「はー。おなかいっぱい。幸せ幸せ。」
部屋の鍵を開けて靴を脱いだ海佳は、とたとた軽い音を立てながらリビングへ行ってしまう。
靴くらい揃えなさい。
そう思いながら私が代わりにそれを実行し、バッグを置くためにリビングへ向かう。
「ファミレスのカレーも悪くないけどさ、やっぱウチのカレーの方がおいしいよねー。」
ソックスを脱いで、くるくると丸めながら海佳がつぶやく。
「海佳、絶対あてつけでしょ?」
「なにが?あ、お姉ちゃん。テレビのリモコンどこ?」
出掛ける前の出来事を思い出しながら、小さく溜息をつく。
わざわざカレーセットを食べるなんて、好きなもの食べて良いって言ったから止めなかったけど、
分かり易過ぎる。
「ベッドの上。」
お風呂にお湯をためる為、バスルームに向かいながら声を投げる。
私の声でそれを見つけた海佳がエイッとボタンを押すと、バラエティ番組の派手なBGMが流れ出す。
実家でも良く観ていた、世界中の映像を集めたあの番組。
バスルームから戻った私は、小さく体育座りする海佳の横に座る。
ちらりと私を見てから微笑む海佳。
一週間ぶりのその番組を、私はボーっと見つめる。
画面から巻き起こる笑い声に釣られて笑う海佳の横顔。
たった3ヶ月離れてただけなのに、とても懐かしい気がする。
忘れたわけじゃない。思い出せなかっただけ。
実家のソファでは当たり前だった、テレビを見るときのこの位置。
テレビはちょうどコマーシャル中なのに、つい笑ってしまう。
「あ。そだ。お姉ちゃん。これ終わったらさ、一緒にお風呂入ろ?」
真横にある顔が、輝く笑顔で提案する。
しかし、現実は無常。
「無茶言わないで。一人でも狭いお風呂よ?入れるわけ無いでしょ?」
「え〜。一緒に入りたい〜。背中洗ってあげたい〜。」
いくら海佳のお願いでも、物理的な無理は通らない。
私だって出来るならそうしたいけど、しょうがないじゃない。
「ウチに帰ったら一緒に入ってあげるから。今日は言うこときいて頂戴。」
可愛く口を尖らせる海佳の頭を撫でて、私は立ち上がる。
「うむぅ〜。」
明らかに納得していない海佳の視線が私を追いかけてくる。
それを背中に感じつつ、タンスから着替えを取り出す。
「じゃ、先に入るから。」
「ふぁ〜い。」
海佳はふて腐れた返事をすると、コテンと床に横になる。
こんなやり取りが、やっぱり海佳とは一番楽しい。
一人ニヤニヤ笑いをたたえたまま、私は脱衣場の扉を閉じた。