Rainy pink その6


「はー。おなかいっぱい。幸せ幸せ。」
部屋の鍵を開けて靴を脱いだ海佳は、とたとた軽い音を立てながらリビングへ行ってしまう。
靴くらい揃えなさい。
そう思いながら私が代わりにそれを実行し、バッグを置くためにリビングへ向かう。
「ファミレスのカレーも悪くないけどさ、やっぱウチのカレーの方がおいしいよねー。」
ソックスを脱いで、くるくると丸めながら海佳がつぶやく。
「海佳、絶対あてつけでしょ?」
「なにが?あ、お姉ちゃん。テレビのリモコンどこ?」

出掛ける前の出来事を思い出しながら、小さく溜息をつく。
わざわざカレーセットを食べるなんて、好きなもの食べて良いって言ったから止めなかったけど、
分かり易過ぎる。
「ベッドの上。」
お風呂にお湯をためる為、バスルームに向かいながら声を投げる。
私の声でそれを見つけた海佳がエイッとボタンを押すと、バラエティ番組の派手なBGMが流れ出す。
実家でも良く観ていた、世界中の映像を集めたあの番組。
バスルームから戻った私は、小さく体育座りする海佳の横に座る。
ちらりと私を見てから微笑む海佳。
一週間ぶりのその番組を、私はボーっと見つめる。

画面から巻き起こる笑い声に釣られて笑う海佳の横顔。
たった3ヶ月離れてただけなのに、とても懐かしい気がする。
忘れたわけじゃない。思い出せなかっただけ。
実家のソファでは当たり前だった、テレビを見るときのこの位置。
テレビはちょうどコマーシャル中なのに、つい笑ってしまう。

「あ。そだ。お姉ちゃん。これ終わったらさ、一緒にお風呂入ろ?」
真横にある顔が、輝く笑顔で提案する。
しかし、現実は無常。
「無茶言わないで。一人でも狭いお風呂よ?入れるわけ無いでしょ?」
「え〜。一緒に入りたい〜。背中洗ってあげたい〜。」
いくら海佳のお願いでも、物理的な無理は通らない。
私だって出来るならそうしたいけど、しょうがないじゃない。
「ウチに帰ったら一緒に入ってあげるから。今日は言うこときいて頂戴。」
可愛く口を尖らせる海佳の頭を撫でて、私は立ち上がる。
「うむぅ〜。」
明らかに納得していない海佳の視線が私を追いかけてくる。
それを背中に感じつつ、タンスから着替えを取り出す。

「じゃ、先に入るから。」
「ふぁ〜い。」
海佳はふて腐れた返事をすると、コテンと床に横になる。
こんなやり取りが、やっぱり海佳とは一番楽しい。
一人ニヤニヤ笑いをたたえたまま、私は脱衣場の扉を閉じた。

 

 

 

 

その5へ     その7へ