Massive efforts その25


「ん・・・」

唇を押し付けては、少し離す。
やっぱり、ドキドキがどんどん加速していってしまう。
「ねぇ、みっひーはさ、あたしとキスしてると、どんな気持ち?」
みっひーがあたしと同じ気持ちでいてくれるのか、どうしても知りたくなって尋ねてみる。
「そうだな・・・嬉しい。」
呼吸が絡まり合うほどの距離で問いかけると、一瞬目が上の方を向いてからみっひーが答えた。

「それだけ?」
もっと何か、ないの?
感情が顔に出るタイプのあたしだけど、みっひーは人一倍そういうのを察するタイプ。
「すまない、よく分からない。 しかし、これだけ嬉しい事は、他には無い。」
申し訳なさそうに微笑む彼女を、あたしは満面の笑みで抱き締める。
「ありがと。みっひー。」
いいの。それでいいよ。みっひー。
だってあたしは、嘘も偽りも打算も無い、本当の気持ちを教えて欲しかったんだから。
そんな満ち足りた表情もみっひーには伝わったみたいで、あたしを抱き締める腕に少しだけ力が籠った。

「それとね、もう一つ聞きたいんだけど・・・」
舌を出したら届きそうな距離で、みっひーの耳元に囁く。
「なんだ?」
「さっきのオジサン。鈴鹿、だっけ? あの人はお知り合い?」
それを口に出した瞬間、バッと音がするほどの勢いでみっひーが体を離して真剣な表情であたしを見つめる。

「萌南。 もうそれは忘れるんだ。」
「でも、あたしにだって・・・」
教えてくれたっていいじゃない。
そう言おうとしたあたしの口は、みっひーの唇で蓋をされてしまった。
「知っては、いけない。」

どうして?
これからずっと付き合っていくなら、知っておかなきゃいけない事なんじゃないの?
危険な目に遭ってもいい。
みっひーと一緒なら。
だから・・・

「萌南。 私の事は知ってもいい。いや、むしろ知って欲しいと言うべきか。 だけど、私たち●●の事をこれ以上
知ってはいけない。」
目を逸らさないでよ。
悲しそうな顔をしないでよ。
そんな表情のまま、あたしを抱き締めないでよ。

隠し事をされているみたいで、渦巻く負の感情があたしの胸を締め付ける。
「みっひーがあたしの事守ってくれるんなら、知ってもいいじゃない。 教えてよ。」
勝手な事を言ってると、解ってる。
だからこそ、その声は自分の喉から出ているとは思えない程小さくて震えていた。

「萌南。」
みっひーの目からは、涙が溢れている。
あたしの気持ちを受け止めすぎているのは、一目瞭然だった。
真剣な眼差しのまま、頬の稜線に沿って一対の筋を刻んで、それは流れ落ちていたから。
「私たちの世界は、遊びじゃない。 だからせめて、私が萌南といる間は『普通』でいたいんだ。」

頼む、頼むと2度言ってから、みっひーはあたしの胸に顔を埋めた。
小さく肩を震わせている彼女の後頭部に手を添え、あたしはそれを追及するのを止める事にした。

みっひーが、あたしに求めている事が分かったから。
あたしだって、年下の彼女にその位の包容力は見せないと。
お姉さんなんだしね。

「うん。わかった。」
好奇心旺盛な心の中のあたしに残念だったねと舌を出して、みっひーの頭を撫でる。
こうしてるとホントに『普通』の女の子なのに。

と、ふと先程の事が脳裏に蘇って、鮮明な画像として再生される。
みっひーが棒の男に散々叩かれていた事が。

「みっひー。 さっき、叩かれた時、痛かったでしょ? 傷になってないか見ておきたい。」
乙女の柔肌を傷つけたりしてたら、例え敵わないと解っていても、あたしはあのマオカラーを許さない。
でもなんだろう、あたしがそう言った理由は本当にそこなのか、自分でも判らなかった。

「萌南。心配してくれるのか。 ・・・ありがとう。」

・・・・・・。

・・・やっぱり、違うかもしれない。

だって、言った事でドキドキしたり、みっひーの素直な返事にチクリと痛みが走ったりしたから。
みっひーが、月明かりの中でゆっくりとシャツの裾を持ち上げていく。


 

 

 

 

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