Massive efforts その14


あたしの背中と膝の裏にみっひーの腕が当たったと思ったら、世界が90度傾いた。
ふわりと体が浮き上がる感覚がして、すぐ左上にはみっひーの顎。
「え・・・?」
なんであたし、みっひーにお姫様抱っこされてるの?

そんな疑問が浮かんだのも束の間、みっひーが一歩踏み出したその先で、あたしの身体はゆっくりと下降して
寝る前や起きた時に見える景色が目の前に広がる。
・・・ベッドから見た天井だ。
「え、何? なになに? え?」
ようやく声が出て、あたしの視線は忙しなくみっひーを捉えようとする。
何が起こってるのか、全く理解できていない。
鼓動のペースだけがどんどん上がってきて、無意識に胸の前で両拳を握り締める。

探していたものが、天井とあたしの視線の間に割り込んできた。
・・・それもすごく近い。
・・・・・・吐息が届いてしまいそうな距離で、視線が絡み合う。
1・・・2・・・3・・・4回。
みっひーの両掌と両膝がほんの少し、あたしの周辺のマットレスを沈めた。

枕の話は、一体どこへ行っちゃったのよ!?
てか、なんであたしマウントポジション取られてるの?
つーか、みっひー、睫毛長いし、目の白い部分も綺麗だし、すっごい可愛いんだけど!?
混乱するあたしの思考はすっかり行くべき方向を見失い、ただ目の前のみっひーを見つめてしまう。

「萌南・・・」
あたしの名前を囁かれ、つい身を固くしてしまう。
ゆっくりと、とてもゆっくりと、ただでさえ殆ど離れていないみっひーの顔との距離が縮んでくる。

まさか、みっひー・・・
胸の奥から湧き上がる鼓動というノイズが、あたしの聴覚を支配する。

そーゆー事なの・・・?
慣れ親しんだあたしのシャンプーの香りが近づいて来て、あたしの嗅覚を奪って行く。

いいよ。みっひーなら・・・
あたしは自ら、目を閉じて視覚を絶った。

暗闇の中でその時を待つあたしの身体がそっと抱き締められ、温かい重さが訪れた。
待っていたキスは来なかったけど、密着した全身がぞわぞわと喜びに染まっていく。
あたしの使ってるボディーソープとシャンプーって、組み合わさるとこーゆー香りになるって知らなかった。
浅い呼吸の中でそんな事を思いながら、みっひーの腕の中の温もりを噛みしめる。

「さぁ、萌南・・・いつもアゲハにしているように、私を抱き締めてみてくれ。」
耳元で囁かれ、くすぐったくて無意識に首が竦む。
え、でも・・・あれ?
『私を抱き締めてみてくれ』・・・?

あたし、もしかしてすっごい勘違いしてた?
『抱き枕を使えるのが羨ましい』じゃなくて、『あたしに抱かれる枕の立場が羨ましい』ってコト!?
つ、つまり、みっひーはあたしに抱き締められたいって思ってるってコト・・・よね?

はわあああぁあぁっぁああぁ!!!
ヤバい! あたし、とんでもないことOKしちゃってるじゃない!
先程までの幸福感はどこへやら。
目を開けば真剣にあたしを見つめているみっひーの顔の赤さが、冗談ではないんだと諭しているよう。

「萌南? やはり、私ではダメか?」
「ちがっ、違うの、そうじゃなくて・・・」
僅かに低い声が聞こえて、あたしは慌ててそれを否定する。
「みっひーが、あたしの事そんなふうに想っててくれたのが、嬉しくて、びっくりして・・・」
「そうか? 萌南は抱き締めて欲しいくらいの友達だと思っていたが・・・おかしいか?」
少し眉をひねり、口を尖らせるみっひーを、あたしはぎゅっと抱き締める。

「おかしくない。 だって、あたしもそうしたいもん。」
微笑んでみても、それはみっひーには伝わらない。
なぜなら、あたしの胸にしっかり頭を抱き締めちゃってるから。
「萌南、呼吸が、しにくい。」
あたしのトレーナーの盛り上がりに埋もれながらも、冷静なみっひーが不満を漏らす。
でも、場違いな文句なんか無視しちゃうほどに、愛しさがあたしの腕の力を強くする。

「みっひー・・・好き。」
もう、止まれなかった。
後の事なんて、考えもしなかった。
ただ、溢れ出る想いを、言葉に変えて。
「萌南。私も好きだ。だが、息が。」
「違うよ、みっひー。 あたしのは友達の好きじゃなくて、恋人にしたい、好き。」
みっひーを解放し、感極まって零れそうな涙を堪えながら、無理やり笑顔を作る。

「はぁっ・・・それも、いい、と、思う。」
酸素を補給しながら答えるみっひーも、無理やりっぽい笑顔を浮かべてあたしを抱き締める。

みっひーの身体は、やっぱり温かい。
見つめあいながら、腕だけでなく脚も絡めて、あたしたちはそのまま極上の眠りに落ちていき、
目が覚めた時には、すっかり雨も上がって夜の帳が落ちてしまっていた。

浴室で乾燥された2着の制服が寄り添ったまま、あたしたちを笑っていたような気がした。

 

 

 

 

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