ふっ・・・と、目が覚めた。
霞む目を一度瞬くと、目の前には頬杖をついてこっちを見ている人影。
「おはよ。絢。」
「理沙ちゃん・・・」
微笑むその姿が理沙ちゃんだったのに安心して、背伸びをする。
そのときスルッと私の背中から落ちた何かを確かめると、それは理沙ちゃんのブレザーだった。
「あ・・・理沙ちゃん。ありがと。」
背中と椅子の背もたれの間に挟まったそれを理沙ちゃんに返す。
「ふふ。なんか寒そうなとこで寝てたからさ。」
ブレザーを大きく回して袖を通しながら言葉を続ける。
「15分くらいで戻ってきたんだけど、朝、寝不足だって言ってたから寝かせてあげようと思って、
ずっとここで見守っちゃった。」
少し照れた笑みを浮かべて、理沙ちゃんは脚をぷらぷらさせる。
それを聞いて時計を見てみると、時刻は4時半を過ぎたところだった。
「え・・・じゃ、1時間以上も!?ご、ごめんね。暇だったでしょ・・・?」
ちょっと油断したばかりに理沙ちゃんを待たせてしまったことに自責の念が込み上げる。
「いいのいいの。気にしないで。それに、絢の寝顔って初めて見れたし。
結構今まで一緒に寝る機会ってあったけど、ホラ、絢ってわたしより寝つくの遅いわりに
起きるの早いじゃない?授業中だって寝ないし。」
言われてみれば確かにそうだけど、寝顔をまじまじと見られてたなんて・・・
「やだ、恥ずかしいよー。そんなの。」
今更恥ずかしがっても遅いけど、それでも理沙ちゃんは嬉しそうなまま。
「でも、絢の寝顔、可愛かったよ。いつもの優しくて元気な絢とはちょっと違って、安らかで
触っちゃいけないみたいな感じ?かな?ごめん、うまく言えないや。けど、好きな人の寝顔って
こんなに可愛いものなんだって思った。」
「理沙ちゃん・・・」
私の顔も、理沙ちゃんのように赤くなってるかもしれない。褒められて、ちょっと嬉しい。
「やっとだったけど、今年になって絢にわたしの気持ち、言って良かった。」
「うん・・・」
嬉しすぎて、目の奥と、胸の奥が熱くなってくる。
そっと席を立ち上がって私の横にかがんだ理沙ちゃんが、私の首に腕を回して囁いた。
「ねえ、絢。キスしよ。」
一瞬、息が止まった。私に渦巻いた熱さが、鼓動の大きさとリズムを上げる。
「いい・・・の?」
言った自分でも、何に対してのいいの?なのか解らなかった。
「うん。しよ。」
腕を解いて私の肩に手を置き、真剣な表情の理沙ちゃんが私を見つめる。
何年も見てきた理沙ちゃんの顔。
昔から変わらない、運動しやすいようにと切り詰めたベリーショートの髪からは良い香りがするのを知ってる。
キリリと元気な眉も、パッチリとした二重の目も、唇の左下の小さなほくろも、知ってる。
でも・・・今、私の唇に、私の知らない感触が訪れた。
理沙ちゃんの顔が迫ってくると同時に目を閉じてしまったから、尚更その柔らかい感触が際立つ。
同じ質感のもの同士が押し合い、反発するだけなのに、胸の奥が苦しくなる。
暗闇の中、手探りで私も理沙ちゃんの肩に手を掛ける。理沙ちゃんを離したくないから。
一瞬、離れた唇が、すぐに角度を変え戻ってくる。
何度も、何度も。
気づけば、私も唇が離れる度、積極的に理沙ちゃんの唇を探すように顔を突き出すようになっていた。「ん・・・」
これまでお互いを想いながらも出来なかった回数を補うように、夢中で唇を重ねる。
「んはっ!」
「はっ!はぁっ!」
弾けるように顔を離し、荒く呼吸を繰り返す。
お互い、見つめ合ったまま、ひたすら肩を上下させる。
「絢・・・」
理沙ちゃんが再び、私を抱きしめる。
知ってる。この暖かさ。
「理沙ちゃん・・・好き。」
「うん。知ってる。わたしも好きだから。」
しばらくそのまま、二人で抱き合っていた。