「あぁ・・・絢。こんな中途半端な時間に呼び出したりして、ごめん。」
西日が差し込む教室に私が入ると、一番後ろの席に座っていた理沙ちゃんはゆっくりと立ち上がった。
「ううん。いいの。何か、用があるんでしょ?」
そっとドアを閉めて席へ歩み寄ると、いつもはハツラツな理沙ちゃんの表情が普段と違うことに気づく。
「理沙ちゃん?何かあったの?」
クラスではみんなと仲の良い理沙ちゃんがこんな表情を見せるのは、小学校からのつきあいである私くらい。
それでも今日の理沙ちゃんは、今まで見たことも無いほど堅く、思いつめた表情をしている。
少し足を速めて近づいた私を、さっきまで逸らしていた目で捕らえると、またすぐ視線を外す。
「あ、絢・・・あの・・・怒らないで聞いて欲しいんだけど・・・」
左から差し込む西日に照らされた理沙ちゃんの真剣な眼差しに、私の鼓動がひとつ、高鳴る。
「うん・・・なに?」
「絢、あのね、わたし・・・」
「うん?」
小さくなってくる理沙ちゃんの声とは反対に、私の鼓動は大きくなるばかり。
なぜなら・・・たぶん、理沙ちゃんは私が思った通りのことを言う気がしたから。
「絢の事が好きなの!・・・その、友達としてって言うより、女の子として、好きなの!!」
一息で吐き出して、理沙ちゃんが大きく息を吸い込む間もしっかり私の目を見つめている。
しばしの沈黙。
やっと?
ついに?
言われてしまったことに対して更に鼓動が高まる。
でも、そこに驚きはない。
だって・・・
「理沙ちゃん・・・」
「あ・・・やっぱり・・・」
理沙ちゃんが自己完結しようとするのを遮るように私は微笑む。
「私も、そう思ってた。でも・・・言えなかったの。ゴメンね。」
「あ、や・・・」
理沙ちゃんの涙腺が崩壊間近なのを示すように、いつも凛々しい眉が今は下がりっぱなし。
「だから、私もちゃんと言う。」
ようやく私も素直な気持ちを伝えられることを嬉しく思う。
「私も、理沙ちゃんが、好きです。」
「あ・・・」
理沙ちゃんは目から想いの端が溢れ出ると同時に、私が一歩後ずさるほどの勢いで私を抱きしめる。
私の肩に顔を埋めて、微かに身体を震わせる理沙ちゃんの背中に手を回す。
差し込む夕日の中で、そのままずっと抱き合っていた。
理沙ちゃんの制服は、昔遊びに行った理沙ちゃんの家の匂いがした。