Vier mädchen その7


「副会長。 ・・・あー、お待たせ。」
「え、みのちゃんの用事って、副会長?」
先に校門で私達を待っていた副会長が、こちらを見て小さく溜息をついたのを私は見逃さなかった。
「いえ、想定内です。」
「ちょっと!みのちゃん? どーゆーこと!?」
ひえぇぇぇ!
かすみは何で怒ってるのよ?

「当麻さん、ごめんなさい。 3人で話し合いたい事もあるので、これからお茶でもいかがですか?」
私達より一段背の低いかすみに、あやすような声で副会長が事態の収拾に取り掛かる。
「副会長! 騙されないんだからね! みのちゃんに何するつもりだったの!?」
私の前に立ち塞がったかすみが、両手を腰に当てて副会長を睨みつける。

しかし、こんな人目に付く場所で生徒会メンバーが言い争ってるという事態が、目立たないはずがない。
気付けば私の後ろで足を止める生徒が何人かいて、なんだか嫌な予感がする。
「ふ、副会長・・・?」
と、私が呼びかけるより早く事態に気付いていた副会長が、脳天噴火状態のかすみにそっと何かを耳打ちした。

「・・・・・・・・・」

 

「うん、じゃ、行こっか。」

驚くほどあっさり満面の笑みを取り戻したかすみ越しに、副会長が小さく目配せしてきた。
副会長の人心掌握というか、人の扱い方というか、そう言った手腕には毎度ながら目を見張る。
「さぁ、では永江さんも行きましょうか。 タクシーを待たせてますから。」
集まってきた人だかりに声を掛けないのは『なんでもない』アピールなのだろうか。
確かに『何でもないから散って』と言われたら、何かあったと思っちゃうのが普通だもんね。

何事も無かったように並んで校門を出た二人の背中を皆が見送って、すぐに人混みは霧消してしまう。
私は改めて、岩淵紫鈴という人物の一端を垣間見たような気がした。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「ん〜〜〜〜! おいひぃ〜〜〜!!」
私の横に座ったかすみが左頬を押さえながら、至福の表情で咀嚼を繰り返している。
タクシーで辿り着いた先は学校からおよそ30分程、渋谷区代官山。
キルフェボンと言えば季節のフルーツをふんだんに使ったタルトで有名なお店だけど、まさかわざわざ車で
移動して食べに来ることになるなんて思わなかった。

「それで副会長、話しってなにかな?」
宮崎県産完熟マンゴーのタルトをひたすら感激しながら口に運んでいるかすみを尻目に、私は本題を切り出す。
「お二人は、湯島会長の誕生日を知ってますか?」
ティーカップを一口傾けて後、副会長の口からは想像だにしなかった質問が飛んできた。
そう言われてみれば、私は副会長はおろか会長の事もよく知らないでいる。

かすみは知っているのかな・・・
期待して恋人の顔をちらりと見ると、大きな目をさらにパッと見開いてこちらを振り向く。
「ん?どしたの? あ、みのちゃん、こっちの佐藤錦のタルトもおいしーよ?」
つられて同じ表情になってしまいそうな満面の笑みで差し出された皿を、一応受け取ってテーブルに置く。
「いや、かすみん。 もうちょっと遠慮しなよ・・・」
質問の答えどころか、後輩の奢りで『いいお値段』のタルトを好き放題に食べまくるかすみを嗜める。
もっとも、かすみの場合は奢りだからという理由ではなく、ただ本当に食べたいから食べているだけなので
そんな無邪気なところも憎めないというか、可愛いというか・・・

「7月21日。 今年は丁度、1学期終業式の日です。」
私達から答えが出てきそうもない事を悟ったのか、副会長がぽつりと発表した。
「あー、そだったんだ・・・知らなかった。」
苦笑いを浮かべながら、私は誤魔化すようにティーカップを傾ける。

「そこで、私達3人で会長の誕生日をお祝いしてはどうかと思って、今日ここへ連れて来たわけです。」
なるほど。
ただのお茶会じゃなくて、その下見も兼ねてという事だったなら、こんな素敵なお店に来たのも頷ける。
「そーゆー事だったんだ。 もちろん大賛成だよ。ね、かすみん?」
「ん〜〜! 金色メロンのタルトも超うま〜〜! ひあわへ〜〜♪」

・・・・・・。

「あの、ごめんね。私もお会計折半するから・・・」
夏の特選タルト3種類で幸福の彼方に飛んで行ってしまっているかすみを、もう私にも止める事など出来ない。
「ご心配無く。 私には中学の時からFXで稼いでいる貯金がありますから。」
自信の表情で微笑む副会長に、月額制のお小遣いでやりくりしている私はただ苦笑するしかなかった。

「そー・・・なんだ。 あ。でも、相談したかったのが誕生日パーティの事なら、最初から私一人じゃなくて
かすみんも一緒にいた方が良かったんじゃないかな?」
私がその質問を投げ掛けると、丁度紅茶を飲み終えた副会長が左手で耳の横の髪を掻き上げた。
「その話はまた今度です。 当麻さんがいたら出来ない話を、するはずがないじゃありませんか。」

本人を目の前にしても言えるのは、きっと餌付けに成功しているから・・・かな?

学校の外でこんなに副会長と話した事は無かったけど、新たにいろいろ副会長の事が分かった気がする。
おもに、噂に違わぬすごい人なんだなって事を思い知らされただけって感じだけど。

 

 

 

 

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