Upside down その15


「やーっ!理美ちゃん、ちょっと待って!」
ぐいぐいと引っ張る力に、なんだか余計なものまで一緒に脱げてしまいそうな予感がして、慌てて両手を掴む。
「なんでや! 氷音先輩は、ウチが絶対助けんねん!」
必死なのに、何故か今にも泣き出しそうな理美ちゃんの目が、私の心臓を貫いた。
こんなに私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど、抵抗するのをやめるわけにもいかない。

「ウチのせいや・・・ウチが余計なこと言わんかったら・・・やから、氷音先輩を助けんと・・・」
「理美ちゃん・・・落ち着いて。」
私は理美ちゃんの頭を、ボタンが一つ弾けてしまった胸元にそっと抱き寄せた。
「理美ちゃんのせいじゃないわ。 きついのを解ってて、それでも私が自分の意志で着ただけ。」
だから、理美ちゃんは悪くないの。
そこまでは、声に出来なかった。
それでも理美ちゃんは無言のまま微かに震えながら、しばらくそのまま顔を上げなかった。

 

私が冷静になり、理美ちゃんが落ち着くくらいの時間が経った。
私が最終的に辿り着いた結論は『脱げないなら切るしかない』という決意。
作った演劇部の皆には謝らないといけないし、弁償もするつもりだけど、今はそうするしかない。
私は落ち着きを取り戻した胸の中の恋人の頭を撫でながら、提案を囁く。
「理美ちゃん?」
「ん?なに?」
頭を撫でられて気持ちがいいのか、少し甘えたような声で理美ちゃんが返事をした。
「引き出しからハサミを持ってきてくれる? もう、このパンツ、切るしかないと思うの。」
「そないなことしたら、怒られてまうで?」
「うん。でもしょうがないから・・・ね。今はそれしかないと思うの。」
私の説得に、二呼吸ほどの時間を置いて、理美ちゃんは小さく頷く。
「わかった。ちょっと待っててや。」
名残惜しそうに立ち上がった理美ちゃんは、すぐにハサミを持って戻ってくる。

「あったで!氷音先輩!」
真剣な眼差しで数メートルの距離を走ってきた理美ちゃんに、私は感謝の意を表す。
「ありがとう。じゃぁ、私が・・・」
「いや、ウチにやらせてんか。ウチが・・・氷音先輩を助けるんや。」
その想いは、私の心をときめかせるには充分すぎた。
これじゃよっぽど、理美ちゃんのほうが王子様みたい。

「うん。じゃ、お願い。太腿から膝の辺りまで切れば抜けられると思うから。」
そう言って立ち上がると、また少し布地が嫌な音を立てる。
「わかった。動かんといてや。」
大きく裂けたお尻のあたりの穴から、細い物がショーツとパンツの間に入ってきて、小さな恐怖が湧き上がる。
何度かぐいぐい引っ張られる感じがしたけど、どれだけ身体を捻っても、陰になって良く見えない。
「んー、なんや、よぉ切れんなぁ。このハサミ、バカんなっとんちゃうか?」
理美ちゃんが、苛立ちながら粗雑にハサミを動かす。
「やだ、理美ちゃん、怖いから・・・あんまり乱暴にしないで・・・」
「あぁ、ごめんや氷音先輩。 ・・・んー、ちょっとやりにくいなぁ。」
ぴたりと理美ちゃんの手が止まり、立ち尽くしたままの私もどうしたものかと考えあぐねてしまう。

「お!せや! 氷音先輩、立ったままやとやりにくいから、膝立ちなってみてんか?」
効果があるかどうかは分からないけど、何か思いついたならやってみた方がいい。
私は言われたとおりの体勢を取って理美ちゃんを振り返るけど、不安げな表情を浮かべているに違いない。
「うーん・・・そんでな、肘ついてみて?」

え・・・?
それって、四つん這いってコト・・・?

ドクンと、鼓動が跳ねた気がした。
なんか、それって、すごい恥ずかしいんだけど・・・
でも理美ちゃんがそうしてって言うなら、仕方ないわよね。
ゆっくりと上体を倒して肘で身体を支える姿勢をとると、長い髪が背中から顔の横に数束流れ落ちてきた。
なに、この格好?
一度そんな風に意識してしまうと、何を勘違いしてるのか私の鼓動は強さと速さを増して行く。

「これならやりやすいかもやな。氷音先輩、待っててや。」
再びハサミの先端が侵入してくる。
ショーツで守られていた部分を過ぎ、肌に直接ハサミが当たる感触が更なる恐怖を呼び起こす。
徐々にではあるけどハサミの先端の位置が、お尻よりぴっちりしている太腿の方へと下がっていくのが、
永遠に続くのではないかと思うほど長く感じられる。

布地が断ち切られていく音と時計の秒針の音、そして、この姿勢が苦しいのか、荒く細かい私の呼吸。
やっぱり恥ずかしいから・・・早く終わって、理美ちゃん!

 

 

 

 

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