Massive efforts その13


なんということでしょう・・・

何も考えず、みっひーの事だけを心配した結果、両親が共働きのあたしの家に二人きり。
ぐちょぐちょの制服をあたしの服に着替えさせ、お風呂を沸かす間にダイニングでホットココアを飲んで、
入浴中のみっひーを待ってる今のうちに部屋の片づけ中。
普段から片づけておけばよかったと後悔したのは、これが生まれて2度目。
汚れてるわけじゃないけど、座る場所から手が届く範囲にあらゆるものが陳列してあるから。
それに・・・雨続きでベッドのシーツだって毎日変えられないのに。

・・・って、バ、バカ!!
何の心配してるのよ!あたしったら!
そんなこと、あるわけないじゃない!!

「萌南。入るぞ。」
雑然とした部屋をなんとか見せられる程度の体裁に整えた時、お風呂上がりのみっひーがドアをノックした。
「あ、う、うん。どーぞ。」
テストの結果が渡される時のような緊張を抱きながら返事をすると、ゆっくりドアが開いて現れたみっひーは
乾かしたばかりの長い髪を下ろしたままで、いつもと違った印象にあたしの鼓動が騒ぎ出す。
「お風呂ありがとう。 温まって少し楽になった。」
そう微笑むみっひーに、あたしは普段自分が座るクッションを差し出して隣に導く。

「ううん。いいよ。風邪引かないでね?」
何となく正座してしまって、クッションにアヒル座りのみっひーを見つめる。
「あぁ。萌南のおかげで大丈夫そうだ。 制服が乾くまで、世話になる。」
天井に視線を移したみっひーは、小さく溜息をついて何を思うのだろう。
血行が良くなってピンク色に染まった耳や頬、長袖のトレーナーから突き出た手。
とにかくみっひーの肌が出ている部分に目が行ってしまい、いたたまれなさが限界に達する。

「あ、あのさ、みっひー。 アゲハちゃんのDVDでも観る? 1期は全部揃ってるし、今放送中の2期だって
発売されてるのは持ってるから・・・」
「萌南。」
「ふぁいっ!」
DVDを取りに行こうと腰を浮かしかけたところで呼び止められ、見透かされたのかと身が竦んでしまう。
恐る恐る振り返ると、縋る様な視線であたしを見上げるみっひーが更にあたしの平常心をかき乱す。

「そういうのは、今はいい。 折角、萌南と二人だしな。」
ちょっ・・・
ど、ど、ど、ど、ど、ど、どーゆー意味で!?
薄い笑いを浮かべるも、あたしの内心には本物よりも早く今年初の台風が発生してしまう。
やだやだ、ナニコノ空気!?
てか、あたし、何を期待してるの?

震えそうな手を床について座り直し、上ずった声で「そっか」とだけ、辛うじて返すことが出来た。
視線は、壁に貼ってあるアニメのポスターを行ったり来たり。
「あの抱き枕、本当に使ってるんだな。」
みっひーの一言に、いちいち心臓のペースが跳ね上がる。
「え・・・うん。せっかくみっひーに貰ったんだもん。 でも、やっぱり使ってたらヘン、かな?」
よりによって、先程否定したばかりのベッド関連の話題だなんて、必要以上に意識してしまう。
「いや、変ではない。 ただ、羨ましいと思っただけだ。」

羨ましい・・・?
あぁ、そう言えば初めて会ったあの日、確かにみっひーもこのクレーンゲームをやりたいと言っていた。
だからこれを使っているってことが羨ましいのかな。
「そんなに欲しかったの? あは。なんか意外。」
少し肩の力が抜けて微笑むも、みっひーの表情が少しだけ、変わった気がした。
「欲しかったなんて、そんな言い方しないでくれ。 私は、ただ・・・」
明らかに狼狽るその表情に、クールなみっひーにもそんな子供っぽい所もあるのねとにやけてしまう。
それがまた、可愛いの。
もう、この子はどこまであたし好みな子なんだろう。
愛しさが溢れ出てしまいそうになるのを、あたしは必死で食い止める。

「じゃぁさ、貸してあげよっか?」
枕を貸すなんて、なんかちょっと恥ずかしいけど、そこまで言われたらそういう気にもなるってもの。
「ほ、本当か? いいのか、萌南?」
嬉しそうというよりも、戸惑いの方が強いみっひーの顔を見つめて、あたしは小さく頷く。
「いいよ。 なんだったら少しお昼寝していく? 乾くまで時間かかるし。」
「も、萌南さえよければ・・・お願い、します・・・」

ぺこりと丁寧に頭を下げたみっひーの頬が、心なしか赤い気がする。
枕が羨ましいなんて、いくらみっひーでも言うのは恥ずかしいもんね。
一人納得しているあたしの横で立ち上がったみっひーがお昼寝するなら、あたしはリビングにでもいようかな。
そう思って一緒に立ち上がったあたしに悲劇というか喜劇というか、なんだか訳が解らない事が起きようとは、
想像だにしていなかった。

 

 

 

 

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