翌日。
朝からわくわくしっぱなし。あまりにも待ち遠しくて、楽しみだった一日。
そんな気分を胸に、お土産として持っていくクリスマスケーキを買う為、クリスマスイブの街へ繰り出す。
曇り空に、凍えそうな寒さ。天気予報は夕方から雪になるかも知れないと言っていた。
「雪、かぁ・・・」
ホワイトクリスマスの予感になんとなくにやけながら、学校へ向かう電車に乗る。
実は、学校から少し離れたところに評判の洋菓子屋さんがあるのを、昨日雑誌で知ったのだ。
理沙ちゃんに喜んでもらいたいのはもちろんだけど、家にも買っていくつもり。
だって、初めてクリスマスに外泊するんだもん。そのくらいは、ね。
さて、冬休みで人通りも少ない学校の前を通り、5分ほどでその店は見つかる。
寒いのに結構な行列が出来ていて、最後尾に並ぼうと列に近づく。
「ん・・・?」
目指した最後尾はウチの学校の鞄を持っていて、どこと無く見覚えのある後姿・・・
とりあえずその後ろに立ってみて、その人物を確信する。
声を掛けてみようか迷って、一瞬、手が止まる。
「三崎さん・・・?」
私が肩にポンと手を置くと、その人物が振り返って、大きな目が更に大きくぱぁっと見開かれる。
「あーっ!絢センパイ!久しぶりーっ!・・・てゆー程じゃないけど久しぶり。」
グレーのコートに身を包んだ三崎さんは180度私の方に向き直って嬉しそうに微笑む。
「終業式、一昨日だったのに久しぶりって。・・・あれ?学校に行ってたの?」
私が尋ねると、ふうと溜息をついて大げさに肩を落とす。
「そーなの。期末試験二つも赤点取っちゃってさ。補習だったのー。」
「あー、やっぱりあんまり勉強してなかったんだ。」
列が進んだので、前につめながら先日のことを思い出す。
「ねー、絢センパイ、慰めてー。」
「はいはい。勉強なら教えてあげるから。」
上目遣いで可愛くポーズする三崎さんを軽くいなすと、ブーと口を尖らせる。
「あ、ところで、絢センパイもココのケーキ好きなの?おいしいよねー。」
すばやく話題をすり替えた三崎さんは、あと数人先の店の入り口を遠そうに見つめる。
「ううん。私は来た事無かったんだけど、たまたま昨日雑誌で見て。」
「そだったんだー。お店がオシャレだし、値段も高くないし、あたし結構おきになんだ。」
まるで自分の店みたいに胸を張ってお薦めしてくれる。
「そっか。じゃ、やっぱり理沙ちゃんに買っていったら喜んで・・・」
そこまで言って、ハッとなる。
・・・しまった。
「ほーぉぅ。そーおでしたかぁ。」
白々しく、平たい台詞を並べる三崎さんは、姉のような悪いニヤニヤ笑いを浮かべる。
「絢センパイと天沼さんかぁ。結構絵になるじゃん?ん?」
うりうりと私を肘で突く。
「え・・・あ・・・」
急に顔が熱くなって来るのが、寒い気温のせいではっきりと解る。
「あーあ。あたしなんか今年も清く正しく家族と過ごすってのに。いーなー。絢センパイは
天沼さんとラブラブファイヤーなクリスマスですかぁー。」
言い方がちょっと気になったけど、図星過ぎて言い返せなくなってしまう。
「ふふ。なんてね。困ったときの絢センパイってちょっと俯いたとこなんかカワイー。」
ちょんと私の頬を人差し指でつついて、小悪魔のような笑みを浮かべる。
「み、三崎さん・・・」
どうしたら良いか判らなくなったところで、ちょうど店の中へ案内される。
お店は、白壁に木床、間接照明の小奇麗な空間で、奥にテーブル6席のイートインスペースがあって
洋菓子独特の、バターやクリームの甘い魅惑的な香りに満ちている。
三崎さんが真っ先に張り付いたショーケースには、輝かんばかりの数十種に及ぶケーキが並んでいる。
私も見惚れていたら何時間も掛かってしまいそうなので、雑誌のお薦めを絡めてさっさと注文する。
「タルト・タタン、ムース・オ・フロマージュ、ベイクドチーズケーキ、シシリアン・タルト、あと
ブランマンジェ・フランボワーズソースをひとつずつ。」
店員のお姉さんは、かしこまりましたと言うとすぐに準備に取り掛かる。
三崎さんはと言うと・・・ショーケースの前を2往復目に突入している。
すぐにお会計は終わり、商品を見つめる角度が変わった三崎さんに
「三崎さん。お先にね。」
と一声かける。
「はーい。楽しいクリスマスをー。」
と返事した三崎さんは、すぐにショーケースに顔を戻す。
・・・あと何往復するのだろう。