Massive efforts その23


「お前たちは下がっていろ。」
「お頭、俺達も戦いますぜ!」
息巻くマオカラー達を、オッサンは静かに言葉だけで制する。
「風林火山が揃っているんだ。お前たちが100人いようと勝てはせぬ。」
「し、しかし・・・」
「ふん。私とて無駄に血を流すことを望んでいる訳ではない。 それに、私一人で充分だ。」
あら、意外と男らしいじゃない、オジサンったら。

そして言葉に違わず、空耶さん、研輔さん、穣くんの3人がかりでも、鈴鹿というオジサンは一歩も譲らなかった。
小太刀を巧みに操りながら二人を牽制し、なおかつ足技で攻撃までしているのだから。
そして奇妙なのは、やはり触れていないのに3人の身体が弾かれる時があるのだ。
まるで、透明な棒が手や足の先端についているかのように。

「気を付けて!そのオッサンの攻撃、離れた所に当たるみたい。」
「今更バカか、お前は。 こやつらはとっくに気づいておるわ。」
オッサンはあたしの一言を一蹴し、更なる一撃を空耶さんに見舞った。
「くっ!」
辛うじて両腕をクロスさせて防いだものの、数十センチもの距離を押し戻されてしまった。

「萌南、すまないが静かにしててくれ。」
突然、壁際であたしを守ってくれているみっひーが、ぽつりとあたしに耳打ちした。
「あ・・・うん、ごめん。」
そうだよね、あたしがでしゃばる幕なんてないんだ。
目の前で起こってるのは、CGでも、特撮でもなくて、全部本当。

触りもしないのに人が吹き飛んだり、何も無い空間が爆発したり。
もう、何がなんだか訳がわからない。

「あっ!」
穣くんが小さく声を上げたのは、小太刀が腕を掠めて赤い糸の様なものが宙に舞ったからだった。
「もらったぞ!山の忍!」
「穣!」「穣っ!」
空耶さんと研輔さんの叫びが、倉庫の空気を同時に震わせる。
しかし、ニヤリと唇を歪め大きく両手の小太刀を振り被ったオジサンは、その姿勢のままピタリと動きを止めた。
・・・・・・!?

「私に背を向けたのは失敗だったな。 嵐山奥義・飛翔松葉針。」
10メートル以上もある距離から、真後ろにいるあたしも気づかない程いつの間にかみっひーが投げていた針は、
今もまだ倒れているマオカラーの首に刺さっているのと全く同じ位置に輝いていた。
「貴様・・・完全に気配を消していたな・・・フフフ、ぬかった、わ・・・」
そう言うと、オジサンはゆっくりと地に伏した。

「「「お、お頭!!」」」
「穣、大丈夫ですか?」
大勢のマオカラーがオジサンに駆け寄るのと、あたしたちが穣くんに駆け寄るのは、ほぼ同時だった。

「くそ、覚えてやがれー!」
マオカラーはベタベタな捨て台詞を残して鈴鹿のオジサンを担ぎ上げると、通路の外へぞろぞろと姿を消した。
「穣、大丈夫か?」
空耶さんに介抱される穣くん、そして心配そうに声をかけて周囲をうろうろする研輔さん。
「兄さんたち、ごめんなさい。 戦える、なんて言っておきながら。」
「本当にその通りだ。 穣、本来なら、今頃命を落としていたんだぞ。」

腕を組んだまま穣くんを見下ろしながら、みっひーが厳しい一言を告げる。
返す言葉も無く、俯いてしまった穣くん。
冷たいように聞こえるけど、あたしにはみっひーの厳しさが分かるよ。

大切な人を失いたくない。

だから敢えて厳しく言うことで、それを自覚して欲しいって事だよね。
全く、不器用なんだから。

あたしは一人納得してみっひーの背中に寄り添った。
それに気付いたみっひーがほんのちょっとだけこちらを振り返って、すぐに穣くんに向き直る。
・・・あたしの手を握ってから。

「はい・・・姉さんの言う通りです。」
「大丈夫だったんだから、良いんだよ。穣。」
「えぇ。傷も浅いみたいですし、本当に良かった。」
きょうだいって・・・いいなぁ。

思わず微笑みを浮かべたあたしの全身から、不意に力が抜けて膝から崩れ落ちる。
「萌南!?」
握った手にぐっと力を込めて、振り返ったみっひーがあたしを抱き起す。
「あはは・・・なんか、安心したら力が入らなくなっちゃった。」
「みひろのお友達も無事で良かった。 さぁ、ひとまず私達の家へ一緒に戻りましょう。」
苦笑いするあたしに空耶さんがそう提案して、取り敢えずこの場所を後にすることになった。
「萌南、さぁ、行こう。」
あたしを軽々とお姫様抱っこしたみっひーが、一言そう呟いてきゅっと唇を結んだ。

 

 

 

 

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