それからの生活は、特に大きく変化したわけじゃなかった。
朝、私が理沙ちゃんの家に迎えに行くのも、教室で一緒にお昼を食べるのも、
部活(理沙ちゃんは陸上部、私は華道部)の無い日に一緒に帰るのも変わらない。
ただ、学校から離れたところで手をつないだり、必要以上に抱きついたりした。
世間体って言葉を気にするわけじゃないけど、そんなもので私たちの気持ちは壊せないと解ってるから、
理沙ちゃんも私も、見つめ合って笑うことが出来た。
ふわふわした心地よい日々は瞬く間に過ぎ、間もなく2学期末試験の時期を迎えようとしていた。
昨夜は眠りに付く直前に、理沙ちゃんから告白された日の事が蘇ったおかげでなかなか寝付けなかった。
「ふあ・・・あ・・・。いってきま〜す。」
眠い目をこすって、不機嫌な声を放り投げてから玄関のドアを閉める。
「うぅっ・・・寒〜い・・・」
12月の寒風が顔と太股に襲い掛かってくる中、通い慣れた理沙ちゃんの家への道を急ぐ。
私の家から最寄り駅への途中4分ほどの場所に、理沙ちゃんの家はある。
「あ。あーやー!おはよっ!」
「あれっ?理沙ちゃん・・・おはよー」
珍しく、理沙ちゃんが私が来るよりも先に家の前で待っていて、路地を曲がってきた私に大きく手を振る。
「ご、ごめん。遅かった?」
「ううん。そんなことないよ。いつも通り。ほら。」
小走りで理沙ちゃんの右側に並んで横から顔を覗き込むと、理沙ちゃんが左腕の時計を私に見せた。
7時40分。やっぱりいつも通り。
「あれ?絢、ちょっと顔色悪い?ん・・・えっと・・・」
私の顔を覗き返した理沙ちゃんが指を折ってなにやら数え始める。
「長引いちゃってるの?」
「え!?ちっがうよ〜」
思わず理沙ちゃんに肩をぶつけるけど、びくともしなかった。
「じゃ、どしたの?」
「うん、昨日の夜ね、理沙ちゃんに告白された日の事思い出しちゃって、眠れなくなっちゃって・・・」
また思い出してしまいそうで、徐々に声が小さくなっていく。
「あははは!なーに恥ずかしがってんの?わたし達の事なんだから恥ずかしがること無いのに」
「うん・・・そう、なんだけど・・・」
交通量の多い大通りに出ると、地下鉄の入り口まであと少し。
「でもやっぱり、あの時の嬉しかった気持ち、ずっと忘れられなくて・・・」
私の視線はすっかり、足元のアスファルトと自分の足だけになってしまっている。
「んーーー!もうっ!!絢ってばホント可愛いんだからっ!!」
理沙ちゃんがガバッと私の首に抱きついて、よろめいてしまう。
「きゃっ!理沙ちゃん、危ないよぉ!」
「あはははっ。ごめんごめん。」
適当に謝った理沙ちゃんは、抱きついた腕を解いて私の手を握った。
「さ、行こ。遅れちゃうよ。」
その笑顔に釣られて私も笑顔になってしまうのは、やっぱり理沙ちゃんが好きだから、かな。
なんて思いながら地下鉄への階段を二人で下りていく。