Massive efforts その6


「みっひ〜〜! お待たせ〜!」
ごった返す日曜の待ち合わせ場所に咲いている可憐な花に、あたしは大きく手を振りながら駆け寄る。
「萌南。」
「ごめんねー。待った?」
あたしは両膝に手をつき、切らせた息を整えようと荒い呼吸に専念する。
ごめんね、待った? なんて、もう、くはぁー! まるでデートじゃん!
「いや。問題ない。約束の時間まではまだ余裕がある。」
下がったままのあたしの頭にポンと手を置いて撫でながら、みっひーは冷静にそう言った。

みっひーに頭を撫でられると、先週のゲーセンでの出来事がまた浮かんできてしまう。
勇敢で、強くて、かっこ良くて、凛々しくて、可愛くて、かっこ良くて、素敵で・・・あと、かっこ良くて。
何とか呼吸が落ち着いたので、ふう、と大きく息をつき頭を上げると、そこには想像もつかない姿があった。

「おわ! みっひー、超可愛い!」
イメージと実際のあまりのギャップに、あたしは視線を3度ほど頭のてっぺんから爪先まで往復してしまった。
てっきり普段着はアクティブなスポーツカジュアルや、ユニセックスなコーデを着てるだろうと思っていたのに、
その予想は全くかすりもしていなかったのだから。
5月の爽やかな晴天に映えるピンクのカーディガンの内側は、胸元にピンクのレースが可愛い白のキャミ。
短過ぎないティアードスカートも、ピンクのグラデーションがとってもスィート。
そんなみっひーは足元だって抜かりが無い。ふくらはぎラインが綺麗な白のハイソックスの先端は、きちんと
お手入れされた白とピンクのスニーカー。

「ふむ。あまり服を持っていないので、選択の余地がないだけなのだが、萌南の方がずっと可愛い。」
いやいやいや、あたしはいろんな服持ってるし、なにより今日のは勝負服だし!
みっひーの服が『選択肢が少ない』というだけの理由で選ばれたのなら、なんだか、めげそうになる。
「えー? そ、そうかな? あたしもそんなにいろいろ服持ってるわけじゃないし・・・」
軽く嘯いてそんな気持ちをごまかす。
・・・でも、まぁ、みっひーに褒められたのは嬉しいな〜☆

「そうなのか。さて、そろそろ行こうか。」
あまり人混みが得意でないのか、みっひーが目的地方向に視線をちらりと向けてから提案した。
「うん。遅くなっちゃうもんね。」
嬉しさと複雑さが入り混じった気持ちを抑え、あたしは何食わぬ顔でみっひーに手を差し出す。
手首にピンクリボン付きシュシュの揺れる手が繋がれ、折角落ち着いた鼓動のペースがまた上がってしまう。

 

 

「みっひー、こないだ保健室で寝てたけど、どーしたの? 貧血とか?」
歩道を並んで歩きながら、真横にある顔を覗き込みつつ問いかける。
みっひーには聞きたいことだらけで仕方がない。
もっと、みっひーの事を知りたいよ・・・
「いや。その前日の修行がハードだったんだ。それに加えて昼食もあまり食べられなくてな。」
「そっかー。ダイエットで食事制限とかしちゃダメだよー。」
修行とかいう中学生らしからぬ単語が聞こえた気がしたけど、お昼ご飯食べられなかったとか言ってるから、
お姉さん風を吹かしてみる。
「ダイエットなどした事はないが・・・萌南は心配してくれるのか、私を。」
またほんの少しだけ、クールなみっひーの口元が持ち上がってドキリと鼓動が跳ね上がった。
「当たり前じゃーん。友達が倒れるとか、可哀そうだしヤだもん。」
「優しいな、萌南は。ありがとう。」
今度は口元だけでなく、みっひーはしっかりと微笑んでいる。

はうっ!!
跳ね上がったばかりの鼓動が更に2コンボで跳ね上がる。
始まって間もないのにこんなに感動ばかりしてたら、あたし死ぬ! キュン死するっ!!

「ト、トモダチナラアタリマエ〜」
ドキドキを隠そうとしたら、動画のテロップで見た事がある、すごく古いフレーズが出てきて驚いてしまう。
わー! オッサンか!? あたしオッサンなのか!?
「そうか・・・友達、か。 もう作ることも無いと思っていたが、やはり良いものだな。 嬉しい。」
コメントをスルーされたショックで、あたしはその大事な呟きを聞き取ることが出来なかった。

駅からしゃべりながら歩くこと15分ほど。
今日のデートプラン・・・じゃなかった、目的は、みっひーの希望もあって『大きな公園でお弁当を食べる』という
とっても健全な内容。
あたしだったらアキバヲタスポット巡りとか平気で言っちゃいそうだから、新鮮で嬉しい。

「着いたねー。場所探そっか。」
両脇をきれいに整えられた芝生で囲まれた石畳をエスコートするように、あたしは繋いだ手を引き寄せる。
見渡せば、家族連れやカップル、子供だけの集団などが楽しげに思い思いの時間を過ごしていた。
敷地内ではフラワーフェスティバルなる小規模な催し物も開催されていて、出店もちらほら見受けられる。
ちょっと騒がしいけど、こんなロケーションの中でみっひーとお弁当・・・あぁ、楽しみ・・・

「萌南。」
突然名前を呼ばれ、不意を突かれたあたしは驚いて声の主を振り返る。
「あれ・・・好物なんだ。買って来てもいいか?」
みっひーが指差す先は、風に運ばれてくる香りすら魅惑的なベビーカステラの屋台。
「あー!あたしも食べたーい! 美味しいよねー。あれ。」

みひろ隊員!ナイスディスカバリーでありますっ! 敬礼っ!ビシッ!
「そうか。では私が行こう。待っててく・・・」
手を離そうとしたみっひーを、あたしは慌てて繋ぎ止める。
「みっひー。 こーゆーのはね、一緒に行くの。友達でしょ?」
微笑むあたしを見つめ返したみっひーは、口元を緩めて大きく息を一つ吐いた。
「そうだな。 すまない。行こう、萌南。」
離れかけた手を再び繋ぎ直して、あたしたちは屋台へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

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