Massive efforts その22


「みっひー!!」
危ないと思ったのはあたしだけで、目の前で起こった事は、現実。
みっひーは自身に向けて振り下ろされた刀の峰に手を添え、その切っ先を地面に押し付けて足を掛ける。
「!!」
驚いたのはマオカラーだけじゃなくて、傾いた視界のあたしも同じ。
刀に足を載せた姿勢からくるりと身軽に放ったサマーソルトキックが相手の顎を捉え、首が一瞬変な角度に
曲がったマオカラーは、ぐらりとその場に倒れ込む。

続いて対峙するは長い棒を持った男が二人、対角線上に構えてみっひーを狙う。
二人掛かりだなんて卑怯じゃない!
・・・と思ったのは束の間。
前後から同時に振り下ろされた棒をとんぼ返りでかわして一人の男の背後に回り込むと、相手が振り向くより
速く、何か針のような物を首に突き立てた。

「ぐあっ!」
「嵐山奥義・松葉針(しょうようしん)。」
哀れな男は、一声苦悶の叫びを上げるとそのまま倒れ込み、ぴくぴくと小刻みに体を震わせた。
ま、まさか、みっひー・・・?
「安心しろ。全身の感覚を麻痺させただけだ。」
倒れた男を見下ろして冷たく吐き捨てたみっひーを、あたしはただ茫然と見上げていた。

「動くな!」
その声にハッとなって、みっひーとあたしは同時に、あたしの上に来た男へ注視する。
ナイフの先端をあたしに押し付けて下卑た笑みを浮かべるそいつの一言で、一瞬みっひーの動きが止まる。
「くっ・・・」
「へへへ。林の忍と言えば後の先(カウンター)の達人。 これで動きが止まるだろうが。」
「みっひー!」

先程の棒の男の片割れが容赦なく、手にした棒を何度もみっひーに叩きつける。
「うっ・・・くっ・・・」
みっひー!
ごめんね、あたしのせいで!

と、その時。
あたしの耳元でゴウッと突風が巻き起こった。
「うあっ!」
あたしの目の前にナイフがカツンと落ち、男は手を押さえて仰け反った。
「嵐山奥義・斬空。」
みっひーが入ってきた方向から、爽やかな声でそう言いながらやってきた影。
「愚かですねぇ。 ここに先の先の達人もいますよ。」
「空兄様!」
「なっ!風(ふう)の忍か!」

「兄貴、俺にも残しといてくれよなー。」
ボンッと小さな爆発が起こって、空耶さんの登場に気を取られた棒の男の背中が燃え上がる。
「う、うぐあぁぁ!」
「へへーん、熱いかい? 俺の嵐山外式・バーニングハートは。」
「か・・・火(か)の忍・・・」
背中の炎を消すために地面をのた打ち回った男は、そうこぼして気を失ったようだった。

「兄さん達、僕が鍵を開けなかったら入れなかったくせに、走るのが苦手な僕を置いていくなんて酷いです。」
とたとたと遅れてやってきた穣くんは、それでも息を乱すことなく不満そうな声で抗議する。
「ふん。揃ったか、嵐山・風林火山。」
サングラスーツのオッサンがでしゃばって来て、偉そうにのたまった。
この流れから行くと、穣くんは『山(さん)の忍』ってことなのかな、なんて冷静な思考が脳裏を過る。

「頭脳班のお前の役目は終わったろーが。 久々で拳が燃えそうなんだ。下がってな。」
「研兄さん、僕だって戦えますよ。」
「まぁまぁ。二人とも、四人で仲良く戦いましょう。」
オッサンを無視して、あたしの後ろでほのぼの兄弟喧嘩が始まってしまった。

「萌南・・・すまない、大丈夫か?」
ぶつりと手首を縛っていたロープが断ち切られ、明らかに心配そうな表情のみっひーがあたしを抱き起す。
「みっひー・・・」
怖かったとか、ありがとうとか、そんな言葉さえも出てこないほど、あたしの胸は一杯な思いに満ちていて、
ただただ、彼女の名前を呼んで胸元に顔を埋めた。

「そうだ、四人仲良く我らに倒され、今日こそ我らが軍門に下ると誓え。」
いつの間にか出口付近を数人で塞ぎ、スーツの上着を脱いだオッサンが両手に小太刀を構えて吠えた。
「ヤダ!べー!」
研輔さんが即座に言い放って舌を出す。
「こらこら、折角の『誓』のお誘いですよ。こちらからも要求を突きつけるチャンスじゃありませんか。」
穏やかに諌めた空耶さんが腕を組んだまま一歩前に進み出る。
「お受けしましょう。ですが、我らが勝った場合は二度と彼女とその関係者に手を出さないと誓いますか?」
眼鏡の奥に冷徹な光を宿しながら交換条件・・・?を要求する空耶さん。

「構わんよ。 いずれにせよ我らが負けるなど、鈴鹿の木々が全て消え失せるよりも有り得ぬ事だからな。」
おぉ、なんて立派な負けフラグ!
ホントにこんな事言う人いるんだ。

「そうですか、遠慮も手加減もしませんよ。」
「へへ。全員俺がぶっ倒してやるっての。」
「姉さんは友達を守ってあげて。僕たちだけで充分だと思うから。」
「すまない、頼んだ。」
流石の連携で、兄弟それぞれの役割は決まったみたい。

そして、戦いの火蓋は切って落とされた!!

 

 

 

 

その21へ     その23へ