Never open doors   その31


9月 2日  凶雲   19:32

side 路美花/潤里/優緒/清良   place 保健室

 

「あっ、皆、ここにいたのね!」
危うく保健室を走り過ぎそうになってから、2歩戻って空知は保健室に入って来た。
「空知さん! 無事だったの!?」
優緒ちゃんが驚きの声を上げて彼女を迎え入れる。

「皆、軽手さんが・・・ 軽手さんが、校長先生に連れて行かれてしまったわ。」
少し弾んだ呼吸をしながら、空知がここに来た目的であろう主旨を述べた。
「えっ!?」
「どういう事よ!?」
床に視線を落とす空知の目を覗き込むように、優緒ちゃんが問い質す。

「私、いつの間にか寝てしまったみたいで、軽手さんに起こされたんだけど、目が覚めたのは校長室で・・・
少し話したりしてたら、そこに校長先生が来て、校長室に居なかった岩佐さんの事とか聞こうとしたんだけど、
軽手さんが突っかかって行ったら、お腹を殴られてぐったりして、私は、怖くなって動けなくなってしまって、
そうしてるうちに、校長先生は軽手さんを連れて、校庭の方に・・・」

状況を思い出すように、たどたどしくも一気に吐き出し終えてすっきりしたのか、空知は大きく息をついて
優緒ちゃんの両手を取った。
「お願い。 校長先生に岩佐さんがどこに行ったのか聞きたいの。
それに、軽手さんだって連れて行かれちゃったし、私ひとりじゃ、不安で・・・」

「・・・ 助けに、行かなきゃ。」
少し思案して、優緒ちゃんはまるで自分に言い聞かせるようにそう溢した。
「空知さん、校長と湖那は、どっちに行ったの?」
取られていた手を握り返すように、優緒ちゃんが空知に詰め寄る。
「私が我に返って窓の外を見た時はもう校庭に居て、体育館の陰に入っていくのは見えたけど・・・」

校長室から見て、体育館の陰ということは、校門の方だろうか?
まさか、あの化け物とやっぱり関係が?
守口先生がうわごとで言っていた『迎えの鳥』というのがそれを指しているのなら・・・

「皆、湖那と岩佐さんを助けに行かないと!」
優緒ちゃんの呼びかけに、鳳と江曽が大きく頷いて視線を交わす。
「・・・ありがとう。 川出さん。」
「あたしも行くよ。」
痛む腰を抑えながら、あたしも一歩進み出て名乗り出る。
「久院さん。 怪我してるのに、無茶は・・・」
「湖那がそんな目に遭って、放っておけるわけないじゃん。」
止めようとする鳳の言葉を、あたしは遮るように言い放って空知を睨みつける。

「そう、ありがとう、久院さん。」
柔らかい口調で感謝を述べる空知に、それでもあたしは厳しい視線を投げ掛け続ける。

「よし、早く行こう!」
「うん、空知さん、案内して。」
江曽の合図に優緒ちゃんが反応する形で、一同は保健室を出ようとする。

・・・待って。
待って、あたしにはどうしても、空知が信用できない。
このタイミングで空知が現れたというのもそうだけど、もし空知の証言が本当ならば、何故校長は湖那だけを
連れ去ったのだろうか。
湖那を殴る力があるのなら、怯んでいる空知も無力化する事が出来たはずなのに、何故そうしなかったのか。
それに、突っかかって来たのが嫌だっただけなら、わざわざ連れ去る理由なんて無いはず。

ほんの一瞬の疑いが、あたしの手を動かした。

掴んだのは--------

 

 

「江曽!」
出て行こうとする4人のうち最も近くにいた江曽の手を掴んで引き留め、あたしは小声で呼びかける。
「え・・・?」
呼び止められて、江曽が走り出しかけた身体を反転させ驚いた表情をあたしに向ける。
優緒ちゃんと鳳、空知が部屋を出たのを確認してからあたしは言葉を続ける。

「江曽、悪いけど、頼みがあるんだ。」


 

 

 

 

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