Vier mädchen おまけ


「っくしっ!」「はっ・・・・・・くしゅん!」

くしゃみで目が覚めるなんて、16年生きて来て初めての経験だった。
こんなにはっきり目が覚めるんだぁ、なんて思ったのも束の間。
お布団の中の甘ったるい温もりがわたしの意識を再び引きずり込もうと包み込んでくる・・・

う〜ん・・・
寒い日のお布団の温もりってサイコーだよねぇ。
それに、わたしの横には、ふにふにで温かいものが・・・

がばっ!

うひぃぃぃっ!
突然、跳ね上がるようにお布団が吹っ飛んだ。 ・・・いや、本当に吹っ飛んだの!ギャグじゃないの!
や、やめてっ!
折角ため込んだ暖気が一瞬にして解放されてしまい、素肌には染み込むような寒さが這い寄ってくる。
あぁぁ〜・・・

内側から布団がめくり上げられたんだから、犯人はお前だっ!びしっ!!
「うぅ、みのちゃん・・・寒い〜。」
意気込みとは程遠い声が、寝起きで渇いた喉から零れ落ちただけだった。

みのちゃんはわたしの小さすぎる声に気が付かなかったのか、ベッドに戻ってくる気配はないみたい。
うむぅ・・・
もう一度声を掛けようか迷いながら、わたしは本能的に布団を手繰り寄せて背中を丸める。
はぁ〜・・・おふとん様、さいこ〜☆

もう一度わたしの意識が微睡の淵へと辿り着こうとする感覚が、心地いい・・・

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「えへぇ〜。今日もドラマ面白かったねー。」
「そだね。今から来週が気になっちゃうような終わり方だったもんね。」
夜11時半からの、毎週欠かさず見てるドラマは、みのちゃんもわたしも最近のお気に入り。
みのちゃんの横で一緒に見れたのが、嬉しかった。
みのちゃんと笑うタイミングが一緒で、嬉しかった。
ホントは一緒に入りたかったお風呂だけど、みのちゃんがご両親の目を気にして別々だったのが、残念だった。
もう寝る時間なのが、とっても残念。

夏休み早々、みのちゃんと一緒の一日が過ごせて、嬉しいとか残念とか楽しいとか。
そんな同じ気持ちでいられることが、幸せ。

だから、ね・・・

「ねぇ、みのちゃん。もう寝る?」
「あ、もうそんな時間? もうちょっと起きてたいけど、しょうがないか。」
「うん。一緒に寝よー。」
笑顔で手を差し出せば、みのちゃんも微笑んでその手を取ってくれる。
遊びに来てるわたしの方が率先してベッドに誘うなんて、なんだかあべこべ。

狭いシングルベッドに潜り込むように二人で収まって電気を消す。
棗球のオレンジ色の薄明かりの下でみのちゃんの香りに包まれながら、その香りの元を抱き締める。
「ちょっと、かすみん、近すぎだよ・・・」
困ったように微笑む表情に、わたしの胸の奥がきゅうっと音を立てた。

「いーじゃん。 みのちゃんのお母さんは結婚認めてくれたんだから。」
みのちゃんのご両親と一緒に食べたお夕飯の時の会話を持ち出して、わたしはさらに密着を深める。
「そう、だけど・・・」

『そう』に『だけど』がついて、わたしの手が止まる。
「いや、なの・・・?」
みのちゃんはいつも控えめ。
わたしの事を好きでいてくれてるのは分かるけど、たまに胸の中で溶かしてしまう言葉があるのも知ってる。
「違うの、そうじゃない、けど・・・」

『けど』!!
また『けど』って言った!
幸せな速い鼓動を打っていた心臓が、ぐにゃりと潰れたみたいな嫌な音を立てた。 ・・・気がした。
「みのちゃん、我慢しないで、言ってよ。 わたしは、いっつも我慢なんてしてないよ。」

恋人の表情は、自分の表情の鏡。
そんな風に言った昔の人がいたみたいだけど、今はきっと、まさにそうなんだろう。
「だって、その・・・」
「みのちゃん、わたし、みのちゃんが嫌な事はしたくないから、嫌なら嫌って言って。 ・・・ね?」
心が、不安に支配されてしまう前に、教えてよ・・・

「私、そんなにくっつかれたら、我慢できなくなっちゃいそうだから・・・」
わたしの視界が滲み始めたのに気付いたのか、みのちゃんは呟くように、その気持ちを話してくれた。
「みのちゃん・・・ありがと、話してくれて。」
今の一言で、わたしの中のみのちゃんLOVEゲージが、満タンになって、突き抜けた。

「かすみんと私のホントの関係は知らないから、母さんの言葉が本気かは分からないけど、世の中にはきっと、
私達みたいな関係で悩んでる人がいっぱいいると思う。 ・・・その中では私達は、幸せな方だよね。」
みのちゃんが何を言いたいのかは分からなかったけど、微笑んだまま話を聞く。
「だから、私は、かすみんを大事にしたい。 二人で幸せになりたい。」
真剣な表情で、時々言葉を探しながら、みのちゃんがぽつぽつと言葉を吐き出す。
歯磨き粉の香りと一緒に。

「それまでは、その、えっちな事は、しない方がいいのかなって・・・」
く・・・ふっ・・・
嬉しくて、身体がぐねってしまいそう。
みのちゃんが、わたしをどれだけ大切に思ってくれているのか、知ってしまったから。
寧ろ今すぐにでも、そんな可愛いみのちゃんにそーゆーことされてもイイっ!!
てゆーか、わたしがしたいっ!!!

でも、それはきっとみのちゃんの気持ちを裏切ることになる。
「みのちゃん・・・嬉し、わたし、すっごく愛されてて、嬉しい・・・」
あぁ、もう、抱き締める腕を緩める事なんてできない!
そんな愛しさマックスハートのわたしに、今日一番の閃きが走った!
みのちゃんが、しない方がいいと思うのは嬉しい。
でも、わたしはしてもいい、ってゆーか、うぇるかむ。

「じゃぁさ、ここを雪山だと思ってみよっか。」
わたしの言葉を聞いて、みのちゃんの表情が、止まった。
もそもそと、わたしは自分の服に手を掛けてお布団の中ですべてを脱ぎ捨てる。
パジャマ代わりのTシャツをたくし上げ、寝た体勢のまま腕をお布団の外に突き出して放り投げる。
「ちょっ・・・かすみん? 何してんの!?」
「ほら、みのちゃんも脱いでっ! じゃないと、またくすぐるよ?」
「やっ!ちょっ! わかった、わかったよ・・・」
二人の顔の間で両手をわきわきさせるわたしの勢いに押されたのか、みのちゃんはすぐに恭順を示した。

「えへへ。さすがみのちゃん。 それに、この状態なら裸でも見えないし、恥ずかしくないでしょ?」
「見えないとか、恥ずかしいとか、そうじゃないんだけど・・・」
「あー!また『けど』って言ったー!!」
「え、何のはな・・・あっ!」

みのちゃんの言葉に鋭く反応した、私の黄金の指先は止まらなかった。
ふっ・・・
わたしを怒らせたことを後悔することになるんだからっ!

「あ、あははははははは! や、やめ、分かった、脱ぐ、から、あはははは、ひぃぃっ!」
ベッドから転げ落ちそうな勢いで暴れるみのちゃんが、私の手の中で踊り狂う。
はぁはぁと荒い息をつきながら、諦めたようにみのちゃんがお布団の中でもぞもぞする。

そしてさっきの私と同じように、脱いだ服をベッドの下に放り投げて少し怒ったような顔を私に向けた。
「もう・・・かすみん、たまに訳わかんないよぅ・・・」
「えへへ、みのちゃん、その顔もかわいー。」
もう、辛抱たまらなくて、思わず至近距離だった唇にキスをひとつ。

「あっ、ちょっとぉ、我慢できなくなっちゃうのが嫌だって言ってるのに・・・」
「んー。 わたしはいつでもいいよ。 だけど、みのちゃんがそうしたいなら、待つよ。いつまでも。」
優しい気持ちが溢れそうな笑顔でそう告げると、みのちゃんは困ったように笑顔を返してくれた。
「かすみん・・・ うん。ありがと。 ・・・てか、私寝れるかなぁ・・・」
感謝の言葉の後が、良く聞こえなかったけど、また少し、みのちゃんとの距離が縮まった気がする。
みのちゃん、大好き。

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えへへへぇ〜。思い出しただけでにやけちゃう。
シーツがしわしわになっちゃうのも構わず、みのちゃんの香りのベッドの上で転げまわる。
部屋から出て行っちゃったみのちゃんと、今日はどんな幸せが手に入るのかな。

うふふ。みのちゃん、早くわたしを起こしに来て!


fin

 

 

 

 

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