Massive efforts その21


「ん・・・」
ゆっくりと目を開ける。
質の悪い睡眠をとった直後みたいで、首の奥に疲れが残っているような嫌な目覚め。
その上、椅子に座った姿勢で手首を縛られてたら寝覚めが悪いのも当然よね・・・

って、え・・・・・・?

えええええぇぇぇぇ!??

あたし、なんで縛られてるの!? てゆーか、ここどこ!?
「ようやくお目覚めかね。」
混乱した頭に追い討ちをかけるように、あたしの前には丸サングラスをかけたダンディなスーツのオジサマ。
高圧的な低い声で語り掛けられて、ぞくりと背筋が震える。
「誰よ、アンタ!」
状況は呑み込めないけどとりあえず言っておこうと思っただけなので、勢いの無い声が床に落ちた。

「君が知る必要はない。 奴らが来なければ君は二度と日本に戻ってくる事は無いだろうからな。」
一瞬とはいえダンディーだと思ってしまった悪そうなオッサンの後ろには、よく見れば棒やらナニカやら物騒な
物を持ったマオカラーの人が何十人もいて、その一言に残忍そうな笑い声をくっくっと上げている。

ひえええぇぇぇ!!
何なの、こいつら! 人さらい!?
あたし、売られちゃうって事!?
サァーっと音を立てながらボケボケした血液が脳から引いて行き、代わりにボコボコと沸騰した怒りや恐怖が
入り込んできて一色に染まる。

「ちょっ・・・冗談じゃない! 何なのよアンタら! キーーー!騒いでやる!誰か来るんだから!」
ワーギャーと騒ぎ立ててみても、人さらいたちは動じた風も無くあたしを見下ろして忍び笑いを浮かべるだけ。
「バカめ。 シャッターの閉まった倉庫で騒いでも誰が気付くものか。」
その一言が聞こえても、あたしは騒ぐのを止めなかった。
怖くて、ムカついて、泣きながら喚き立てるのを止めなかった。

「チッ・・・ビービー騒ぎやがって。いい加減にしねえか!」
「きゃっ!」
見るからに短気そうな坊主頭が、あたしの座っている椅子を横から蹴りつけ、身動きできないあたしともども
地面に叩きつけた。
「うっ・・・」
受け身も取れず、パイプ椅子ごとコンクリートに転がされて左肩に激しい痛みが走った。

「おい、商品になるかもしれないんだ。 傷つけるんじゃねえ、馬鹿が!」
「ぐあっ!」
「・・・・・・!?」
地面が垂直になった視界で起こったことに、あたしは目を疑った。
10メートル程も離れた所にいるサングラスのオッサンがその場で手を振り下ろしたら、坊主頭がまるで
叩かれたみたいに頭を押さえて蹲ったのだ。
「す、すんません、お頭。」

「恨むなら、薄情な嵐山の忍を恨むんだな。 あと30分で来なければ、お前は海の向こうだ。」
床に倒れたあたしを見下ろして、坊主頭がそう吐き捨てた。

嵐山の・・・しのび!?
どーゆーこと?
よく解んないし、信じられないけど、たぶん、目の前で起こってる事は現実。
やだ・・・
やだよ・・・
助けて・・・みっひー!

あたしの目から零れた最後の涙が、冷たいコンクリートの床にぽたりと落ちたその時だった。
「30分も必要ない。もう着いている。」
感情を抑えてるとき特有の低い声の主は、紛れも無くあたしが待っていた人。
人さらいたちが一斉に、声のした方を振り返る。
痛む頭の角度を何とか変えてあたしも見ると、今日会ったときそのままの姿で、彼女はそこに現れた。

ピンクと白の薄手の長袖Tシャツに通した腕を組み、同じピンク色のミニスカートから伸びる脚は仁王立ち。
高い角度で結ばれたポニーテールに凛々しい眉、そして、怒りにきつく結んだ唇。
腰に付けた大きめのウエストポーチは初めて見たけど、そこにいるのは、見紛うはずもない・・・

あたしの、恋人。

「鈴鹿の。よくも萌南に手を出したな。」
「ふん。嵐山、林(りん)の忍か。 ・・・やれ!」
サングラスの号令で、マオカラーたちが一斉に得物を構えてみっひーの方へと進んでいく。
え、名前を知ってるってことは、みっひーのお知り合い?

「みっひー・・・」
「萌南。すまない、遅くなった。 必ず、必ず助けるから・・・!」
感動の救出劇のセリフの途中で、先頭にいた無粋なマオカラーが、刀を振り上げみっひーに飛び掛かった!

 

 

 

 

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