少し辛い思いさせちゃうかもしれないけど・・・ボクも確かめたいから、頑張ってね。
「ボクには、相談してもらえないことかな?」
そっと千河の横に立ち、問いかけてみる。
「バカ・・・まゆになんか相談できるわけ無いでしょ。」
「そっか・・・ボクたち友達なのに、ダメかな?」
突っ伏したままの千河に、確信犯的な一言を放つ。
平静を装っても、ボクの鼓動は加速を続け、自分の声よりも大きく聞こえている気がする。
「友達、だから、できないんじゃない・・・」
そうだよね。
よくよく考えてみれば、ボクにとっても千河はただの親友じゃなかった。
いつもボクの暴走先にいて、裏向きの通行止めの看板を用意して待ってる。
ボクに言い寄ってくる子達は皆、一瞬の気持ちや周囲に流されてボクを見る子ばかりだけど。
千河。キミは違う。
その意味を伝える為、ボクも覚悟を決める。
「じゃぁ、特別な友達になろう。千河。お互いを好きって言える特別な友達に。」
最高潮の鼓動の波に飲み込まれなかったボクを、ボクは褒めてあげたい!
手を差し出して千河が顔を上げるのを待つ。
「そんなの・・・まゆにとっては皆と一緒じゃん・・・」
あ、あれ・・・?
ここに来てボクの悪名が邪魔をするなんて。
千河に、もっとボクを知って欲しい。
その為には、誤解を解かないといけない。
暴れる鼓動を沈め、小さく深呼吸する。
「そうかな? 千河も知ってると思うけど、ボクがこれまで仲良くしてた子の中に『付き合ってる』とか
『彼女』なんて言った子はいないよね?」
あまり得意じゃないけど、誠意を込めて話せば頭のいい千河なら解ってくれるはず。
「うん・・・」
腕に埋もれ、殆ど聞き取れない声が聞こえた・・・気がした。
「そりゃそーだよ。ボクがその子達を好きになった事なんて無いもん。」
ボクの言葉に、千河は微動だにしなかった。
沈み込んだままの頭頂部を見詰めながら、ボクは想いを伝え続ける。
「みんな動機はそれぞれだけど、自分の事を気に入ってもらおうとして、ボクを捕まえようとするだけ。
だから、今迄だって告白されたら全部断ってた。友達でいいじゃないって。自分の事好きかって訊かれたら、
友達としてはねって答えてた。 ・・・真剣な想いなら、嘘で返しちゃいけないから。」
結局収まらない鼓動と話の道筋が行方を見失って、どこに着地したらいいのか解らなくなってくる。
「でも、千河は違う。いつもボクのこと心配してくれて、止めてくれて、ツッコんでくれて、嬉しかった。」
千河に向けて伸ばしていた手はいつの間にかテーブルについて、挫けないように自分の心と上体を支えていた。
「だから、千河がいないと落ち着かないんだ。いてくれないと、どこで止まったらいいか解らなくて・・・」
支える右腕が震えだすのと対照的に、千河はピクリとも動かない。
「ボクは、ボクが一番好きだけど、それとは違う好きが千河にはある・・・と思う・・・」
ここで強気に言い切らなきゃと思う心と裏腹に、言葉はどんどん弱くなる。
「だから、千河と、特別な友達に・・・」
「う・・・」
言いかけたボクの言葉に千河が反応したことが嬉しくて、足元に落としていた視線を千河に向ける。
いちご牛乳を握っていた手がゆっくりとそれを離し、音がするほどの勢いで顔を上げてボクを睨み返すと、
一瞬視界から消えたその手が勢いよくボクの左頬に叩きつけられた。
「う・・・自惚れんじゃないわよっ!!」
テーブルに着いていた手が浮き上がるほどの衝撃に、そんな千河の叫びはどこか遠くから聞こえた気がした。
え、えぇー・・・
ボクの予想と理解の範疇を超えた出来事に、痛みすら感じずにボクは呆然と千河を見詰め返す。
眼鏡に水滴をつけたまま、振りぬいた手を胸元に戻してようやく千河が口を開く。
「あたしは・・・あたしは、まゆが思ってるようなキレイな人間じゃないよ・・・」