誕生日の通学路は、どうも足が重い。
お出迎えの中には当然ボクが誕生日な事を知っている子がいて、その子達が『誕生日おめでとう!』
なんて言い始めると、知らなかった子達にまで連鎖的に広まってしまうのだ。
ただ、さすがにこれだけの人数の前で直接物を渡そうなんて勇者がいないのがせめてもの救い。
『抜け駆けは許さない』
それが女子のオキテだからね。
「おはー。まゆー。」
そんな中、ただ一つ安心できる声が人混みを掻き分けながらやってきた。
「あ、うん・・・おはよう、千河。」
どうして安心できると思ったのか一瞬考えてしまい、千河への返答が遅れた。
「さすがにビーム弱いね。今朝は。」
おでこ全開の千河が心配そうにボクの目を覗き込む。
「まぁ・・・ね。皆騒がしくて。かといって、無下にしないのがボクのいいところだけど。」
ふふんと胸を張り、それにつられて二本の尻尾が揺れた。
「はいはい。心配して損したわ。」
でもね、千河。きっとこの子達の中に僕のビームが弱いことに気づいている子はいないよ。
やっぱり千河はちゃんとボクのことを見てくれてるんだと思うと、自然と微笑んでしまう。
「あーあ、今ここで千河のこと好き!って大声で言っちゃったら静かになる・・・」
「ちょっ!バカッ!!絶っ対っ、やめてよね!!!」
全部言い切らないうちに千河が肩をぶつけてくる。
人間というのは、こうも一瞬で血の気を引かせることが出来るのかと思えるほど、千河の顔は青ざめた。
「やだなぁ、冗談だよ。」
小さく笑うボクからふいと顔を背ける千河。可愛いなぁ、全く。
「わ、わかってるわよ。・・・それより今日の約束、覚えてるでしょうね?」
進行方向を向いたまま、眼だけでボクの様子を窺ってくる千河に、ボクは用意していた返事をする。
「もちろん。まずさ、お昼一緒に食べようよ。どこか静かな所で。学校周辺じゃきっと騒がしいし。」
キラキラを湛えた表情で振り向くと、みるみる千河の表情が険しくなる。
「言われなくたって、そのつもりよ。まゆの取り巻きと一緒なんてゴメンなんだから!」
ビームを受け止めきれなくなった千河がスッと歩調を速めた。
けど、千河よりも大きな歩幅を活かして、ボクは2ステップで追いつく。
「いいところ知ってるからさ。そこにしようよ。ね。」
千河の肩に手を乗せて、却下させないようにダメ押す。
ボクだって、折角だから千河と二人でゆっくりしたい。
そうでなければ『特別な友達』の価値を試すことが出来ないから。
「まゆがそーゆーなら・・・それでもいいけど。」
よかった・・・。
ちらちらとボクを見ながら返事を返した千河に、ボクは満面の笑顔ビームを放って一気に駆け出す。
「ありがと!任せて!」
「あ!ちょっ!こらー!待ちなさーい!」
バタバタと校門をくぐれば一旦騒がしさが収まるので、ボク達はそのまま2階の教室に駆け込む。
おわ、早速机の上に何か置いてある・・・
to youオーラ満載の、可愛らしいピンクの包装紙に赤いリボン。
「おっすー。まゆきち。私が来るよりも先に置いてあったよ。それ。」
珍しくボクたちよりも先に登校していたあられが、だよねーと友達と喋りながらそれを顎で指し示した。
「マジで?誰か判らないんじゃお礼も言えないなぁ。」
手に取ってみても、メッセージはおろか名前すら書いていない。
ちらりと、席に着いた千河にしばらく視線を送ってみても、全くこちらを気にしてくれてはいない。
うーん。気にしてよぉ、千河ぁ・・・
かといって、千河に『プレゼントもらったよー』なんて言ったらすぐツンツンしちゃうだろうしなぁ・・・
それに、出来れば今日はなるべく千河の機嫌を損ねたくない。
だからボクは、それをそっと机の奥にしまいこんだ。
どうせさっきのあられとの会話は聞こえてただろうけど、目に付かないようにすることが大事なんだよね。
はぁ・・・
去年の誕生日には、疲れるどころか楽しみとすら思ってたのに。
今は、わざとボクから目を逸らす千河のことを考えてしまう。
今日は放課後までこれが続くのかと思うと、早くもお疲れモードになってしまうボクなのであった。
そんなボクに2つ目の溜息をつかせないようにと、ホームルームを告げるチャイムが鳴った。