Never open doors   その12


9月 2日  曇り→??   15:39

place 校門前(校庭側)

 

「あ、優緒ー!」
そんな声が後ろから掛かったのは、ちょうど私が校門の写真を5枚撮り終えた時だった。
湖那みたいに上手く撮れる訳じゃないけど、まぁ、デジカメなんて誰でも普通に撮れるようにできてるんだから
問題無く撮れているはず。

「湖那。」
走り寄ってきた二人を振り返って待ち、私は幼馴染の名を呼んだ。
「あれ、守口先生は?」
ほぼ一緒にやって来た清良さんが周囲を覗うように首を巡らせる。
「いないですねー。 よかったよかった。」
路美花ちゃんは相変わらず能天気な返答を返しながら、大きく何度も頷く。

おバカ。
探してるって事は、湖那たちがまだ会えてないって事でしょうが。
許可を取ると言って出て行ったのに30分以上も会えてないなんて、何をしてたのかしら。

「優緒たちは、途中で誰かと会わなかった?」
湖那が真剣な表情で、私達にそう尋ねてきた。
「いいえ、守口先生には会ってませんよ。」
潤里ちゃんが、路美花ちゃんと顔を見合わせながら、ね、と同意を求めている。

「他には?」
「他に・・・?」
湖那の言ってる事の意味が分からなくて、つい鸚鵡返ししてしまった。
「わたくし達と守口先生以外に、誰かいるんですか? 軽手さん。」
「うん、それがね・・・」
湖那が答えようとした時、私達の顔に冷たい物がポツリ、と空から落ちてきた。

「あ。雨だ。」
山の天気は変わり易い。
先程まで立ち込めていた灰色の雲からそれが降ってくるのは、何も不思議な事ではない。
路美花ちゃんが掌を顔の前にかざしてそれを確かめる。
数えられるほどの雨粒は、徐々に勢いを増してきそうな雰囲気。
「だね。 じゃ、一旦教室に戻ろ!」
眼鏡に着いた水滴を拭って指揮をとる湖那に続き、私達は慌てて校舎へと引き返した。

 

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「あー、本格的に降って来ちゃったねー。」
私達が教室に戻って間もなく、外は夕立になってしまった。
ざあざあと音を立てて窓ガラスに叩きつけられる雨の調子を眺めながら、路美花ちゃんが呟いた。
・・・もちろん、チョコスナックを片手にだけど。

「湖那。 カメラ返しとくわね。」
私は撮った写真をチェックしてもらう為、湖那にカメラを手渡す。
「ん、ありがと。 何か変なもの撮れた?」
「この二人が怖がってる表情ならバッチリ撮れたと思うわ。」
ジョークにしては顔が笑ってないけど、湖那の写真に対する熱意は良く知ってるから私はジョークで返した。
「そっか、それは良い部費稼ぎになりそう。」
・・・これはきっとジョークじゃない。
二人とも校内では結構人気者だから、買い手数多でしょうね。

「ちょ、軽手さん! 勝手にロミオの写真売ったりしたら怒りますよ!」
「ジュリちゃんにはタダであげるから。」
「な! そ、そーゆー事じゃありません! ・・・もらいますけど。」
(イラッ)・・・もらうのね。

「ま、それはさておきなんだけど、みんな、なんか変な事になってると思わない?」

湖那の表情は、先程から変わらず真剣なまま。
「急に雨が降って来たとかですか?」
路美花ちゃんの能天気さが、羨ましい。 そして恨めしい。
「そんなのよくある事じゃない。」
私と同じ感想を持ったのだろう清良さんが、そう言ってガムを膨らませた。

「さっき言いかけた『他に誰かいる』ってのは図書委員の二人なんだけど、どうやって学校に入ったのかな。」
湖那が、見詰めていたカメラの液晶画面から顔を上げてぽつりと言った。
それは、窓ガラス越しに激しくなってきた雨音に掻き消されそうな、小さな声だった。

「え、それは僕達が来た時みたいに開いてたんじゃないんですか?」
手にしたペットボトルのコーラを飲み干して、路美花ちゃんが適当な意見を発した。
「んー、まぁ、仮にそうだったとしようか。」
湖那はさらりと路美花ちゃんの回答を流し、先に進もうとする。

でも、路美花ちゃん以外の私を含めた4人の表情を見る限り、きっと気付いたはず。
鍵を掛け忘れる事など、そうそうある事だろうか。
そして掛け忘れたというなら、果たして何日前からだろうか。
そんなの学校の責任問題になり兼ねない話じゃないの。

「じゃぁ、どうして廊下の蛍光灯が全部ついていたのかな。 図書委員の二人には1Fの廊下だけで充分な
はずなんだけど。」
私は、そこでハッとなった。
そう言われてみれば、私達が最初の写真『3Fの廊下』を撮りに行ったとき、確かに明かりが点いていた。
その時は『普段から点いている事が当たり前過ぎて』何も疑問には思わなかったけど、湖那の言う通りね。

「とりあえず配電盤のスイッチを全部入れた・・・んじゃないですか?」
自信なさげに、潤里ちゃんが小さく手を上げて推論を述べる。
私には、それは推論というよりも、そうであって欲しいという気持ちが溢れているように感じた。
「まぁ、仮にそうだったとしようか。」
またしても、湖那は軽く流す。
まだ核心に辿り着いていないから、どうでもいいという事なの?

「守口先生は、あんなに必死にわたし達が学校に入るのを止めようとしていたのに、何故わたし達を連れ戻しに
来ないのかな。 それに、優緒に掛けた先生の言葉、ちょっと変じゃなかった?」
それなら、私ははっきりと覚えている。
あの焦ったような表情、そして『戻ってこい!頼む!やめるんだ!』という言葉。
「優緒は、気付いたんじゃないかな。」
湖那が、背後に座る私に顔を向けて答えを促す。

「うん。 普通、そういう時に『頼む』からやめてくれなんて言い方はしないわよね。」
人に何かを『頼む』というのは相手にやって欲しいという事で、それを禁止や警告に使う人はいるのかしら。
ましてや守口先生は国語の先生。
咄嗟に出てきた言葉だとしても、あまりにも状況にそぐわない。

「・・・つまり、先生には学校に入れない理由があるって事?」
私が辿り着いた結論に、湖那はまだどこか不満げな表情。
「うーん、そう言われると、ちょっと違うような気がするんだよね。」
「どういう事よ?」
ぼんやりとした湖那の採点の真意を尋ねるも、湖那は確信を得ていないのか天井を見つめたまま。

「1年の3人と転校生のクイーンは知らないかもだけど、配電盤って職員室の中なんだよね。」
「え・・・?」
「しかも、わたし達が職員室の前で先生を待つ前に確認したんだけど、職員室のドアには鍵が掛かってたの。」
そこまで言うと、湖那はふるふるとツインテールの頭を振ってから天井を見上げた。

「うーん・・・ いくらなんでも、おかしいよねー。」
湖那が足を組み替えて大きく溜息をついた。丁度その時------

ガラッ!!
教室の扉が突然、大きく開け放たれた。


 

 

 

 

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