Never open doors   その43


9月 2日  凶雲   20:59

side 路美花/優緒/潤里/清良   place 地下からの隠し階段 → 図書準備室 

 

真っ暗な螺旋階段を、途中でスマホやケータイを回収しながら駆け上り、あたし達は図書準備室に辿り着いた。
「あれ、電気が消えてる・・・」
江曽がポツリと零した一言に、あたしは疑問を持つ。
一体、誰が?

 

ドスン!

 

何かの衝撃があって、学校が大きく揺れた。
倒れるほどじゃなかったけど、真っ暗な準備室の中でライトの光が小さく暴れる。
「何かしら、今の。」
「地震・・・じゃ、ないわよね。」
「出てみようよ。」
ライトを持つ江曽が図書室へ繋がるドアを開けた。

やはり、ここも電気が点いていない。
ただ、ここは窓から光が入ってきているので何とか見通すことはできるのが幸いだった。

窓から、光・・・ ?

「あれ? 僕が梯子持ってきた時は電気点いてたのになぁ。」
「ちょっと、ロミオ、まだそーゆー事言うの?」
江曽が戻ってきて、地下からも助かったせいか、どことなく浮かれ始めた鳳を、あたしは一瞥する。

優緒ちゃんは、何かが起こった事を直感したらしく、すぐに廊下へ続くドアを開けに走る。
「廊下も、保健室も消えてる・・・ たぶん全部消えてるわ。」
「どういう事?」
「たぶん、たぶんだけど・・・ 電気がね、水に浸かったら、どうなるかしら?」
後を追ったあたしの問いかけに、優緒ちゃんは言葉を詰まらせながら答えた。

「どうなるって、電気が水に浸かったら漏電しちゃうでしょ。」
いくらあたしの化学の成績が悪いとはいえ、その位の事は小学生でも知っている。
「そう、よね。 今、解ったわ。 校長は・・・ 気づいてたのかもしれないわね。」
「ん? 何が?」
俯きながら何かに納得した優緒ちゃんに真意を尋ねようとしたところへ、また大きな揺れが走る。

「優緒さん! 久院さん! あれ!」
鳳が、明るい窓の傍で校門の方を指さしながらあたし達を呼ぶ。
優緒ちゃんが急ぎそちらに向かったので、あたしも仕方なく話しを打ち切り向かう。

 

それは、息を飲む光景だった。
校庭がところどころ燃えている。
そう、焚き火なんかではなく、地面に直接いくつもの炎が落ちている、という表現がぴったりだ。
日常では到底起こりえない光景に、背筋を冷たい汗が伝った、気がした。

「湖那・・・ 呼んじゃったのね、ヤマンソを。」
窓に着いた両掌を、そのままぐっと握り締めて優緒ちゃんが呟いた。
そして、校門の方には小さな人影だけがある事に、あたしは気付いた。
小さな、人影、だけ。

「みんな、校門の化け物がいなくなってるよ。」
あたしの言葉に鋭く反応したのは、もちろん優緒ちゃん。
「ホントね・・・ ということは、ニャルラトホテプはもういないって事、かしら。」
「どうだろう。 でも、早く湖那を助けに行かないと。」
「そうですね。 優緒さん、さっき校長先生が言っていた『いなくなれ』って、本当に効くのかしら。」
不安げな鳳は、ちらりと江曽に視線を送り一歩寄りそう。

「わからないわよ。 ・・・でも、やるしかないの。校長を信じるとか以前に、それしか方法を知らないもの。」
口調はいい加減に聞こえるけど、覚悟を決めた者特有の強い眼差しが、優緒ちゃんからは感じられた。
「え、なに、どうしたらいいのか、僕にも教えてよ。」
地下室に居なかった為、事情を知らない江曽に呪文の意味と方法を教えている間にも、学校が傾きそうな程
大きな揺れが二度巻き起こった。

「・・・わかった。 真剣に念じるんだね。」
「そうよ。私達に、全てが掛かっているって校長、先生も言ってたわ。」
校長に先生と付けて呼ぶようになった優緒ちゃんの決意。
あたしも湖那を助けるために、全霊を注ぐつもり。
不安げながらも胸元で手を握りしめ、校門を見遣る鳳。
本当に解ってるかどうかは分からないけど、これまでのあたし達のピンチを救ってきた江曽。

「終わりにしよう。 湖那も、岩佐さんも助けて。」
あたしは一様に頷いた3人の1年生を引き連れる形で、図書室から廊下へ出る扉へと、歩を進めた。


 

 

 

 

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