「やーっ!理美ちゃん、ちょっと待って!」
ぐいぐいと引っ張る力に、なんだか余計なものまで一緒に脱げてしまいそうな予感がして、慌てて両手を掴む。
「なんでや! 氷音先輩は、ウチが絶対助けんねん!」
必死なのに、何故か今にも泣き出しそうな理美ちゃんの目が、私の心臓を貫いた。
こんなに私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど、抵抗するのをやめるわけにもいかない。
「ウチのせいや・・・ウチが余計なこと言わんかったら・・・やから、氷音先輩を助けんと・・・」
「理美ちゃん・・・落ち着いて。」
私は理美ちゃんの頭を、ボタンが一つ弾けてしまった胸元にそっと抱き寄せた。
「理美ちゃんのせいじゃないわ。 きついのを解ってて、それでも私が自分の意志で着ただけ。」
だから、理美ちゃんは悪くないの。
そこまでは、声に出来なかった。
それでも理美ちゃんは無言のまま微かに震えながら、しばらくそのまま顔を上げなかった。
私が冷静になり、理美ちゃんが落ち着くくらいの時間が経った。
私が最終的に辿り着いた結論は『脱げないなら切るしかない』という決意。
作った演劇部の皆には謝らないといけないし、弁償もするつもりだけど、今はそうするしかない。
私は落ち着きを取り戻した胸の中の恋人の頭を撫でながら、提案を囁く。
「理美ちゃん?」
「ん?なに?」
頭を撫でられて気持ちがいいのか、少し甘えたような声で理美ちゃんが返事をした。
「引き出しからハサミを持ってきてくれる? もう、このパンツ、切るしかないと思うの。」
「そないなことしたら、怒られてまうで?」
「うん。でもしょうがないから・・・ね。今はそれしかないと思うの。」
私の説得に、二呼吸ほどの時間を置いて、理美ちゃんは小さく頷く。
「わかった。ちょっと待っててや。」
名残惜しそうに立ち上がった理美ちゃんは、すぐにハサミを持って戻ってくる。
「あったで!氷音先輩!」
真剣な眼差しで数メートルの距離を走ってきた理美ちゃんに、私は感謝の意を表す。
「ありがとう。じゃぁ、私が・・・」
「いや、ウチにやらせてんか。ウチが・・・氷音先輩を助けるんや。」
その想いは、私の心をときめかせるには充分すぎた。
これじゃよっぽど、理美ちゃんのほうが王子様みたい。
「うん。じゃ、お願い。太腿から膝の辺りまで切れば抜けられると思うから。」
そう言って立ち上がると、また少し布地が嫌な音を立てる。
「わかった。動かんといてや。」
大きく裂けたお尻のあたりの穴から、細い物がショーツとパンツの間に入ってきて、小さな恐怖が湧き上がる。
何度かぐいぐい引っ張られる感じがしたけど、どれだけ身体を捻っても、陰になって良く見えない。
「んー、なんや、よぉ切れんなぁ。このハサミ、バカんなっとんちゃうか?」
理美ちゃんが、苛立ちながら粗雑にハサミを動かす。
「やだ、理美ちゃん、怖いから・・・あんまり乱暴にしないで・・・」
「あぁ、ごめんや氷音先輩。 ・・・んー、ちょっとやりにくいなぁ。」
ぴたりと理美ちゃんの手が止まり、立ち尽くしたままの私もどうしたものかと考えあぐねてしまう。
「お!せや! 氷音先輩、立ったままやとやりにくいから、膝立ちなってみてんか?」
効果があるかどうかは分からないけど、何か思いついたならやってみた方がいい。
私は言われたとおりの体勢を取って理美ちゃんを振り返るけど、不安げな表情を浮かべているに違いない。
「うーん・・・そんでな、肘ついてみて?」
え・・・?
それって、四つん這いってコト・・・?
ドクンと、鼓動が跳ねた気がした。
なんか、それって、すごい恥ずかしいんだけど・・・
でも理美ちゃんがそうしてって言うなら、仕方ないわよね。
ゆっくりと上体を倒して肘で身体を支える姿勢をとると、長い髪が背中から顔の横に数束流れ落ちてきた。
なに、この格好?
一度そんな風に意識してしまうと、何を勘違いしてるのか私の鼓動は強さと速さを増して行く。
「これならやりやすいかもやな。氷音先輩、待っててや。」
再びハサミの先端が侵入してくる。
ショーツで守られていた部分を過ぎ、肌に直接ハサミが当たる感触が更なる恐怖を呼び起こす。
徐々にではあるけどハサミの先端の位置が、お尻よりぴっちりしている太腿の方へと下がっていくのが、
永遠に続くのではないかと思うほど長く感じられる。
布地が断ち切られていく音と時計の秒針の音、そして、この姿勢が苦しいのか、荒く細かい私の呼吸。
やっぱり恥ずかしいから・・・早く終わって、理美ちゃん!