Upside down その27


みんなが作ったオリジナルの、栄養面も考えられたキャベツ入りたこ焼きに納得できなかった理美ちゃんが
本場のたこ焼きを皆に味わって欲しいが為に、文化祭が始まる前のこの時間を私は拝借している。

「理美ちゃん直伝の、本場のたこ焼きなんだけど・・・みんな、食べてみてくれる?」
わぁ、と声を上げながら皆が皿に群がる様子を、私は新たな生地を鉄板に流し入れながら見守る。
昨日教わった通りにちゃんとできているかしら、そして、皆が理美ちゃんの味に納得してくれるかしら。
不安な私をよそに、楊枝の刺さったたこ焼きが皆の手元に行き渡り、そして瞬く間に口の中へと消えていく。
心配そうな私の横で、理美ちゃんは自信溢れる表情で腕を組んだまま仁王立ち。
あぁ、どうしてそんなに堂々としていられるの?

「おぉー、おいしい!」
「青山さん、おいしいよー。」
次々と巻き起こる歓喜の声が、やっと私に安堵を与えてくれた。
「どーや? これがほんまのたこ焼きや。」
これ見よがしに鼻を膨らませた理美ちゃんが仰け反りながら言い放つのが、少しおかしくて噴き出してしまう。

「ひのちゃん、すごいねー。おいしいよー。」
友達が褒めてくれたけど、私一人の力で出来るようになったわけじゃないから、困ってしまう。
「んーん。昨日、あのあと理美ちゃんに教えてもらったからできたの。すごいのは理美ちゃんよ。」
微笑んで振り返る私に、理美ちゃんが満面の笑みでピースする。
「うん。おいしい。 ・・・ま、あたしたちのもあたしたちので美味しいけど」
「せやな。あれはあれで、ありなんとちゃう? キャベツ入れるやなんて、ウチには思いつかん事やし。」
譲らない友達の態度に、今日の理美ちゃんは怒ったりしないみたい。

「ねぇ、青山さん。」
クラスメイトがこっそり近づいてきて、新たに焼きあがったたこ焼きを皿に取る私に耳打ちする。
「後輩ちゃん、今日は大人しいけど・・・なんかあったの?」
訝しげな彼女に、私は微笑んで答える。
「さぁ。幸せなんじゃない?」

「青山さん。」
その時突然ドアが開き、姿を現したのは片岡委員長と垂水副委員長。
「あ、委員長・・・昨日はお疲れ様でした。」
一瞬、昨日の事が脳裏に浮かんで表情が消えてしまう。
「教室に行こうと思って通りかかったら、まだ始まる前なのになんか良い匂いがしたからさ・・・」
委員長もそう思ったのか、彷徨う視線にいつもと違う印象を受けた。

「委員長はん、副委員長はん。お二人も氷音先輩のたこ焼き、食べて行かはったらどーや?」
理美ちゃんのいつもと変わらない態度に驚いたのは、私だけではなかったみたい。
少し困惑気味に私を見上げる委員長の代わりに、垂水さんが穏やかに口を開いた。
「高波さん・・・青山さん、私達も頂いていいかしら?」
その一言に、私はもちろん大きく頷いた。

 

開始前から結構な量の材料を内部消費してしまったけど、皆が美味しいと言ってくれて嬉しかった。
一段落した私の横にやってきた理美ちゃんが、腕をつかんで私を見上げて微笑む。
「氷音先輩、お疲れさん。」
「ありがとう。理美ちゃんのおかげで、みんな喜んでくれたわ。」
私が微笑んだ分、理美ちゃんの笑顔の輝きが一際大きくなった気がした。
「よかったなー。氷音先輩が昨日頑張ったからや。 ま、美味しいのはウチが手取り足取り教えたんやから
当然の事やけど。」
そう言って笑う理美ちゃんの言葉を聞きつけた友達が、ズザザッっとやってきて私に問いかける。

「なに、それ!? どーゆー意味!? やっぱ何かあったんじゃないの?」
好奇心を湛えた意地悪い笑顔に動揺し、私の脳裏には昨日の出来事がよみがえってくる。
「別に、何もあらへんよ。 このたこ焼きは、二人の愛の結晶やんなー。氷音先輩。」
「ちょ、ちょっと、理美ちゃん!? 紛らわしい言い方しないで!」

私の右手ツッコミをひょいとかわし、理美ちゃんは私の方を向きながらドアの方へ歩を進める。
「あはは。冗談や。 そろそろ始まるから、ウチも教室戻るわ。 また後でな。」
もう、と脹れる私に小さく手を振って、理美ちゃんは廊下へ走り出て行った。

「ひのちゃん、やっぱり私思うんだけど・・・後輩ちゃんと一緒の時のひのちゃんって、楽しそう。」
昨日も言われたその言葉だけど、きっと、理美ちゃんが傍にいる時は、私が幸せだからそう見えるのかな。
「うん・・・幸せだもん。」
そう答えた私に、友達はヒュー!と声を上げて、惚気るなと壮絶にツッコんだのだった。


fin

 

 

 

 

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