Upside down その18★


「氷音先輩、自分でここ触ったことないん?」
自らの内に湧き上がる快感に溶けた脳は、意外にも理美ちゃんの声をハッキリと理解する。
「な、無い・・・なぁい、はぁ・・・」
理美ちゃんの舌が触れる度に無意識に腰が動いてしまうのを、どうしても止める事が出来ない。

「そなんか・・・ほな、今日はこのまま気持ちよぅなってや。」
その言葉を最後に、理美ちゃんの舌が激しさを増す。
ちゅるちゅると音を立てながら私の膣から溢れる液体を啜りつつ、お尻や太腿を撫でる手も休まることは無い。
快感に耐える為に握り締めた拳に口をつけて声が出ないようにしても、呼吸に合わせて甘い声が零れるのを
防ぐことは出来ず、ただ理美ちゃんの行為に翻弄されてしまう。
「氷音先輩、可愛い・・・いつもより全然おしゃべりになってもうてる・・・」
「やぁん・・・そな、こと、ない、よぉ、あっは!」

クリちゃんと呼ばれた箇所を、再び指で転がされて痺れるような快感が走る。
そこ・・・なんかすごすぎるの!
指だけでなく、ぬめる舌の動きまで加わると、頭の中に押し寄せた快感で何も考えられなくなってしまう。
「理美ちゃん、ダメ、あ、あ、なんか、はぁ、あ・・・」
「氷音先輩・・・あん、すごいビクビクしてる・・・」

意志とは無関係に腰が震え、小さな手指に掴まれている感触すらも快感へと変わっていく。
「ひぁ、あ、はあぁ、も、変に、なっちゃ、う、はぁ、あっはぁぁぁ!!」

ただでさえ反った背中が更に反り、全身が凝縮する。
喉の奥からか細い喘ぎが迸り、何度も身体が弾む初めての感覚になす術も無く飲み込まれてしまう。
「あぁ・・・氷音先輩、イってもうたん? 可愛い・・・」
白く眩い世界に吹き飛ばされた私に、その声は届いていなかった。

やがて痙攣が治まると、それまで突き出していた下肢は力なく崩れ落ちた。
それでも優しく、理美ちゃんは私のお尻を撫でながら何度もキスを落とす。
少し冷たい、指と唇。

薄れ行く快楽をようやく乗り越えた理性が、現実を把握しろと脳を急き立てる。
でも、何しろ初めての事すぎて、どうしたら良いのかわからない。
どんな顔をして振り返ったらいいのか、なんて声掛けたらいいのか、どうなってしまっているのか。
急ぎすぎて片方のオールでしか漕いでいないボートのように、ぐるぐると思考が回り続ける。

「氷音先輩?」
助け舟とはこの事だろうか。私の股間をそっと拭ってから、甘えたような声が染み込んでくる。
とはいえ、どう返事を返すべきなのかが出てこなくて、勝手にボートが離れてしまう。

「氷音先輩がイく時の顔、見られんかった。」
えぇぇぇ! な、何言ってんのよ!?
平静を取り戻そうとしていた顔の熱が、一瞬にしてぶり返す。
「でも、可愛かった。こんな可愛い人が恋人やなんて、ウチは天下の幸せもんや。」
ゆっくりと私の背中に抱き付いて囁いた向日葵は、今どんな笑顔を湛えているのか。
私だって見たいのに、言う事を聞き始めない身体と心が振り返ってくれない。

「それに、氷音先輩がこんなに可愛いっちゅうコト知ってんのはウチと氷音先輩だけや。」
くすりと零れた息が乱れた髪に溶けて、くすぐったくなってしまう。
もう、さっきからヒトのコトを可愛い可愛いって・・・
「氷音先輩。これからもずっと好きや。」
抱きしめられた腕にほんの少しだけ、嬉しそうな力がこめられて、私はようやく今起こった事実を受け入れる事が
出来た気がした。

 

無残な姿になったロングパンツと、ボタンが飛んだシャツを抱え、少し顔も赤いまま学校を後にする。
シャツのボタンは今夜付け直すとして、ロングパンツは買う意外に方法が思いつかない。
「氷音先輩、明日からウチもズボン探すの手伝うから、一緒に行こな?」
まだ運動部が活動を続けている校庭の端を、校内なのに珍しく手を繋ぎながら歩く。
「うん・・・そうね。」
ようやく、まともに一言を吐き出すことが出来た。
「大丈夫やって。きっと見つかるし、劇の準備かて難しいもんやない。」
私を見上げる向日葵の笑顔が、本当にそう思えそうな元気を与えてくれる。
「そう、よね。 ・・・うん。頑張りましょう。」
見つめ合うと、顔が近づいてしまいそうになって、慌てて前に向き直る。
「うん。なんとかなるんやから、泥舟に乗ったつもりで、どーんと構えてったらえぇねん。」

『泥舟に乗ったつもりで構える』か・・・
言い得て妙ね。
乗っている船が沈み行こうとも、取り乱さずその事実と運命を受け入れる、ということかしら。
タイタニック号の舳先の景色を思い浮かべてウンウンと大きく頷く私に、理美ちゃんが小さく付け加えた。

「氷音先輩・・・? 今の、ツッコむところやで?」

 

 

 

 

その17★へ     その19へ