Auf heben その15

一旦家に帰った私は、ついでで買ったケーキを3つ渡して、昨日のうちに準備しておいたお泊りセットを手に
理沙ちゃんの家へ向かう。
いつもの道なのに、何かが違うこの雰囲気は、この道を通る意味が普段と違うからかもしれない。
いつもと同じはずの天沼家の門の前で、大きく深呼吸をしてからチャイムを押す。
ふと見上げた空は薄紫に暮れ始めていて、どんよりとした灰色の雲が晴れる気配は無い。
雪、降るのかなぁ?

と、玄関の扉が開いて、オレンジのトレーナーに黒いキュロット姿の理沙ちゃんが飛び出してきた。
「いらっしゃーい、絢。寒かったでしょー?さ、入って入って。」
「うん。お邪魔します。」
小学生の時は良く遊びに着たこの家も、中学に入ってからは何故か来なかった。
およそ4年ぶりに入った理沙ちゃんの家は、ほとんど変わってなくて、記憶に残るものと同じ匂いがした。

「あ、理沙ちゃん。これ、お土産のケーキ。後で食べよ。」
ケーキの箱を手渡すと、理沙ちゃんの顔がパッとほころぶ。
「さすが絢。ありがと。こたつ入ってて。お茶入れて来るから。」
理沙ちゃんが台所に行ったので、私はコートを脱ぎ、居間のコタツに入って暖を取る。
寒さでかじかんだ手に、少し熱いほどの熱が心地よい。
天板に顎を乗せて溶け始めた私の前に、湯飲みがひとつ置かれる。
「はい、お茶。」
「ありがと。」
微笑む理沙ちゃんが、わざわざ狭い私の隣に入ってくる。
「久しぶりだなぁ。理沙ちゃん家。」
理沙ちゃんの横顔を見つめて、懐かしい記憶を探る。
「そうだね・・・小学生の時は、良く来て遊んだよね。」

それからしばらく、懐かしい話で盛り上がる。
理沙ちゃんのお母さんが作ってくれていた夕食を食べて、お土産のケーキに二人で感動する。
食器を片付けて、バラエティ番組なんか見ながらほちゃほちゃとしゃべっているうちに夜が更けていく。

「あ、もうこんな時間。ねえ、絢。お風呂入ろうよ。」
理沙ちゃんがコタツから立ち上がって、一瞬暖かい空気が逃げ出す。
「あ、じゃ、理沙ちゃん先に入る?」
すっかりコタツに根を張った私は、大儀そうに理沙ちゃんを見上げて返事した。
「何言ってんの?一緒に入ろうよ。」
「え、一緒に・・・?」
瞬間、胸が高鳴る。
「うん。イヤ?」
「イヤじゃ・・・ない。」
「じゃ、入ろ。着替え取りに行って来るから、先行っててよ。」
私に有無を言わせないテンポの良さでそれが決まると、理沙ちゃんは弾むように2階へと上って行った。
一緒にお風呂・・・嬉しいけど、恥ずかしい。
でも、こんなチャンス、もう滅多にないよね?
そんな決意が、私を突き動かす。
着換えを鞄から出し、記憶を頼りにバスルームを目指す。

脱衣場のドアを開けると、洗面所に洗濯機、脱いだものを入れるかごがあり、洗濯機が新しくなってる以外は、
やはり昔と変わらなかった。
私がセーターに手を掛けて持ち上げると、バチバチと静電気が急かし立てる。

カチャッとドアが開き、理沙ちゃんが入ってきた。
「あれ、絢。まだ入ってなかったんだ?」
顔の位置まで持ち上げていたセーター越しに理沙ちゃんの声が聞こえる。
「え、うん。」
セーターマン状態のまま返事をした私がそれを頭から抜くと、理沙ちゃんは既に下着姿になっていた。
私の視線に気がついたのか、理沙ちゃんが小さく微笑む。
「絢?どうかした?・・・あ、ホントに、イヤだったら別々に入っていいよ?」
「ううん。違うの。やっぱり、なんか恥ずかしいなって・・・」
心配そうな理沙ちゃんに、慌てて弁解する。

「理沙ちゃんは、恥ずかしくないの? この前もだけど、脱いでも恥ずかしくない?」
言ってから、言うべきでなかったと後悔した。
「そりゃあ、人前では恥ずかしいよ・・・でも、絢とはそんな他人行儀な関係じゃなかったと思うけど?」
理沙ちゃんは気にした風も無くブラを外す。
「そっか・・・そうだよね。」
なんとなくその言葉に勇気付けられて、私もスカートのファスナーに手を掛ける。
既に裸になった理沙ちゃんは、洗面台の引き出しからタオルを1枚取りだしてお風呂場のドアを開ける。
均整の取れた健康的な肌が擦りガラスの向こうに半分隠れてこっちに向き直る。
「わたしが出るまでには入っておいでよね。」
小さく笑って理沙ちゃんがドアを閉める。
その仕草が可愛くて、私は頭を大きく振ってから急いで服を脱ぎ始めた。

 

 

 

 

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