Auf heben その13

「あのね、今度の24・25日なんだけど両親にクリスマスステイをプレゼントしたの。」
肩に顔を埋めていた私の耳に、理沙ちゃんが囁く。
「だから、うちでクリスマスパーティしようよ。二人で。」
「え・・・」
理沙ちゃんと、二人きりで・・・?
「わたしと一緒ならさ、絢のご家族だって全然怪しまないでしょ?だから、ね?」
理沙ちゃんに念を押されるまでも無く、私の答えは決まっている。
「うん。そんな大切な日に一緒にいられるなんて、嬉しい。ありがと、理沙ちゃん。」
久々に、理沙ちゃんに笑顔を見せられた。そんな気がする。
「今度は・・・あの・・・」
「うん?」
「い、やっぱいい!当日のお楽しみ!」
「えー、なにそ・・・」
反論しようとした私の唇は、理沙ちゃんの唇で塞がれてしまった。
理沙ちゃんの顔は冷たいのに、唇だけは温かい。
そして私のハートにも、ぽっと火が灯る。

そんな空気を否定するように、12月の寒風が二人の唇に割って入る。
理沙ちゃんには申し訳ないと思いつつ、顔を離して開口一番。
「寒ーーう!!」
部屋着のまま出てきた私には、何の遮蔽物も無いこの場所は酷過ぎる。
「あ、ゴ、ゴメン。さ、帰ろ!」
差し出された理沙ちゃんの手も、手袋をしていないので冷たかった。
でも、指を絡めるようにつないだその手は、寒風でさえも入り込めない私たちの想いで固く結ばれていた。

 

 

そして待ち遠しい日に立ちふさがる期末試験という壁を軽くこなし、22日の終業式もあっという間。
宿題をラブパワー(←?)でアクセル全開の私が片付けていると、ドアがコンコンとノックされ、
「絢、入るよー」という姉の声が、入ってきてから聞こえた。
先日の一件以来、姉から良い目に遭っていない私は、一瞬キシャーッ!と睨んですぐに問題文に目を戻す。
「ねぇ、絢。」
嫌な予感しかしない。
「あんたさ、明日クリスマスパーティなんだって?ねぇ、誰と?お姉さんに言ってみ?」
好奇心に弾む声で姉が問い詰めてくる。

こんな時ばっかり姉ぶって、何をそんなに期待しているのか。
「お姉ちゃんには残念だろうけど、明日は理沙ちゃんのご両親が留守だからお泊りに行くだけ。
何を期待してたか知らないけど、残念でした。」
フフンと勝ち誇ったように私は言い放つ。

「な〜んだ。つまんないの。あ〜あ。こんなことなら、またあんたがオナニーしてるときに来れば良かった。」
フフンと勝ち誇ったように姉が言い放つ。

思わず噴き出して、入ってきた時よりも更に怒りの形相で睨みつける。
ぷるぷると拳を握り締める私を尻目に、何をしに来たのか姉はドアを閉めて出て行く。
だー!!もー!!最悪!!
一気にやる気を削がれた私は、シャープペンを机に放り投げて雑誌に手を伸ばす。

「残念なんかじゃないわ。あたしの思ってた通りだもん。ま、楽しんでらっしゃい。・・・一晩中ね。」
姉が扉の向こうでそう言った事など、私が知ろうはずも無かった。

 

 

 

 

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