Never open doors   その40


9月 2日  凶雲   20:24

side 路美花   place 地下室 

 

蓋を開けて下を覗き込んだら、誰かと、目が合った。
まさか何者かがいるなんて思わなかったので、背筋を何かが走り抜けて身体がビクンと跳ねる。

「きゃあぁ!」
先に向こうに出されて上げそびれた悲鳴を、僕は飲み込まされる形になってしまった。
しかしすぐに今の声が優緒だと気付き、慌てて穴をもう一度覗き込む。
「・・・優緒?」

「ろ、路美花、ちゃん? ・・・びっくりさせないでよ!もう!」
3メートル程の穴の下に向かって声を掛けると、明らかに怒った声が返って来た。
「ごめん、僕もすぐ降りるから!」
「待って!来ちゃダメ!」
穴の淵に手を掛ける僕を、優緒が即答で止めた。
「ロミオ! わたくし達、閉じ込められてるの!」
優緒のすぐ横からこちらを覗き込んで来たのはジュリ。

「え、何で!? ど、どうしたらいいの?」
状況が呑み込めないけど、なんか閉じ込められてるらしい事は判ったので、とりあえず聞き返す。
「路美花ちゃん、説明は後。 何か、ロープとか縄梯子とか、ここを登れそうな物を持ってきて。」
優緒の的確な指示にわかったと返事すると、これを持って行ってと何かが下から投げ渡された。
「そこ、真っ暗なんでしょ? 途中にそれを置いて行けば誘導灯の代わり位にはなるんじゃないかしら。」
「ロミオ! わたくしのも持って行って!」
ジュリも、優緒に続いて携帯電話をこちらに投げた。
周囲の暗さもあって落としそうになるのを必死で捕まえる。
優緒はさらに、今度はスマホを投げてよこした。

「清良さんのも使ってって。 路美花ちゃん、水が入って来てるの、急いで! 頼んだわよ!」
「わかった! すぐ行ってくるから待ってて!」
そう叫び、僕は元来た道をダッシュで戻る。
階段の段差や幅は、さっき降りてきた感覚で大体わかってる。
もう慎重に移動してる場合じゃない。

何度か螺旋階段を折り返す途中で預かった携帯電話を開いて階段に置く。
待ち受け画面の光を、頼もしいなんて思ったのは生まれて初めてかもしれない。
こんな小さな明かりがあるだけで、30分も掛けて下りてきたのが嘘のように僕の足は軽快だ。

程なくして、僕は図書準備室へと舞い戻った。
優緒はあの閉じ込められてる場所に水が入ってきてるっていってたから、失敗したからと言って、多分何度も
往復はできないだろう。
でも、ロープや縄梯子なんて学校の中にあるのかな?
頭の中の学校をぐるぐると探して真っ先に思い付いたのは・・・

体育倉庫の綱引き用の綱。
・・・あ、でも、何の支えも無い太い綱を上って来るなんて、僕やクイーンさんならともかくジュリや優緒には
無理かもしれない。

次に思いついたのは学校の2階や3階に設置してある非常用避難梯子。
これなら誰でも登れるはずと思った僕は、慌てて記憶を辿る。
どの教室にも置いてあるけど、中に入れる事が確実なのを知っている2階の教室へと向かう。
最初は怯んでいた『七不思議』も全ての現象が判明した今、もう怖いと感じるモノなんて無い。
1段飛ばしダッシュで階段を上ってすぐの、今日ここに来て最初に入った教室のドアを勢い良く開けた。

そこは出発した時のままで、湖那さんの机を囲むように椅子が5つ並んでいる。
たった数時間前の出来事なのに、それはずいぶん前のように感じられた。

みんなで・・・みんなで学校から出る。

そんな思いを椅子に投影させ、僕は教室奥の隅にある避難梯子が収められている鉄の箱の覆いを開ける。
非常時に使う為か施錠はされておらず、中にはリールに巻き取られた梯子がどっしりと鎮座していた。
重さを想定して腰に力を入れて持ち上げてみると、思ってた程重くはないので持って行けそうではあった。
しかし、どうやらこれは窓枠の下辺に引っ掛けて固定するタイプのようで、そのままでは穴の縁で使う事が
出来ない。

人間の全体重が掛かった梯子を手で支えるなんて、さすがの僕でもそこまでの力は無い。
どうすれば・・・


 

 

 

 

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