Vier mädchen その4


翌日。

 

「では、今日はこれで解散です。 皆さん、お疲れ様でした。」
湯島生徒会長が月曜の定例会を締めくくって、ぞろぞろと関係者が生徒会室を後にしていく。
今日の議題は再来週の体育祭の段取りだったから、書き留めることもいっぱい。
自分でも解読が難しそうなノートを改めて見直すと、溜息が出ちゃう。
だって、女の子だもん。

「お疲れ様。 かすみん、私も手伝うからさ。そんな大きな溜め息つかないで。」
隣に微笑むみのちゃんが、わたしの肩にポンと手を乗せてノートを覗き込む。
「みのちゃん・・・ うん! ありがとー! 大好き!」
全力で抱き付いたわたしを、残る二人の視線を気にしてかそっと離そうとする。
うむぅ・・・

「ふふ。きょうも仲良しね。当麻さんと永江さんは。」
会議内容がびっしりと書かれた黒板を背に、ふわりと微笑む生徒会長がそう言って立ち上がった。
「仲良き事は美しいですが、いつまでもそうしていたらお茶の準備ができませんよ。」
会長の横で腕を組んでいた岩淵副会長が、放課後過ぎなのにきっちりカールをキープしている髪を掻き上げて
それに続く。

「あ、私も手伝いますよ。 かすみんは、いいから作業してて。」
わたしのハートを射抜くウィンクを一つ残した隙に、みのちゃんがわたしの腕の中から飛び立ってしまった。
もう・・・ でも、しょうがないか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「では、今日の良き日に。」
その合図で、皆がティーカップを宙に捧げてお茶会の始まり。
「あ、そだ、かすみん。 お茶会で発表するからあとでーって言ってたギモーヴの話は?」
よく覚えてるみのちゃんの一言に、事情を知らない会長と副会長がこっちを覗う。
「うん! もちろん、ちゃんとお父さんに聞いてきたし、発表するよ。」
会心の笑みを浮かべながら立ち上がったわたしを、3つの視線が追いかけてくる。

「おほん。 ただ正解を発表しても面白くないから、先にわたしが思いついた考えを発表するね。」
「ギモーヴって、お菓子の? 何の発表かしら?」
腰に手を当て小さく咳払いしたわたしを見詰める会長は、マリア様のような優しい微笑み。

「わたしの見解によりますですと。」
論文を発表する学者さんになった気分で、わたしは言葉を続ける。
「ギモーヴとマシュマロの違いは、ズバリッ!!」
びしっと指を突き出して、たっぷり二呼吸。
指先に皆の注目が集まるのを感じて一気に声を吐き出す!

「鳴き声が違います!」
ばばんっ!
しっかりドヤ顔を決めて、見回す皆の顔には私への注目がいっぱい。
「な、鳴き声・・・?」
「でわでわ、それを今からお見せしますでしょう!」
昨晩寝る前に練習した成果を発表する緊張で、日本語が怪しくなった事にも気付けないわたしは小さく深呼吸。

「ギモーヴはこう! ぎもぶっ、ぎもっ、ぎもぎもっ☆」
両耳の後ろで掌をパタパタしながらぴょんぴょんと小さく飛び跳ねて、渾身のギモーヴの鳴き声。
精一杯可愛く作った高い鳴き声を聞いて、皆は口を半開きにしながら真剣にわたしを見つめてくれている。

「そしてマシュマロはこう! ま〜しゅ、まぁろぉ〜ぅ・・・」
今度は身体をくねらせながら、いちばん低い声でゆっくり鳴き声を表現する。
どう!? 皆、ぐうの音も出ない程、押し黙ってわたしの熱演に食い入るように魅入ってるじゃない。
やったね☆

「お、お菓子の鳴き声なんて、当麻さんらしい斬新な発想ね。 素敵だと思うわ。」
さっきの優しい微笑みとはちょっと違う笑みを浮かべながら、会長はぱちぱちと小さく拍手してくれた。
副会長は・・・腕を組んだまま何も言わないけど、きっとわたしの熱演の余韻に浸ってくれてるのよね?
「ちょっと、かすみん!? みんな困ってるよ!?」
何故か知らないけど、慌てたみのちゃんがわたしを座らせようとする。
まだまだこれからなのに!

「ギモーヴはフランス菓子で、フルーツピューレにゼラチンを加えて泡立て固めたもの。
一方マシュマロはアメリカ菓子で、一般的に香料で味をつけたメレンゲをゼラチンで固めたもの。
マシュマロは口の中でもこもこした食感ですが、ギモーヴは口の中でじゅわーっと溶ける食感が特徴です。」
小さく溜息をつきながら、岩淵副会長がさらりと、わたしが教わったのに近い正解を言ってしまった。
もう! わたしが言おうと思ってたのにー! でしゃばりさんめー!

「かすみん。顔に出てるよ。」
むくれながら椅子に戻ると、みのちゃんが頑張ったねと頭を撫でてくれた。
えへへ。嬉しい☆

「まったく、変な話をするから出し辛くなっちゃったじゃないですか。」
ごそごそと鞄の中から化粧箱を取り出した副会長が、どこか不機嫌そうにその蓋を開けた。

「今朝、文兎に作らせたギモーヴです。」
そっか。今日のお茶菓子当番は副会長だったっけ。
白い箱の中に並んだ円錐形のピンクのグラデーションに、わたしも思わず目を見張る。
「桃とさくらんぼとブラックベリーの3種類です。 どうぞ。」
「わぁ! 美味しそうね。 名前は知ってたけど食べるのは初めて。」
最初に箱を差し出された会長は、向日葵のような満面の笑みで濃いピンクのそれを一つ摘み上げた。
「すご! 売り物みたい!」
みのちゃんが褒めたことに、わたしの胸の奥がトキンと痛くなった。

でもね・・・

「副会長。 このギモーヴも、ちゃんと鳴くかな?」
「鳴きませんよ。」
さっき正解を言われちゃった仕返しに、そう言われたわたしはちらりと会長に視線を走らせる。
「そうね・・・ ふふ。岩淵さん、わたくしもギモーヴの鳴き声を聞いてみたいわ。」
二人でウフフと副会長を見つめる。

「はぁ、会長まで・・・ いいですか? そもそも育ちのいい動物というのは無闇やたらと鳴いたりしません。
生き物が鳴くのは情報を伝達するためのものであって・・・」
「おー! おいしい! かすみんのお父さんが作ったのと同じくらいおいしい。」
「みのちゃん!? お父さんの方が美味しいってば!」
「うふふふ。」
「とにかく、私はやりませんからね。」

梅雨の晴れ間の放課後が、今日もゆる〜く過ぎて行きましたとさ☆



fin.


 

 

 

 

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