Jack-o'-Lantern comes to her e   その1

 

 

10月31日のハロウィンは西洋では大事なお祭りらしいけど、日本ではクリスマスほど騒がれない。
でも、賑やかなのが大好きな理美ちゃんがその話題を出してきた事に、別に何も不思議はなかった。

「なぁ、氷音先輩。 今度のハロウィンやけど、うちでパーティーせぇへん?」
委員会が終り、すっかり駅まで一緒に歩くのが当たり前になった帰り道。
街を彩るハロウィンカラーのディスプレイや広告くらいでしか、来週に迫ったその行事に馴染みのない私は、
小さく首を傾げて聞き返す。
「パーティー・・・? いいけど、あとは誰を呼ぶの?」
学年の違う理美ちゃんと私の共通の知り合いなんて、図書委員の面々くらいしか思い浮かばない。

「え、なんで?」
「え・・・なんでって?」
理美ちゃんがわざとらしく不安げな顔を作ってそう言うので、お互いに疑問符をぶつけ合ってしまった。
「ウチは氷音先輩とパーティーしたいねんか。 他におる必要ないやん。」
「あ、ごめんなさい・・・そういう意味だったのね。」
唇を尖らせる理美ちゃんに、私はあわてて謝る。
パーティーと聞いて、大人数でわいわいなんてイメージを勝手に抱いた私がいけなかったのね。

でも、理美ちゃんのお家でということは・・・
「お邪魔するなら、また理美ちゃんのおばあ様にお会いできるのね。 この前のお礼言わないと・・・」
文化祭のたこ焼き特訓でお邪魔して以来お会いしていないので、私は改めて御挨拶がしたいと思っていた。

「え、なんで?」
「え・・・なんでって??」
今度こそ疑問を挟まれる理由が見当たらなかったので、さっきよりも声が大きくなってしまった。
「おばあはんは、老人会の旅行やからおらへんねんけど・・・ 氷音先輩、さっきからなんでウチと二人に
なんの嫌がってんの?」
唇だけでなくいろんな部分を尖らせて、理美ちゃんが私の腕をつかむ。
「ご、ごめんなさい、違うの、他意はないの。 本当にお礼が言いたかっただけで・・・」
掴まれてない、鞄を持った左手を必死で振りながら釈明する私に、理美ちゃんが小さく噴き出す。

「ほんまに? ほんまにウチと二人でパーティーすんの、嫌やない?」
この時間帯は人通りがあまりないとはいえ、腕を掴まれてる状態は、何だか周囲を意識してしまう。
「当り前じゃない。 急だけど、パーティーの予定が出来て楽しみになったわ。」
信じて、と付け足して微笑むと、理美ちゃんは途端に元気を取り戻してほっとしたように笑顔になる。
「あは、よかったー。 あ、そしたらウチ、氷音先輩の手料理食べたい!」
「いいけど、家庭科の授業で習ったのくらいしかできないわよ?」
「そんなん関係あらへん! 氷音先輩が作ってくれるちゅうのがウチにとっては御馳走、いや、宝物や。」
下から覗き込むような期待の眼差しに、つい気圧されて頷いてしまうのは、嫌じゃないからというよりは
理美ちゃんの視線が眩し過ぎて応えてあげたくなっちゃうからなのよ。

「よっしゃ! ほな、セッティングはウチに任して、氷音先輩は何作るか考えといてな。」
「えぇ、わかったわ。」
そんな話をしながら地下鉄の階段を下り、着いた改札で反対方向へ分かれる私達。

改札を抜け、別々の階段へ向かう間際に立ち止まり、いつもの別れの挨拶。
お互いに向かい合い、見つめ合ってからほんの一秒だけ相手と両掌を合わせる。
人前でキスはしない約束だから掌同士でキスしてお別れ。
意味を知らない他人が見ても別にどうということはないけど、私達にとっては秘密のキス。

「じゃぁね、理美ちゃん。」
「うん、氷音先輩、気ぃ付けてな。」
何食わぬ顔で小さく手を振り、私達はそれぞれの帰路へと就いた。

 

 

 

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10月31日 当日

 

 

学校が終わって、理美ちゃんと一緒に最寄り駅のスーパーで買い物をし、お宅へ辿り着いたのは午後5時前。
理美ちゃんが手伝ってくれたおかげもあって、夕食の準備は思っていたより順調に進んだ。
どんくさい私でも作れるようにと選んだメニューはカボチャ入りシチュー。
そして『普段は魚が多いから、肉食べたい!』という理美ちゃんの希望で、一口サイズの豚野菜巻き。

「氷音先輩、お疲れ様。」
料理が完成し、理美ちゃんが満面の笑みで労ってくれる。
「二人で頑張ったから、速かったわね。ありがとう。」
「せやな。 愛の力やね。」
そう言って噴き出した理美ちゃんにつられて、私も笑ってしまう。

「さ、じゃぁ、並べちゃいましょう。 理美ちゃん、お皿を・・・」
「あーーー! ちょい!ちょい待ちや、氷音先輩。」
言いかけた私に、理美ちゃんのストップがかかる。

「ただそのまま氷音先輩の手料理頂いてたら、普通のパーティーや。 ここからが大事やねんか。」
理美ちゃんの浮かべている笑みが、ジャック・オ・ランタンのような悪戯心に満ちたものに変わった事に、
私は気づいてしまった。






 

 

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