Massive efforts その31


「はよー・・・今日は一緒に登校なんだ。」
地下鉄の階段を上り、再び眩しい朝日の下へ降り立った時、丁度後ろからそんな声が掛かった。
「はよー。真紀ちゃん。」
「おはよう、ございます。」
あたしとみっひーの電車の方向が反対という事を覚えてたからか、真紀ちゃんが首を傾げながら手を振った。

「萌南、昨日の夜ネトゲにインしてなかったね。 経験値2倍週間なのに珍しい。」
敢えてみっひーとは反対側のあたしの隣に真紀ちゃんが回り込んで、狭い歩道に3人横並び。
「そーだったんだけどねー。 昨日はそれどころじゃなくてさー。 ねー、みっひー。」
「え・・・あぁ、そうだったな。」
何故私に話を振るのかと、みっひーは一瞬驚いた顔になってあたしを振り返る。

「ん? 何かあったの?」
「うん、あたし、昨日誘拐さ・・・」
「萌南。」
あたしの言葉に素早く反応したみっひーが、鋭い視線でその先の句を制止する。
「え、なに? 何の話?」
「あ、いや、うん、あのね・・・」
会話の不自然さに気付いた真紀ちゃんの目に好奇の火が灯ったので、あたしは慌てて話を逸らそうとして、
必死に頭を回転させる。

「昨日は成り行きでうちに親が帰って来なかったから、みっひーがお泊りしてったの。」
「も、萌南・・・」
今度は驚いただけでなく、困ったような表情を覗かせたみっひーの彷徨う視線も含めた上で、真紀ちゃんが
あたしの言わなかった部分を補完しようと必死に頭を回転させる。

「あー・・・そーだよね。 じゃぁ、インしてる場合じゃなかったよね。 あは、あはは・・・」
どーゆー結論に辿り着いたのかは分からないけど、とりあえず誤魔化す事が出来てほっと胸を撫で下ろす。
ふたつの複雑な表情と沈黙に、真ん中に挟まれたあたしは押し潰されてしまいそう。

うわぁぁぁん!
ナニコノ居た堪れない空気!
まさに嫁と姑に挟まれた夫状態!?
・・・でも、このまま学校に到着しちゃうのもなんだし・・・

「あのさ、今日の放課後、二人とも暇?」
鞄を肩に掛けて二人の手を取り、精一杯明るい声を出す。
「え。 今日は部活なんだけど・・・」
「すまない、昨夜疎かにした鍛錬をしたいのだが。」
そんな、対角線上のお互いを意識した回答は、あたしだって予測済み。

「そんな事言わないでよー。 あたしも部活休むからさー。」
ギュッと真紀ちゃんの手を引き寄せて笑顔になれば、呆れながらも返事は変わる。
「みっひーもさ。 昨日鍛錬したじゃん、ある意味。ね。」
その言葉に反応したみっひーが頭から湯気を出したのは、誘拐事件じゃなくてアレを鍛錬と受け取ったから?

「で、何がしたいのよ?」「どんな用事だ?」
同時に言葉を発してあたしを覗き込んだ二人が、あっ、とお互いに視線を合わせる。
「あたし、パフェ食べたい。今日食べたい。」
「しょーがないなー。」「萌南がそうしたいなら、ついて行くぞ。」
再びかぶった言葉に、二人は小さく苦笑い。
なんだ、結構気が合うんじゃない? みっひーと真紀ちゃん。

「わー、ありがとー! じゃ、終わったらここで待ち合わせね、みっひー。」
到着した校門の柱の横であたしはぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「あぁ。わかった。では放課後な。」
そう言い残してみっひーは中学校舎へと向きを変えた。
その背中を、離した手を小さく振って見送る。

「萌南、何か企んでる?」
真紀ちゃんがあたしの頬をつんつんしながら訝しげな声を出す。
「別に〜? あたしはただ!あたしの欲望に忠実に生きるのみ!!」
握り拳にドヤ顔をキメて見つめた真紀ちゃんの顔は、朝から2度目の呆れ顔。

「ま、いいけどさ。 萌南のおごりだよ?」
「ふふん。任せたまえ真紀くんよ! 今日の吾輩は気分がいいのだ!」
「お、マジで!? やっぱりなんか企んでるでしょ?」
「別に〜? あたしはただ!あたしの・・・」
「あれ? デジャヴュ、それ何回繰り返す?」

 

 

こんな日常を大切に思えるようになったのは、きっとみっひーのお陰かな。
今日もまた、新しい楽しみ一つ。



fin

 

 

 

 

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