「ふふん・・・」
左の口角がゆっくりと持ち上がり、ふっくらと艶のある唇の間から白い前歯が不敵にこぼれた。
長い睫毛に彩られた切れ長の目をほんの少しだけ細めて、ボクは鏡の中のボクを見つめる。
濃い紅茶色の長い髪を、パステルグリーンのシフォンシュシュを2つ使ってツインテールに束ねると、
両腕が上がったことで背筋が伸び、自慢の形のおっぱいが文字通り”胸を張った”。
これだけの上半身を任せているのが不安なほどにくびれたウエストから、スラッシュのようにスッキリと
続く長い脚。
うっとりと目の前のボクに魅入る毎朝の習慣。
何一つ努力などしないのに、ボクの顔は美しく、スタイルも完璧だ。
黒子はおろかニキビ一つ出来ないし、どれだけ食べても体型は変わらない。
きっとこれは『常に美しくある』と言う、神が掛けたもうた呪いに決まってる。
物心つく前から、ボクは美しかったらしい。
男の子と同じコミュニティに属すると、ボクのように可愛い子は虐められるなんてのがベタだけど、
それすらも寄せ付けなかった幼少時代。
小学校に上がると、可愛いというだけで友達が沢山出来た。
その頃にはボクは自分が可愛いという事、そしてそれが武器になることを充分自覚していた。
周りの子達よりもちょっとだけ早く思春期に目覚めたボクは、バカばかりの男の子よりも、自分と一緒に
笑い合ってくれる女の子にしか目が向かなかった。
これからボクと同じように複雑な心に目覚めていく皆を、ほんの少し上から見ていたボク。
その頃からか、ボクはボクをボクと呼ぶようになった。
「あのね、真結花はね、真結花よりも可愛い子とけっこんするのー。」
ふふ。昔はそんなことを言ってたこともあったね。
ボクが女子校に進学するのを決めた理由は単純。
『周囲全てが女の子だから』
小学生のボクに手に入る情報なんて多くは無かったけど、小学生だってネットくらいは当たり前。
そこで手に入れた都市伝説ともつかない噂。
『明進学園は、学内カップルが多い』
ボクが人生で一番頑張った時期は、きっとこの受験の時に違いない。そんなボクは、晴れて明進学園に進学したときから『注目の的』になった。
同級生はもとより高校の先輩たちにも、瞬く間にボクと言う存在の噂が広まり、常に誰かがボクを見ていた。
羨望、好奇、憧れ、そして恋愛と嫉妬。
様々な感情が渦巻き、数多の学生が自らの感情に翻弄されていく。
その舞台の中心に立つボクは、それが次第に心地よくなっていくのに気づいた。
どれだけ大きな決意をしてきたかは知らないけど、そんな気持ちを『つまみ食い』する愉悦・・・
時と相手に応じて、ゆっくりと、はたまた素早く。
かするような一突きの時もあれば、袈裟懸けにバッサリ行くときもある。
相手が真剣なのは解るから、ボクは真剣でないことを必ず伝える。
物怖じしないボクの性格だからできるんだろうけど、言われた方からすれば無神経だと思うに違いない。
だからその度に、相手には黒い感情が巻き起こる。
皆、ボクが出した条件でOKしたのは自分だってことを棚上げるから。
それでも、そんな恨みを掻き消すほど、ボクには人気がある。
だって・・・
なぜなら・・・
ボクは可愛いから!!(イェイ)
大きく天に掌を捧げ、うっとりと頬を押さえるボク・・・あぁ・・・ボクは・・・ボクは・・・
「まーゆーかー!休みボケしてないで早く起きなさーい!今日から学校よー!」
お母さんが呼ぶ声で、天空に連れ行こうとする天使の手がパッと離れて地上に落下する。
今日は1学期始業式。
初日から遅刻なんて美しくない。
ボクはクローゼットの引き出しを開け、お気に入りの下着を取り出した。