Beams その6


あられが何も言わないまま、先程の横断歩道まで戻ってきてしまった。
またしても信号待ちの為に立ち止まったあられの横に並び、答えを聞かせてよと視線を投げてみる。
「あの、さ・・・」
いつも強気なあられが珍しく俯いたまま、引き攣った声を漏らす。
「うん?」
優しい作り笑顔で、その先を促す。

「これ・・・来週、まゆきち誕生日でしょ? だから、今日一緒に来て欲しくて、直接渡したくて・・・」
決心したように真っ直ぐボクを見詰め返すあられが差し出したのは、Happy Birthdayのリボンがついた小袋。
ふぅん。その態度、この行動。そーゆー事か。
「ボクに? そんな、お金掛けてくれなくてもいいのに。」
形式上、一応遠慮しておくボクに、あられは困ったように口調を早める。
「ダ、ダメよ。もう買っちゃったもの、それに、大して高いものじゃないし・・・ね?」

「そっか。じゃぁ、ありがとう。 でも、来週なのに随分早いね。」
差し出された小袋を受け取り、2度目の青信号を渡り始める。
次々と核心部分を問い質すボクに、一先ずの目標を達成して安心したあられがようやく口を開く。
「だって当日なんて絶対競争率高いし、そんな人が一杯の日に何かあげても、その中に埋もれちゃうだけじゃ
寂しいじゃない・・・」

整えられた眉をハの字に下げ、上目遣いで弱々しく苦笑するあられのビームは、友達向けのものだろうか?
「競争率って、そんなマンガじゃあるまいし。」
小さく笑い飛ばすボクに向ける視線は、依然、真剣だ。
でもね。人工美少女のその程度のビームでは、このボクを倒すことは出来ないよ。
「マンガみたいだったじゃない。去年、まゆきちの後ろの席で見てたもの。」
まぁ、マンガみたいは大袈裟だけど、覚えはある。
休憩時間には最低一人はプレゼントを渡しに来たし、席を外して戻ってくれば机の上に何か置いてあったり。
「あー・・・あはは。 で、なに?真似してみたくなったの?」
わざと意地悪くにやけるボクを、そんなわけないでしょと頬を膨らませて突き放す。

「ね、開けてもいいかな。」
駅も近づいてきたので、あられに許可を求める。
「うん。開けて開けて。」
返事と共に小袋の封を解いて傾けると、シルバーのオープンハートが目を引くチェーンブレスレットが
金属質の音を立てて滑り出てきた。

マズイ。装飾品かぁ・・・

装飾品は普段使っているかいないかがハッキリ判ってしまう。
しかし、これだけ派手な見た目なら学校で着けている訳には行かないので、少しほっとした。
「ありがとう。今、着けてみるね・・・ん、どうかな?」
左手に素早くそれをはめ、あられの目の前に差し出す。
「改めて見ると、まゆきちの手って綺麗よね。」
差し出された僕の手首をしげしげと観察する。
「いや、プレゼントの話をしてるんだけど・・・」

ハッと我に返ったあられは、照れ隠しのようにボクの手を下ろして、そして繋いだ。
「やっぱり、制服には合わないよね。」
あられはそう言って、少し、俯いた。
「そうだね。合わないね。」
爽やかに言い放ったボクを一瞬、見上げたあられは再び視線を地面に移してしまった。

もう・・・仕方ないなぁ。
「じゃあ、今度私服に合わせてみるね。ありがとう。あられ。」
ボクが名前を呼んだ瞬間、あられの顔には生気が戻り、うるうると瞳が潤んでいく。
「う、うぅん。よかった。喜んでもらえて。」
繋いだ手に、少し力が込められる。

でもね。勘違いはしないでよ?

「友達だもん。嬉しいに決まってるじゃん。」
わざと最初の単語を微かに強調して、楔を打つ。
気づけば良し、最初からそのつもりが無ければなお良し。
「そーよね。良かった。」
いつもの調子を取り戻して、あられの姿勢が普段の角度に戻った。

やれやれ・・・プリンセスのエスコートは疲れること。

 

 

 

 

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