Jack-o'-Lantern comes to her e   その10

 

 

・・・ふと、目が開いた。
明かりさす窓の形や天井の色が、いつも見慣れたものとは違う目覚め。
淀んだ熱気を内包した掛布団の内側で、いつもより体がだるいような気がした。
もちろん、昨夜の行いが夢でないならば、それが原因なんだとすぐに思い当たる。
隣で幸せそうな寝顔を抱いたまま眠る首謀者のシンデレラは、どんな夢を見ているのかな。
そんな考えに、口元が自然と綻んでしまう。

それを邪魔しないように、首だけを巡らせて壁掛け時計に目をやると、時刻は6時25分。
日曜日だというのに、目覚ましも無しに平日の起床より5分ほど早い。
まぁ、理美ちゃんが起きるまでに朝食の準備をしておけば、きっと喜んでくれるはずだからと、再び寝顔に
ちらりと視線を送る。

「・・・うん・・・氷音先輩・・・」
微かに眉を動かし、殆ど閉じたままの口から私の名前が出て来てどきりと心臓が高鳴った。
顔を見ているのがばれたのかと思ったけど、未だ閉店状態の瞼にホッとする。

「イヤや・・・行かんといて・・・」
続いた言葉に驚き、布団の中で理美ちゃんの方へと体の向きを変える。
「理美ちゃん・・・?」
悪夢にうなされているんじゃないかと気付き、慌てて小声で呼びかけてみる。
その右目からは、小さな涙が、一筋。
大声を出してびっくりさせて起こしてしまうのを懸念したせいか、それで目を覚ます事はなかったけど、
だからと言って助けてあげられないのは嫌だ。

怖い思いをしているなら、私が力にならなきゃ。
もしかしたら悪い夢を変えられるのではと、私は布団の中で理美ちゃんを抱き締めてあげる為に、手錠で拘束
されたままの手をその華奢な腰に回そうとした。

 

・・・・・・。

 

ん? 手、錠・・・?

回そうとした右手に、左手が引っ張られた事で、起き抜けの鈍い思考が追いつこうと回転し始める。
えと・・・どうして私はこんなものを着けているのかしら。
て、て、てゆーか、これを着けて何をしていたの!?
何してた、なんて、なんかそういうことに使ってたって決めつけてるみたいで、わ、私ったら・・・
動き始めた脳が、爆音を立てながら空回りしていくのを止められない。

「理美ちゃん、理美ちゃん! 起きて!」
どうしてこうなったのか覚えていない以上、理美ちゃんに尋ねるしかないと思い至った私は、先程までの
遠慮なんてどこへやら。
繋がった両手で必死に理美ちゃんを揺さぶり起こそうと試みる。

「・・・んー・・・ え、え、なに? ひ、氷音先輩?」
不満げな、驚いたような声を上げ、眠り姫だったシンデレラは半開きの眼で私を見つけるや、私の胸に顔を
埋めるように抱き付いてきた。

「よかった・・・ 氷音先輩、おった。」
「え・・・ 理美ちゃん?」
先程の寝言を聞いてしまったからか、私のパニックはその一言でピタリと止んだ。
「どうしたの? 怖い夢でも見た?」
肌蹴たままの身体に理美ちゃんが密着している事も気にならないほど、心配で。
ただ、理美ちゃんが落ち着いて言葉を続けるのを待つ。

「怖くは、なかってんけど・・・」
「話して。 大丈夫だから。」
理美ちゃんの頭頂に頬を寄せ、あやすように囁く。

「ウルトラメイドひののんの正体が氷音先輩で、到底勝ち目の無さそうな悪のボスと戦おうとするんやけど、
氷音先輩が命を懸ける必要あらへん、ウチと世界とどっちが大事やって訊いたら・・・」

・・・ は?

「世界の方が大事に決まってるじゃない! って言うて氷音先輩は飛んで行ってしもたんや。」

な、なによそれ・・・

「でもな、その心は、ウチと過ごすための世界が無くなったら意味がないのよ、だから行かなきゃって・・・」
「ちょ、ちょっと待って、理美ちゃん、落ち着いて。」
なにそのカッコいい私!?
そんな台詞、逆立ちしたって言える訳ないじゃない!
あ・・・ 夢の話よね。
落ち着いてと言った私自身が落ち着いていなかったことに、ふと気が付く。

「感動したっ! やっぱり氷音先輩は素敵や、最高や!」
「え、ちょ、理美ちゃん!?」
とんでもなく美化されたイメージを現実と混同しているのか、理美ちゃんは満面の笑みで腕の力を強める。
ど、ど、どうしたらいいの、私!?
「ん・・・ あれ?」
何かに気付いた理美ちゃんが、ごそごそと布団の中を確認する。

「あ、 氷音先輩、まだ手錠してたん?」
そうだった!
忘れかけていたけど、それを聞いて外してもらわないと。


 

 

 

 

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