて、可愛い。」
「だって、わかんないけど・・・しょうがないじゃない。」
まゆがあたしの首にキスをすると、嘲笑うように尻尾の片方が私の顔を撫でる。
ん・・・
旅館のシャンプーの香りはいつものまゆの香りじゃなくて、なんだかあたしの知ってるまゆじゃないみたい。
ふふっと笑ったまゆの手が、横になって緩んだ浴衣の胸元に滑り込んできた。
「じゃあ、千河がもっと可愛くなっていくトコ、見せてね。」
「あ・・・ちょっと・・・」

薄い布の内側を滑る手は優しく、柔らかく、流れるようにあたしのおっぱいをさする。
「はぁ・・・」
まゆの唇が、あたしの口から零れた溜息を口移しで受け取る。
「ん・・・ちゅ、はぁ、ん・・・」
すっかりまゆの掌の感触に魅せられたあたしの乳首が、指の間に挟まれ弄ばれる。
差し込まれた舌を伝い、次々と喘ぎ声がまゆの口内に運び出されていく。

「千河、ん・・・パンツまだ履いてたんだ。脱いじゃおっか。」
まゆの愛撫に身体を捩るうちに、すっかり浴衣が肌蹴てしまった胸からお腹を撫で下ろしながら囁かれたのに、
あたしは頷くことしかできなかった。
少しお尻を浮かせると、辿り着いていたまゆの手がそれをするりと抜き去る。
「あんまり・・・見ないでよね。」
ついと目を逸らすも、くすくすと笑うまゆが気になってすぐに見つめてしまう。
「見るよ。見たいもん。感じたいもん。千河のコト。」

鳩尾に頬ずりしながら、あたしの全身をまゆが掌で触れ、触れられた場所全てが熱くなってくる。
「ん・・・まゆ・・・嬉し・・・」
込み上げる嬉しさに気持ち良さが加わって、全身がまゆを求めてしまう。
まゆの肩に手を掛けて浴衣を引き下ろすと、脱皮するかのように綺麗なまゆの白い上半身が露になる。
「ふふ。ボクも脱がされちゃった。」
まゆの形の良いおっぱいがお腹に直接押し付けられ、自分でも知ってるのに改めて柔らかさに驚いてしまう。

まゆの全身で愛撫されるうちに、あたしの呼気には自然と声が混じり、同時にもどかしさが渦巻いてくる。
「千河? もっと気持ち良くなりたいの?」
どうしてまゆに伝わってしまったのか、そんな疑問さえも抱く余裕が無くて、見つめ返す瞳に小さく頷く。
その直後、多分あたしの本能が待ちわびていた刺激が脊髄を駆け抜け大きく背中が跳ねる。
まゆは唇で咥えたあたしの乳首を舌で転がしながら、膣口に這わせた指でクリトリスを撫で上げる。
「ひぁっ! あ、はあぅ!」
包皮の内側まで探り当てるその指の動きに、何度も身体が跳ねて声が溢れる。

「あぁん・・・千河、声すごい。他所に聞こえちゃうよ!?」
「や、やだぁ! あは、だ、誰のせいよぉ!」
止まらない細かな指先に、あたしの腰が快楽に溺れてもがき続ける。
「それに千河、すごいベチョベチョ。 指入っちゃうんじゃない?」
「いいよ・・・ 入れても、いいから、まゆなら、いい・・・んっ!」
「え、ホントに? 入れたことある?大丈夫?」
心配そうに覗き込んだまゆの顔は既にぼやけてしまっていたけど、まゆなら、あたしは・・・

初めての感覚が、あたしの中に入って来ようとする。
「ん・・・」
「千河?痛い?」
自分の指も入れたこと無いからちょっと怖いけど、痛くない。
まゆの指だから? それとも、何が入ってもホントは痛くないのかな?
よく解らないけど、まゆという存在の安心と、舌や指がもたらす快感に不安な気持ちが溶けていってしまう。

「は・・・大丈夫・・・かも・・・」
あたしの中に、まゆの存在。
それは嬉しいのかな? きっと、嬉しいから、受け入れられるんだよね?
「千河・・・無理しないでね?」
そう囁いたまゆの攻めが、再びあたしを快楽の海へと押し戻す。
あたしは流されないよう、必死にまゆの背中を抱きしめる。
膣の中をゆっくり探る指を、腰が跳ねるたびに締め付けてしまっているのがわかる。

「まゆ、嬉し・・・気持ちい・・・どうしよ、あ、あっは!」
何かが、一瞬あたしというものを内側から吹き飛ばして、小さく意識が飛んだ、気がした。
「あん・・・千河、すごい、きゅうっってなった。」
それから指が入ったまま何度もクリトリスを転がされるうちに、あたしの限界が近づいてくる。

「あん、はぁ、まゆ、もう、もうダメ、それ、以上したら、あ・・・」
「いいよ。千河。いつでも。」
ゆっくりと蠢いていた指が、少し速く、円を描くような動きになる。
「あ、ちょっと、痛、あ、あぁ、やぁぁ!あっはぅっっ!!・・・」
小さな痛みは、絶頂の快楽に埋もれてそのまま弾け飛んでしまった。
全身が収縮して、押し寄せる絶頂から身を守るように丸まっていくのを、まゆの背中に爪を立てながら耐える。
「あっ!千河、痛!いたたっ・・・」

真っ暗だった視界が、薄目を開けると肌色に染まった。
荒い呼吸と震える筋肉が、自分に起きた事を語ってくれていた。
「まゆ・・・」
あたしが抱きしめている愛しい人の名前を、確かめるように呟く。
「千河?大丈夫だった?」
そろりとあたしの中から指を抜き、心配そうに頭を撫でながら口付けを落とす。

「うん・・・てか、頭撫でるのやめてよ。その・・・恥ずかしいじゃない。」
いつの間にかピンはどこかへ外れてしまい、乱れ放題になっているはずの髪が少し気になる。
「いいじゃん。可愛いんだもん。おーよしよし。」
おどけたように微笑むまゆに、今はなんだか怒る気になれなくて。
「バカ・・・今だけよ。」
世界で一番温かい気持ちになれるものを抱きしめながら、今度は平穏な暗闇に視界と意識が落ちていった。

☆☆☆

「「お世話になりました。」」
今朝はどこにも寄り道せず(させず)に、オーナーさんに駅まで送ってもらい、電車が来るまであと20分。
小さくなっていく車を見送り、誰も居なくなった駅前で手を繋いで佇む。
「あ、千河。旅行の記念にさ、なんかお揃いのお土産買おうよ。」
駅に併設されたお店を指差して、まゆが真夏の日差しに負けない笑顔を発射する。
「ん・・・そうね。行きましょ。」
少し頭が痛くて、昨夜のコトも少ししか覚えてないのを隠し、あたしはまゆと自動ドアの前に立った。
昨日立ち寄ったお土産屋さんでは、家族用の物しか買わなかったからちょうど良かったかも。

うきうきがハッキリ態度に出るまゆが真っ先に向かった小物コーナーで、それはあたしたちを待っていた。
「あっ!千河!みてみて!これが良くない!?」
「ん?ピーマンのストラップ?」
「え、なんでそれ!? じゃなくてー、その隣。」
小さな野菜がついたストラップの横に並ぶ別のストラップを、まゆが指差す。

「それって・・・エーデルワイス?」
かなり上手に作られている、特徴ある形の花。 アルバイトしてるときに見た事があってよく覚えてる。
「うん。旅の『思い出』にするには最適じゃない?」
エーデルワイスには『大切な思い出』という花言葉もあるって、花屋の奥さんが言っていた。
その時は、あの豪快な気質に似合わず花言葉を愛でるなんて、それとも単に商売柄なのかしらと思っていた。
「へぇ。まゆから花言葉なんて、意外。」
メガネの奥から見つめるあたしに、ひどいなぁとまゆが苦笑いする。

「だって、千河が花屋さんでバイトしてるって言ってたから、こーゆーの通じるかなって・・・」
照れたように視線を外したまゆに、胸の奥で何かが大きく音を立てた。
「た、たった2週間じゃない・・・でも、気にしてくれて嬉しい。」
「え・・・?」
再びあたしを見つめるまゆから、熱くなった顔を見られないようにストラップを2個掴んでレジへ走る。

「バイト代出たからさ、これはあたしからプレゼント。」
二つのうち包装してもらった方を、目を合わせないようにしながらまゆに差し出す。
「千河・・・ありがと。大切な思い出の意味、もう一つ増えちゃった。」
満面の笑みを浮かべたまゆが嬉しそうにお店を飛び出した後姿を眺めながら、あたしは他の意味を思い出す。

エーデルワイスって本場では『純潔の象徴』だそうよ?
『それ』を『まゆ』に『渡す』・・・

あたしが悶々と深読みしながらお土産屋さんの自動ドアを出ると、振り返ったまゆがこう告げた。
「あれ?千河、顔赤いよ?」
・・・バカ。



fin

 

 

NOVELS TOPへ