Upside down その16★


それから、どれほどの時間が過ぎたのだろう。
ようやく両方とも脚の裏側に沿って切り終えた理美ちゃんが、たった一言、ぽつりと呟いた。
「氷音先輩のパンツ、白や。」
それは、理美ちゃんが今どんな場面を目の当たりにしているのかという宣告だった。
「必死やったから気にしてへんかったけど、氷音先輩のお尻、ステキやなぁ。」
理美ちゃんの掌が、かすめるように私のお尻を撫で上げ、思わず体が弾む。
「え、理美ちゃん? 何してるの?」

「あんなぁ、氷音先輩やから正直に言うけど・・・ ウチな、ズボン切ってる間ずっとドキドキしててん。」
理美ちゃんの手は、お尻だけでなく太腿の方をも這い回り、触れられた箇所が淡く熱を帯びてくる。
「そんなこと、言われても・・・」
今、どんな表情でその想いを打ち明けているのか、図書室の床に釘付けになった視点では確かめようも無い。
「せやから・・・その・・・もっと、氷音先輩のコト、触りたいねんか。」

それを聴いた瞬間、私の脳が爆発した気がした。

そ、そ、そ、それって、そーゆーコト!?
てか、やだ、もしそうじゃなかったら、私、超ムッツリじゃん!
纏まらない考えが、いくつも浮かんでは弾けていく。

「そんな、こんな所でなんて、誰かに見られたら・・・」
もっともらしい意見が、意外にも私の口から零れ落ちた。
「あ、それは大丈夫や。氷音先輩の王子様姿、まだ誰にも見られたないから、着替えに行ってる間に入り口の鍵
掛けといてん。 誰も入って来られへんよ。」
間髪入れずに、私の提案はあっさりと打ち消されてしまった。
でも、私は本当にそれが嫌なのだろうか。
もしそうなら、いつまでもこんな格好でいないで、さっさと立ち上がればいい。
解っているのに、私の脚を撫でる理美ちゃんの掌の感触に浸っていたい気持ちがそれを阻む。

「でも、やっぱり嫌やんな・・・ごめん。」
理美ちゃんの温かい掌が離れて行こうとしたとき、自分でも思いもよらない言葉が飛び出した。
「いいよ。理美ちゃんなら・・・お尻触るくらい。」
届いたかどうかすら不安になるほど小さな声が、目の前の床に落ちて溶けた。
「ほんまに・・・えぇの?」
いつもの明るい声からは想像も付かないような低く小さい声で、理美ちゃんが答える。

「うん・・・」
これまでに私が経験した中で、これほど鼓動が速くなったことがあるだろうか。
風邪を引いたときでさえ、こんなに頬が熱くなった事があるだろうか。
固く握り締めた拳は、羞恥か、決意か。
そんな文章が私の頭の中に流れ出し、反芻するうちにどんどん身体がこわばって来る。

「ほな・・・とりあえずこのズタボロ脱ごか。」
私の太腿に先程まで食い込んでいた衣装は、驚くほど簡単に膝まで脱げた。
理美ちゃんの導きで膝から爪先へと残骸が引き抜かれていく。
外気に晒された下肢が、ぞわりと鳥肌立ったような気がした。

「氷音先輩のお尻・・・えぇなぁ。羨ましい。」
煌びやかなジャケットを捲り上げられ、理美ちゃんがショーツに覆われた私のお尻を優しく撫でる。
その箇所だけに私の意識が集中して、きゅうっと力が入ってしまう。
「直接触っても、えぇ?」
今の恥ずかしさに耐えるだけでも精一杯なのに、私は返答することなど出来なかった。

それを肯定と捉えたのか、理美ちゃんの両掌が私のショーツの境界線の下にゆっくりと潜り込んで来る。
「うわ、しっとりすべすべやぁ。 モチモチ肌やなぁ、氷音先輩。」
余裕の無い布の内側で動き回る手の感触に、気持ち良くなってしまいそうな感情を必死で堪える。
「んっ・・・」
にも拘らず、爪がお尻の皮膚を掻いたのがくすぐったくて声が出てしまったことに、ハッとなる。

「氷音先輩・・・ウチの手、気持ちえぇの? せやったら、嬉しいなぁ。」
少し上がった声のトーンに、今は見ることが出来ない向日葵の微笑が浮かぶ。
円を描くように捏ね回されるお尻が次第に興奮を秘め始めて、体中に流れ出してしまいそう。
「や・・・恥ずかし・・・」
そんな気持ちをどう表現していいかわからず、なんとなくそう言ってしまう。

「大丈夫や。ウチしか見てへん。 やから、もっと見せて・・・」
ほんの少し掌が浮き上がったと思ったときには、もうショーツが脚の付け根まで下ろされてしまっていた。

え・・・ウソ・・・!!
そこまでしていいなんて言ってないのに!!
てゆーか、見ないで!!

どれだけそう思おうとも、私の身体は寸分たりとも動くことが出来ず、鼓動だけが加速していく。
「あぁ・・・氷音先輩、ステキやで・・・」

 

 

 

 

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