Never open doors   その22


9月 2日  凶雲   17:37

side 路美花/優緒/潤里   place 3F廊下→ 2年2組教室

 

教室に戻ったものの湖那さん達がいなかったので、わたくし達はロミオや優緒さんと合流できたことを連絡
する事にした。
「あれ、圏外ね。」
湖那さんの電話番号を知っている優緒さんがケータイの画面から顔を上げ、普段なら起こりえない事に対して
困ったように呟いた。

湖那さん達と連絡が取れない以上、わたくし達もここでじっとしている訳には行かない。
色々とショックな出来事--特に校門の所のあの生物、とか--は起こっているけど、ただ徒に時間が過ぎるのを
待てば解決するだろうか。
もし、学校がずっとこのままだったら、明後日の始業式はどうなってしまうのか。
いや、それ以前にあの・・・怪物が町を襲ったりしたらどうなるのか。
わたくし達の、町が。

・・・・・・。

 

「ロミオ、優緒さん。」
わたくしの口調の変化を感じ取ったのか、呼ばれた二人がふとこちらに顔を向けてくれた。
「やっぱり、さっきロミオが言ったように、わたくし達で調べてみようよ。 この状況。」
「潤里ちゃん・・・」
「怖いには怖いけど、でも、このままにしておいて良いとは思えなくて。」
意外そうな素振りを見せた優緒さんは、わたくしの表情を読み取ったのか、少し考えてから小さく頷いた。

「まったく・・・ 二人が調べたいって言うなら、しょうがないから付き合うわよ。」
優緒さんのわざとらしい言い回しに、思わず口元が綻んでしまう。
「流石ジュリ。 僕に賛成してくれるんだね。」
いつも以上ににこやかな笑みを浮かべるロミオに、わたくしは言葉を続ける。
「えぇ、危険な目には遭わせたくないけど、荒事でわたくし達に頼れるのはロミオしかいないから。」
ごめんね、ロミオ。
わたくしに皆を守れる力があったら良かったのに。

「で、調べるというなら、私は図書室が一番気になるわ。」
乗り気でない割には、優緒さんが真っ先に意見を述べ始めたので、わたくしはその根拠を尋ねる。
「図書委員の二人がここにいる事自体がそうだけど、湖那が言ってた『七不思議の続き』の噂の出所が
岩佐さんっていうのが引っかかるのよね。」
記憶と想像を手繰るように虚空に視線を彷徨わせながら、優緒さんは今の時点で思う事をわたくし達に全て
話してくれた。

○校長先生と留学の話が終わっていなければ、まだ岩佐さんは校内に残っているはず。
○空知さんと『朝から図書室の整理』をしていたなら、終わっていればそこに戻っているのではないか。
○噂の入手経路について、本人がいれば直接話を聞けばいいし、いなくても手掛かりがあるかもしれない。
○図書室が『七不思議』の内の一つに含まれているから、二人が図書室に行ったら危険かもしれない。

要点だけをかいつまんで、優緒さんは簡潔にこれほどの理由を挙げた。
ずっと気になっていたという事なのか、優緒さんの表情は固い。
「決まりだね。 じゃぁ、図書室に行こうか。」
ぱしんと右拳を左掌に打ち合わせて、ロミオが立ち上がった。

 

 

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わたくし達が階段を下りて1階に到着する直前。
階段を下り切る前に廊下の左右を覗き込み、安全を確認している時の事。
薄暗い廊下の向こうのテラスのテーブルに腰掛けている二人の人影を見つけて、後ろを下りてくるロミオと
優緒さんを振り返って制止する。

「ロミオ、優緒さん。 テラスに誰か、二人いるみたい。」
「二人? 湖那たちかしら、それとも図書委員かしら?」
自然と声のボリュームは小さくなり、様子を窺いながらひそひそと会話する。
人影の正体が、優緒さんの言ったどちらであっても、話し掛ける必要があることは間違いないので、わたくしは
図書室の反対であるテラスの方へと歩を進める事にする。

距離が縮まるにつれ、こちらに背を向けて座っている二人が軽手さん達であることを確信したわたくしは
近づいて名前を呼んでみた。
「あ、ジュリちゃん、優緒、ロミオちゃん。」
声を掛けた瞬間こそ驚いたものの、軽手さんは安心したように大きな溜め息をつくと、わたくし達に座るよう
言って、これまでのお互いの状況なんかを軽く報告し合った。

軽手さん達からは守口先生が重体な事、職員室の校長先生犬、それから・・・校門のアレの事。
わたくし達が遭った『七不思議』の事を話すと、軽手さんも久院さんも驚きを隠せない様子だった。
どうやら、学校全体が何らかの『異変』に見舞われているのは間違いなさそうだ。

「校長先生の頭の、犬? そんなの『七不思議』に無かったはずだけど、どういう事かしらね。」
軽手さんの話に出てきた生物の話を聞いた優緒さんが首を捻る。
わたくし達は『七不思議』を体験してると思っていたけど、そう言われてしまうと『それだけじゃない何か』が
あるのかとも思えてくる。

久院さんの仮説『校長先生が姿を変えられたもの』だとしたら、一緒に留学の話をしていたという図書委員も
何か危険な目に遭った可能性が高いという推理が成り立ってしまう。
どうやら、明後日の始業式なんて悠長な事を言ってられない、もっと早く解決しないといけない気配を感じて、
わたくしは思わず体が震えてしまいそうになった。

「その犬を攻撃しないように何とかするなら、閉じ込めちゃえばいいんじゃないですか?」
ロミオが何かを思いついたらしく、はいと手を挙げた。


 

 

 

 

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