Never open doors   その13


9月 2日  雨   16:25

place 2年2組教室

 

「あ、クイーン達。 ここにいたんだ。 あれ、それに川出さんも来てたの?」
突然の事に驚き、全員がそちらを振り返った。

開いた扉から2歩入って来たのは、頭に大きなリボンを付けた岩佐さん。
そしてその後ろには、教室内には入らず腕を組み、唇だけで微笑んでいる空知 愛那。

「びっくりしたー・・・ 岩佐さん達か〜。」
一番最初に声を出したのは、湖那だった。
優緒ちゃんはともかく、江曽と鳳はあまり面識がないのか、ただ互いに顔を見合わせているだけだ。
「岩佐さん。 空知・・・さん、見つかったんだ。 良かったね。」
「うん、あの後すぐ会えたの。 で・・・」
「久院さん。 別に呼び捨てでも構わないわよ。 あなたとは、そんなに話したことがある訳じゃなかったから
仕方ないもの。」
あたしがかけた言葉の微妙な間に気付いたのか、空知が口を挟んできた。
この女は、なんだろう、話し方一つでもあたしとは気が合わない感じがまざまざと伝わってくる。

「あ、ところでさ、二人は図書委員の仕事で学校に来てたってクイーンから聞いたんだけど、もう終わったの?」
不自然なほど明るい声で尋ねた湖那は、今何を考えているのだろう。
会話の主導権を握ろうとでも思っているのか、立ち上がって二人の方へゆっくり歩いて行く。

「うん。4時半から校長先生と留学のお話があるから、ちょうど終わってよかった。」
自然な笑顔でそう告げた岩佐さんからは、どこか少しほっとしたような印象を受ける。
「そ・・・だったんだ。 え、4時半ってもうすぐじゃん! ・・・学校でやるの?」
約束の時刻を聞いて黒板の上の時計にちらりと目をやった湖那は、必死に情報を得ようと言葉を探す。
「そだよ。 進路指導室で。」
「そっか、まぁ、そーだよね。 すぐ終わりそう?」
あははと愛想笑いを浮かべる湖那とは対照的に、口をつぐんだままこちらを見つめる空知に視線を向ける。

姿勢も表情も崩さぬまま只こちらを見つめているだけで、あたし達には何の興味も無さそうだ。
「どうかな。分かんないけど・・・ あの、湖那ちゃんごめんね、もう行かないと。」
「あー、そうだよね。 ごめんね、引き留めて。」
「ううん。じゃーね。」
「うん、バイバイ。」
いつもの放課後のような挨拶を残して、岩佐さんはこちらに小さく手を振った。
空知は組んでいた腕を解いて腰に手を当て、歩き出そうと向きを変える。

「あー、岩佐さん! もうひとつだけ。」
教室から出ようと向きを変えた岩佐さんは、湖那に呼び止められてその場で1回転。

「今日、どこかで守口先生に会った?」

ゴロゴロと、夕立の原因である灰色の雲が唸り始めた。
このままだと、もしかしたら激しい雨はまだ続くかもしれない。

「朝、会ったよ。 学校の鍵開けてもらったから。」
それだけを告げると、岩佐さんは教室の外で待つ空知の元へ小走りで駆け寄り、扉を閉め教室を後にした。

「えと、湖那さん、今のが図書委員ですか?」
湖那が自分の席に戻ると、鳳が真っ先に口を開いた。
「そうよ。湖那と話してたのが岩佐 知世さん。 廊下にいたのが図書委員長の空知 愛奈さん。」
それに答えたのは、俯いたままの湖那ではなく優緒ちゃんだった。
優緒ちゃんは文芸部だし、岩佐さんには名前を呼ばれるほどの面識があって当然。
「へぇ、わたくし、図書室へはあまり行かなくて。」
少し言い訳して、鳳は江曽へ視線を送る。

「やっぱり、なんかおかしくない?」
ずっと考えに耽っていた湖那が、会話の流れを断ち切ってぽつりとこぼした。

「はぁ、それでずっと難しい顔してたのね。」
優緒ちゃんはようやく合点がいったという口調で湖那の正面に席を移した。
「ごめん、僕、ちょっとトイレ行ってくるね。」
突然、江曽がそう告げて席を立ちあがる。
まぁ、あんなにがぶがぶコーラ飲んでたらそうなるだろう。
「あ、わたくしも。」
連れ立つように鳳も席を立って教室を出て行く。

「で、何がおかしいのよ。学校の鍵と職員室の謎なら解けたじゃない。」
湖那の扱い方を知っている優緒ちゃんらしい率直な聞き方だ。
あたしには決してなることが出来ない幼馴染という二人の距離が、羨ましい。
優緒ちゃんは、湖那のどんなことを知ってるんだろう。
湖那は、優緒ちゃんに自分の事をどれだけ教えているんだろう。
そんな自分の感情に気付いてハッとなる。
羨ましいって、何よ・・・

「そうなの。 解けちゃったのよ、そこは。」
「まだ何かあるの?」
天井を仰いでふうと大きく溜息をついた湖那に、優緒ちゃんが不可解だという表情を浮かべる。
「校内に生徒がいるのに、なんで先生は職員室で待機しないで、わざわざ校門の前にいたのかな。」
「・・・。 んー、言われてみれば確かにそうね。」
その疑問を聞いた優緒ちゃんが、湖那と同じ表情になってしまった。

確かに、守口先生の行動は変なところが多い。
学校に入ったあたし達を追い出しにも来ないし、さっき見に行った校門前には既にいなくなっていた。
何をしていたのか。そして今、どこへ行ったのか。

3人分の沈黙は、立ち込める雲の色よりも重く、雨よりも止まる気配がない。

 

 

しかしてそんな場に響き渡る-------

     恐怖の、

 

           幕開けを、

 

告げる、

 

 

       最初の、

 

 

 

 

 

 

悲鳴。

 

 

 

「きゃああぁ!!」


 

 

 

 

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