Beams その26


すっかり暗くなってしまったので、駅まで千河を送る為に外へ出た。
4月も半ばとはいえ少し肌寒い宵口に、繋いだ手の温もりが心地よい。
「今日は、その・・・ありがとってゆーか、ごめんってゆーか・・・」
いつものおでこ全開メガネに戻った千河が、いつもと同じ位置から、いつもと同じように目を見ずボクに言った。
「いいよ、千河。だってボクたち特別だもん。」
すっかり落ち着いたボクも、今日は千河ではなく空を見上げて言う。

「まゆのイク時の声と顔、あたしずっと忘れそうにない。」
その一言にまた顔が熱さを取り戻し、握った手に思わず力が籠もってしまう。
「や、やめてよ・・・恥ずかしいから・・・」
ボクの困惑に、千河がうふふと冗談であることを示す笑いを浮かべる。

「あ、そだ、忘れてた。・・・これ。」
立ち止まって鞄を漁り、よいしょと引きずり出したのは紺色の紙袋。
「・・・誕生日、おめでと。」
しっかりボクを見つめて、真剣な表情の千河の頬は少し赤い気がした。
「うん。ありがと、千河。・・・あれ? この袋って確か・・・」
見覚えのある袋を受け取りながら微笑むと、キリキリと千河の眉が吊りあがっていく。
「バ、バカッ!何で覚えてるのよ! あの時、空気読めって言ったのに・・・」
ふいと顔を逸らした千河はすっかりいつも通り。

「あはは。ごめん。・・・ねぇ、開けていい?」
「ダ、ダメダメダメ! 帰ってからにして!」
慌ててボクに向き直った千河の反応に、思わず吹き出してしまう。
「えぇー。ざーんねーん。」
しょんぼりビームの直撃を避ける為か、千河はつかつかと歩き出してしまった。
とはいえ、悪い気はしない。
千河を送った後は、ワクワクを持って帰れるから。

「ねえ、千河。すぐじゃなくて良いんだけどさ、今度はボクに千河の事教えてよ!」
走って追いつきながら掛けた一言に、みるみる千河の顔が赤くなる。
「バ、バババ、バカッ! そんな事今から言わないでよっ!!」
あまりの慌てぶりに、少したじろいでしまう。
「今言われちゃったら、何日そんなドキドキ抱えてなきゃいけないのよ!」
鞄を抱きかかえて、逃げるような早足の千河に後ろから抱きつく。

「そーだなー・・・じゃ、千河がボクの事バカって言わなくなったらってどーかな?」
ボクの腕の中に納まっている特別な友達は少しだけ向きを変えて、ボクを睨みつける。
「バカ・・・まゆの事、バカって言っていいのはあたしだけなんだから。」
ボクの腕に手を掛けながら歩みを止めない千河は、ずるずるとボクを引きずりながら進んでいく。
「そっか。じゃ、他の条件考えとく。」
「ふん。えらそーに。」
ボクからは見えないけど、そう言った千河の微笑みはとても穏やかなものだった。

「・・・じゃ、もうここで大丈夫だから。またね。まゆ。」
区切らないと終わらないと思ったのか、少し勢いをつけた口調で告げた千河がボクの腕を抜け出す。
「うん。また、月曜日。気をつけて帰ってね。」
顔の横で手を振り、キラキラ爽やかビームで送り出す。

これからの日々、きっと日常に変化は無い。
だってボク達は友達だから。
でもそれは『特別』で、普段隠している本当の自分を見せることが出来る友達。
そしてちょっとした非日常も分かち合える、そんな友達。

大通りへの曲がり道を曲がる直前に、一度だけ振り返った千河を見届けたボクは紙袋を抱きしめて家路を急ぐ。
この袋の中には、どんな想いが入っているのかな。
とてもビームになりそうも無いニヤニヤを湛えたまま、ボクは弾む足取りで夕餉の匂いの住宅地を駆け抜けた。


fin

 

 

 

 

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