9月 2日 凶雲 17:12
side 路美花/優緒 place 3F 廊下
なんだか訳が分からない。
どうして、しゃれこうべが私めがけて飛んできているのか。
口を大きく開けて、まるで私に噛み付こうとしているみたい。
なによ、これ。
それでも、私は勢いよく飛来してくる『それ』に対して、本能的に身を屈めた。
バサバサと頭上を通り過ぎたそれは階段の踊り場で向きを変えると、目玉の無い目で私を睨みつけてくる。
「優緒! 離れて!」
路美花ちゃんが私の前に飛び込んできて、しゃれこうべを睨み返す。
女の子にしては大きな背中が、こんなに頼もしく感じたのは初めてかもしれない。
いつもはほえほえな、路美花ちゃんが。
そんな路美花ちゃんの指示通りに2歩下がると、路美花ちゃんは再び空手の構えをとった。
そして左足一閃。
しゃれこうべは、階段の段差部分に叩きつけられてあっけなく粉々になってしまった。
廊下の静寂に、路美花ちゃんの荒い呼吸だけが響いている。
私の目の前で忙しなく上下している肩を、そっと両手で抱き締める。
「路美花ちゃん、すごい。」
「優緒・・・」
こんなに不気味な現象に遭って、しかも、異変を倒してしまうだなんて。
無茶苦茶にも程がある。
目の前で起きた事は、現実。
路美花ちゃんが、七不思議の一つを解決してしまったという事も、事実。
トイレで起こった事も、教室で潤里ちゃんが突然おかしくなってしまった事も。
-----------------すべて、げんじつ。---------------
この先、何が起こるか分からない。
もしかしたら、私がよく読んでいる雑誌の読者投稿記事みたいなことになってしまうのかもしれない。
そう考えると、全身が震えて歩けなくなってしまいそうだった。
日常を安全に過ごしていた学校が一瞬の間に『何一つ安心できない場所』に変貌してしまったのだから。
「路美花ちゃん、潤里ちゃんを、探さないと。」
言葉を発しないと、少しでも前に進む決意を表明しないと、本当に動けなくなりそうで。
「うん。 さっき上がって来た時に扉が閉まる音がしたから、この階のどこかだと思う。」
身体を離した路美花ちゃんも、いつもはしないような固い表情をしている。
きっと、私と同じように路美花ちゃんなりに腹を決めたんだろう。
「でも、さっき写真を撮りに来た時はどの教室も入れなかったはずだけど?」
「あー、そうだったね・・・ でも扉が閉まった音がしたんだから、どこか開いてるはずだよ。」
「じゃぁ、空いている部屋を探せばいいだけね。」
「うん、行こう。」
そう言って顔を見合わせて、私達はようやく歩き出すことが出来た。
無人の廊下に、二人分のスニーカーのゴム底が吸い付く音がこだまする。
まず、すぐ横にある視聴覚室の扉のノブを、小さく深呼吸してから恐る恐る下げてみる。
ガコッ、ガコガコ
・・・開かない。
路美花ちゃんが『どこかで』と言ってたからには、こんなに近くではないと分かっていたけど、できれば開いて
欲しかったと思い溜息をつく。
これから残りの扉を全部調べて行くのかと思うと、心臓が保つかどうかが思いやられる。
私は路美花ちゃんを振り返って小さく首を振る。
次は工作室・・・
出来れば急ぎたかったけど、さっきのような『怪異』に遭遇してしまったのが気になって慎重になってしまう。
また、あんなのが出てきたら・・・
でも、必ず見つけるから。
潤里ちゃん、待っててね。