Never open doors   その6


9月 2日  曇り   13:58

「おそよー、優緒ー。」
「湖那。」
ほぼ時間ピッタリに、湖那はうちの玄関前に自転車で現れた。
その後ろからやってきたのは、湖那の同級生の久院 清良。
この人が転校してきたときは学校中で話題になったものだ。

『東京から来たクールな金髪美少女!』
ここが田舎だという事は抜きにしても、確かにセンセーショナルな話題だった。

「清良さん。 こんにちは。」
湖那ほど親しい訳じゃないから、何となく挨拶の距離感が掴めなくてぎこちなくなってしまった。
「優緒ちゃん。 こんにちは。」
ロリポップの棒を口に咥えたまま器用に挨拶を返す清良さんの、金のサイドテールが小さく揺れる。

「湖那さん、えと、後ろの人は?」
路美花ちゃんが私の後ろで戸惑ったような声を上げる。
「あぁ、ロミジュリは知らないか。 新聞部を手伝ってくれてる、クラスメイトの久院 清良。」
「え、あの新聞部を!?」
「か、軽手さん! ロミジュリって・・・そんなまとめ方しないで下さい!!」
「あの、とは失礼な指示語ね。ロミオちゃん。」
「何で嬉しそうなのよ、潤里ちゃんは。」
どうでもいいけど、私を挟んで喋るのはやめてほしい。

「初めまして、久院さん。 鳳 潤里です。」
「あぁ、クイーンって呼んでよ。 ずっとそう呼ばれてきたからさ。 よろしくね、えと・・・」
「僕は江曽 路美花。 クイーンさん、かぁ。 なんかカッコイイなー。」
結構気さくな人なのかな、と思わせてるけど、私には判ってる。
清良さんはあまり心を開くタイプの人間じゃないって。

「じゃ、早速だけど、行こう・・・」
「あー、待って、湖那さん。 僕達お昼頃に学校行ってみたんだけど、校門のとこにゴリグチ先生がいてさー。」
ゴリグチ・・・その名称を聞くだけで、容易にあのごま塩角刈り頭が浮かんでしまう。

「え、うそ。 じゃぁ、ロミオちゃんたちも見たんだ?」
「え、どーゆーこと?」
お互いの情報が、私の頭上で交錯し、こんがらがっているみたい。

「いや、クイーンもさ、朝10時ごろ見たって言ってたんだよね。」
「それなら、軽手さん。 学校には先生がいるみたいですし、今日は探検はやめてパーティーでも・・・」
日和る潤里ちゃんに、湖那はわざとらしくチッチッと人差し指を2回横に振る。
「ふっふっふ。 その程度で軽手 湖那のジャーナリスト魂は揺らいだりしないわ!学校新聞の為に!」
湖那。 それはジャーナリスト魂じゃなくてマスゴミ根性、って言うのよ?

「でも、入れないんじゃ・・・」
「ぬふふ。 甘いなぁ。ロミオちゃん。 まぁ、ついて来ればわかるって寸法よ。」
湖那が、悪い笑みを浮かべる。 そう、それこそ漫画のベタな悪役のような。

 

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「そいえばさ、みんなは『三須加高校 七不思議』について、知ってる?」
通学路を二人が自転車を押しながら、私たち三人は歩きながら進む途中で、湖那が本題を切り出した。
「いや、僕は興味ないってゆーか、知りたくないってゆーか・・・ ねぇ、ジュリ?」
「え、うん、そーよね、えへへ。」
一番後ろを歩く二人が背後でいちゃついている風景が脳裡を過り、私のゲージが少し貯まる。

「優緒はもちろん知ってるよね?」
「当然よ。」

@ 理科室の人体模型が動く
A 音楽室のピアノが鳴り、肖像画が笑う
B 図書室の本が棚から勝手に落ちる
C 2階のトイレの水が真っ赤に染まる
D 美術室のオブジェが踊っている
E 校門に巨大な鳥が飛んでくる
F 3階の廊下を蝙蝠が飛び回る

湖那が眼鏡越しに促すので、私は数学の公式を暗唱するようにすらすらと解説した。
「さっすがぁ〜。 優緒ったら頼りになるぅ〜。」
「湖那。 わざとらしい。」
くねくねしながらおだてる湖那を、私は一蹴する。

「でもね、優緒。 それに続きがあるって知ってた?」
ピキンと、私の中のアンテナが反応する。
私の知らない、学校のミステリー!!
無口になってしまった後続の二人を差し置いて、私は湖那と清良さんの間に割って入る。
「なに、湖那! もったいぶらないで教えてよ。」
「じゃぁ、優緒。 わたしを三須加高校一のジャーナリストだって認めてくれる?」
「認める認める! 立派立派!!」
高校一もなにも、マスゴミは湖那一人しかいないから安心なさい。

「うむぅ、なんか心が篭ってないけど、まぁいっか。 実はね・・・」




 

 

 

 

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