そんなランチが終わるとお腹が満たされたせいか、千河が再びボクの部屋をキョロキョロしだす。
「何か気になる?」
期待を込めて千河に問いかける。
千河は、ボクの何に興味を持ってくれるのかな?
「んー、そうね・・・じゃ、服、見ていい?」
「えー。いきなり下着チェックなんて、ボク、心の準備が・・・」
両手を頬に添えて目を伏せてみたけど、千河はこちらを見ることもなく立ち上がる。
あ、あの・・・?
180度向きを変えた千河は壁一面のクローゼットをガラガラと真ん中から割り開く。
「すごーい・・・こんなにいろいろ・・・」
趣味で集めている数十着の服が収まっているそこを、千河は目を輝かせて物色している。
千河の私服はいつも控え目な組み合わせだから、ファッションに興味があるとは思ってなかった。
ボクのクローゼットにはスタンダードな着回しアイテムはもちろん、ギャル系、ポップ系、フェミニン系、
スポーティ系、オリエンタル系、パンク系など一通りのものが入っている。
コーデさえ間違えなければ、ボクにはどんな服でも似合っちゃうからね。
中には、買った自分でもいつ着るのか判らないようなのもあるけど・・・
「これ、こないだのPopteenに載ってたのに似てる・・・」
ハンガーに掛かった服の一つを取り出して身体に当てると、千河はくるりと回って鏡台を覗き込む。
千河もそういう雑誌読むんだ・・・知らなかった。
「んー・・・やっぱ、あたしには合わないかな。」
そう呟いた千河は、ちょっと残念そうな表情で元の位置に服を押し込んだ。
「着てみれば?」
脚を伸ばしたまま座って見上げていたボクは、そんな楽しそうな千河に何気なく言った。
「え、ちょ、バ、バカ! どーせあたしには合わないんだから!それにサイズだって・・・」
「ボクの服Mサイズだから、普通に千河でも着れるよ?」
あわあわと慌てだす千河の退路を断つように、ボクは呑気に言葉を遮った。
「それに、合うかどうかなんて着てみないとわからないじゃん。」
「う・・・じゃあ、ちょっとだけ。・・・いいかな?」
「もちろん。」
千河がボクの服に興味を持ってくれて、嬉しい。
満面の笑みでお召し替えを促すボクをちらりと確認してから、一度はクローゼットに戻した服を再び取り出し、
どこか嬉しそうな表情の千河はそれを腕にそそくさと部屋を出て行こうとする。
「あれ?着替えないの? 手伝うよ、千河?」
「な、なな、何言ってんの!? 一人で出来るわよ!」
立ち上がって微笑むボクに、顔を赤くした千河が照れでボクを軽く突き飛ばす。
「えー? 体育の着替えとかいっつも見てるんだから恥ずかしがることないのに。」
「は・・・恥ずかしくなんか無いってば!! とにかく、ちょっと待ってて!!」
今度は残念そうな表情のボクの言葉を、千河がピシャリと遮ってバタンと部屋のドアを閉めた。
「あと、体育の着替えとか見なくていいからっ!」
わざわざ開け直してそう言い残し、再び同じ音を立ててドアは閉じられた。
あはは。
あの服、もちろん自分で着たところは見たことあるけど千河が着るとどうなるんだろう。
それに、いつもは無難な服ばかり着ている千河はどうなるんだろう。
きっとボクが着るのとは感じが違うんだろうな。
ま、絶対ボクの方が似合うけど。
無意識のうちに、立ったまま待っているボクの足の指が待ち遠しそうにリズムを刻んでしまう。
麦茶のコップが空になった頃、ノックも無く扉が少し開いて千河の顔だけが隙間から現れた。
「お待たせ・・・笑わないでよ?」
神妙な面持ちで、恐る恐る入ってくる千河を見てボクは少し驚いた。
千河が選んだのはギャル系ブランド『AS♥USA』のコーデ。
肩口から大きく弧を描いて胸元がかなり開いたショッキングピンクのTシャツの中には、黒のショートタンクを
合わせてスマート感を出し、短い裾からは動きによっておへそが見え隠れ。
三段ティアードのミニスカートは腰に巻いたゴールドのチェーンがアクセント。
更に黒のサイハイソックスで脚を細く見せられるのが特徴かな。
「へぇ。千河、似合うじゃん! ぜんぜんイケてるよー。」
「そ・・・そかな・・・? ありがと・・・」
ボクが笑顔で出迎えると、千河は嬉しそうに顔を赤くしながら下を向いてしまう。
でも惜しいかな、ボクが思っている使い方とは違っていたアイテムが一つだけあった。
「ねぇ、千河。そのバンダナだけど、それって頭じゃなくて脚に巻くの。やってあげる。」
「え、あ、ちょ・・・」
千河の返答も待たず、すぐに距離を詰めてしまったことで、ボクは目の前にあるバンダナに隠されてしまった
折角のチャームポイントであるおでこを解放することができた。
バンダナを解いた瞬間ボクの手に流れる長い黒髪の艶やかさに、少しドキッとする。
千河の左の太腿に黒とピンクのチェック柄バンダナを結び「はい、でーきた☆」と立ち上がる。
うん。折角の千河の黒髪を活かすなら、こっちの方が断然良い。
でもここまで来ると、沸々とボクのオシャレ魂が燃え上がって来る。
「ね、千河。 髪形も合わせようよ! やってあげるから!」
相変わらず固まったまま立ち尽くす千河の手を引き、突然の事に驚く千河が暴れだす前に鏡台の前に座らせる。
「あ、ちょ、ちょっと・・・」