Vier mädchen その12


「お待たせしました。 本日のミグナーディセです。」
全員が食事を終えたのを見計らって岩淵さんが席を立ち、待つことしばし。
デザートが入れられているであろう岡持ちのような箱を手に戻ってきたのを、当麻さんが拍手で迎えます。
わたくしの前に一番に供されたお皿の上には、こんもりとフルーツが盛られた一口サイズのタルトが3つ。
それぞれ綺麗な山型を描く表面が、まるで輝きを放っているよう。

「あ、このタルト、この前かすみんが食べてたフルーツの?」
「そうです。 素材が同じなら腕で負けるつもりはありませんので、絶対美味しいですよ。」
永江さんが何かに気が付いて岩淵さんにそう言いましたが、わたくしには顛末がよく分かりませんでした。

「佐藤錦のタルト、ゴールドスターメロンのタルト、そして太陽のたまごのタルトです。」
希少な果物を使ったタルトが、一斉にわたくしに微笑みかけてきました。
先のお料理で満腹に近かったのに、不思議な程食べたいという欲求が湧き上がってきます。

でも・・・

「岩淵さん、わたくしのためにこんなにして下さって大変嬉しいのだけど・・・」
言おうかどうしようか迷いましたが、岩淵さんには素直になりたい。
そう思ったわたくしの気持ちが、溢れてしまいました。

「こんなにお金を掛けてくれなくても、その・・・良かったんじゃないかと思うの。」
申し訳ない思いを堪えながら意見したわたくしを、冷静な眼差しが見つめ返します。
「お気遣い無く。 すべて私が作った貯金から捻出していますので、誰にも迷惑は掛けていませんよ。」
わたくしの発言の意図を探ろうと、心の内へ視線が入り込んでくるような、そんな錯覚に囚われます。

「それって準備とか材料とか人件費とか、全部? ・・・一体いくら蓄えてんの?」
当麻さんが、場違いかつ時違いな質問を投げ掛けてきました。
「そうですね・・・当麻さんの今のお小遣いで言えば、およそ250年分程度ですよ。」
真面目に答えた岩淵さんの言葉に、当麻さんが虚空を見つめながら指を折り始めました。
「いや、かすみん。 真剣に数えてる場合じゃないってば。」
尤もなツッコミが横の席から入ります。

「そうじゃなくて、わたくしにはそんなにお金を掛けてもらう理由なんて・・・」
ぴくりと、岩淵さんの片眉が反応しました。
「迷惑でしたか?」
「違うの! 迷惑だなんて・・・」
誤解なんてして欲しくないのに、うまくそれを説明する言葉が出てきません。
だって、わたくしは岩淵さんを・・・

「お金が掛かったのは、結果に過ぎません。 もてなしは最上級でありたいという私のポリシーを貫いた結果
ですので、会長が気にする必要はないですよ。 それに・・・」
岩淵さんがふぅと小さく溜息をつき、視線を一度落としてからわたくしに戻しました。
「日頃の会長の行いは、これだけの労いに値すると思ったからこその拠出です。 まぁ、永江さんと当麻さん
には、突然の出費をお願いしてしまいましたが。」

そう言われて振り返ると、永江さんは当麻さんと見合わせてから顔の横でピースして微笑んでくれました。
何も問題は無い、という事でしょうか。
「一般の生徒がどう思ってるかは知りませんが、少なくとも私たち3人は会長がどれだけ頑張っているかを
良く知っているつもりです。 ですから、これはその感謝の気持ちです。」

もうわたくしには、何も反論できませんでした。
誰かに評価して欲しくて頑張ってきたわけではありませんが、認めてくれるというのは嬉しい事です。
「ハッピーバースデイ。 会長。」
永江さんの一言に、また嬉し涙が溢れてしまいそうになります。
もう、みんなして今日はわたくしを何回泣かせるつもりなんでしょうか。

「あり、がとう、みんな・・・」
目から零れる感謝の念を見せない為に俯いたわたくしの膝の上に、岩淵さんがそっと洋封筒を乗せてきました。
『家に帰ってから開けて下さい。』
そう書かれていたので岩淵さんを振り返ると、帰って来たのは小さなウインク。

「あ、ってか、副会長の貯金すごっ! それになんでわたしのお小遣いの金額知ってるの!?」
「え、まだ数えてたの!?」
唐突に声を上げた当麻さんに、永江さんのツッコミ。
「GW明けに、一度自分で言ったのを忘れましたか?」
「え、わたし言ったっけ?」
「・・・。 質問を質問で返さないで下さい。」
そんなやり取りが面白くて、思わずわたくしが噴き出すと、皆が顔を見合わせて笑い声が起こります。

わたくしと共に生徒会を運営する仲間がこの3人で良かった。
これからも、よろしくお願いします。ね。


 

 

 

 

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