Look at me その7★


見つめていた視線を少し伏せ、瑠奈さんは小さく吐息を飲んだ。
私の手が、自分のスキッパーカラーブラウスのボタンを外していくのを、直立したまま待ち続けている。
白いブラウスの内側には、日頃の家事で鍛えられた細身ながらしなやかな肉体が詰まっていて、
胸元の細いチェーンネックレスが白い肌の上で煌めきを放っている。

「まだ、緊張する?」
耳元で囁くと、鼻に触れた短い毛先からシャンプーの香り。
「と・・・当然です。」
少し拗ねた様な声が、同じように私の耳元に囁かれる。
「ふふ。私もよ。瑠奈さんを輝かせてあげられるか楽しみで仕方ないの。」

ブラウスから腕を抜き、タイトスカートのファスナーを下ろす。
肌色のストッキングの下では、ブラと同じ黒い下着が瑠奈さんの大事な場所を守っていた。
「そんな・・・」
ふふ・・・。瑠奈さんの困った表情が、私の心を昂らせる。
ストッキングを脱がせる為に屈みこんだ私の目が、瑠奈さんの左膝上の小さな痣に止まった。

「瑠奈さん。ここ、どうしたの?」
「昨日、掃除中にぶつけまして・・・家の物は何も破損しておりませんので大丈夫です。」
真上を見上げた私に、少し悲しげな瑠奈さんがそう告げた。
「破損してるじゃない。」
ストッキングを一気に下げ、反動で立ち上がって瑠奈さんに詰め寄る。
「瑠奈さんが傷ついたのは立派な損害よ。代えの利かない大事な人なんだから・・・気をつけて頂戴ね。」
「お嬢様・・・ はい。気をつけます。」

瑠奈さんは心底嬉しそうに微笑むと、少しの間私を抱きしめた。
まったく。普段あれだけ頼れるのに、こういう時は甘えん坊なんだから。
でも、そんな姿を見せてくれるという事は信頼されているようで嬉しくもある。
だから私も、瑠奈さんの背中に手を回す。

ふた呼吸分のご褒美を与え、私は探り当てた瑠奈さんのブラのホックを外した。
それに気づいた瑠奈さんがハッと顔を上げる。
私は、瑠奈さんの身体から離れながら肩にかかった紐を腕から抜き、絨毯の上に放り投げた。
「じゃあ、そこでちょっと待っててくれるかしら?」
小さく微笑みながら瑠奈さんに告げ、それに頷いたのを確認した私は椅子を瑠奈さんの手前に置き、
ティーカップを手に腰掛けて脚を組む。

大きな窓から差し込む月明かりに照らされた瑠奈さんの白い肌は、神秘的な輝きに包まれているようで
伏し目がちな表情も、胸を隠す仕草も、私の目には完成された一つの芸術品のように映る。
ぬるくなり始めたお茶を一口喉に送り、その美しさを堪能する。
『月下美人』・・・花言葉もうってつけだけど、タイトルとしてはヒネリがなさ過ぎるわね。
この作品に命名する為、私はぐるぐると脳内を漁る。
と、唐突に私の中に稲妻のように降臨した言葉・・・

『Look at me』・・・

この名が浮かんだ理由は、私が教えて欲しいくらい。
こんなに素晴らしい芸術ですもの、きっと描かれた人物は見て欲しいと願うに違いないわ。
私は口元に自己満足の笑みを浮かべ、残ったお茶を飲み干す。

「お、お嬢様・・・そんなに見詰められると、恥ずかしいです・・・」
顔を逸らす瑠奈さんに、私はそれまで浮かべていた笑みを消して鋭い視線を突き刺す。
絵画は、喋らなくていいの。

私は無言で席を外し、クローゼットからトランクを取り出す。
瑠奈さん専用の秘密道具が収められたそれを手に戻った私は、組んだ脚の上でトランクを開ける。
ちらりと視線を送った瑠奈さんの表情は不安げで、トランクの蓋の陰になって見えないこちらを
窺うように眉を顰めている。
私はBB弾を装填したエアガンを取り出し、その銃口をゆっくりと瑠奈さんに向ける。
例え本物でないと解っていても、この行為に恐怖を感じない人はいない。

「折角、素敵な瑠奈さんに魅入っていたのに、そんな事を言われるなんて・・・残念だわ。」
その言葉に、瑠奈さんが強く目を瞑る。
ポスンッ!
空気圧が低い間抜けな音と共に発射された弾丸が、瑠奈さんの胸を覆う右手に命中する。
「あっ!」
ちょうどいい痛みに調節された一撃に、瑠奈さんの声が破裂する。
「その手を、どけなさい。」
もう一度発射された弾丸に顔を歪めながら、おずおずと瑠奈さんの手が後ろに回される。

「ふふ。そんなに素敵なのに、私には隠さないで見せて。」
美術館で見たような美しいバストラインが露になり、瑠奈さんは赤くした顔をさらに逸らす。
そんな瑠奈さんに、私は選択を迫ってみた。
「ねぇ、瑠奈さん。このエアガン、まだ10発も弾が入ってるんだけど、どうしたらいいかしら。」

 

 

 

 

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